紙は神だっ!

イヤマナ ロク

紙は神だっ!

 それは紛れもない事実である。

 そう信じている男がいた。彼にとって植物紙や羊皮紙。全ての紙が信仰の対象なのだ。

 彼にとってコピー用紙は仏像であり、彼にとって製紙工場は神社で、彼にとって紙の発祥地中国はエルサレムだ。

 そして彼は紙を道具として使う文明人類を憎んでいる。教科書の存在に腹を立て学校はまともに通っていない。「御神体にウ⚫︎コつけるなこの糞がっ!」というのでケツが汚い。紙幣に対して「お前らは仏像に人の絵を描くのかアァン!」と言うので、PayPay支払い。中国批判を許さないので5chで要注意人物。絵画にトマト缶を投げようとする。人ん家の障子を勝手に持って帰る。そこかしこで「神を敬え!」と怒鳴り散らす。警備員に摘み出され泣き喚く。そんな調子で何時も迷惑行為を働く。

 こんな人間が25まで生きて行けるのだから神様も人が悪い。

 「ウチの子に何かあったらどう落とし前付けるつもりですか!もー!」母親が怒鳴り散らした。

 彼は今日小学生を追いかけ回した。彼にとって学生は全て敵だ。

「神に仇なすものに制裁を加えようとしただけだ!」と言う彼を

「わかったから落ち着いてください!」と数人の初老のスーツ姿の男達が取り押さえる。

「誠に申し訳ございません。」と男達の1人が謝ると

「何故アイツに謝らせないんですか!大体貴方方は誰ですか!」と母親は言葉を荒げる。

「あの…彼は…ああ見えても我が社の社長なんです…。我々役員でして…」

 彼は印刷会社の社長なのだ。と、言っても跡継ぎボンボンで経営に関わっていない。それどころか「カミサマをいじるなこの狼藉者が!」と社員を怒鳴り散らす始末。ただ社員達も

(何で狼藉者なんて言葉知ってるんだあの人?)

(水戸黄門に影響されたんだろ。)という具合に鍛えられてる。朝礼にも顔を出さない。というか出させれない。そんな役員の不安な種はもちろん社長だ。

 1人の役員が呟いた。「今回の件も何とか和解できたがこれからどうしますか。このままじゃ逮捕も時間の問題だ。」

「確かに社長のアレは年々ひどくなって言ってる。幸い経営自体は上手く行ってるからこそ余計頭を抱える。」

「強制入院でも治らなかったからなぁ。打つ手無しだ。」そんなこともつゆ知らず彼は後日「紙は神だっ!」だとか「神を敬えバカ!」と騒音を撒き散らしていた。

 すると、同年代くらいの男が彼に声を掛けた。

「あの、すいません。」

「何だオメェ。」

「あなた紙を神だとか言ってますが…それは違うと思うのです。」

「おい、もう一度言ってみぃ。」

その男ははっきりとした声で

「だから、違うと申しているのd」

バカ社長は言い切る前に男の胸ぐらをつかんだ。

「何言ってんだボケェ!どうしてそう言い切れる!」

男は淡々と切り出す。

「逆に聞きますが、どうしてあなたもそう言えるのですか?」

「どうしてって、俺がそういうならそうなんだよ!」

「ひどいですね。答えになっていない。」

と男はため息交じりに答える。

「じゃぁオメェはどう思うんだよオメェはよぉ!」

すると男は自分の頭を指差して、

「髪が神なのです。」

「!」

 同類だった。

「どうしてそう思うんだ!」

「私がそう言うからそうなんです」

「めちゃくちゃだぁ!」

その後もバカ2人の問答が続く。

「紙こそが神なんだ!」

「いいえ髪こそ神です。」

「紙だ!」

「髪です!」

「紙だ!」

「髪です!」

「神!」

「髪!」

「神!」

「髪!」

 すると、突然2人の頭上に雷が落ちた。2人は即死だった。

 神様は案外人々のことを見ているかもしれない

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紙は神だっ! イヤマナ ロク @bwh

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