第7話
電車から降りて、数分の所にある映画館へと行く。
席を取り映画が始まる前まで、まだ時間があったため近くのカフェで本を読みつつ時間を潰す。久しぶりと言ってもいい程の外出だったため、テンションはいつもより少しだけ高い。
私はあまり外出が好きではなかった。
外に出ることが嫌いというわけではなく、外に出たら必ずと言っていい程、知らない男から声を掛けられるのが嫌だったから。
外出は好きだけれど、男のせいで外には出られない。本当に、男なんて全員滅べばいいのにと何度思ったことか。でも……そんなことを思っている私が今日は外出をして気分転換をしようとしている。
いつもなら、家で映画やお母さんと料理をして気分転換をしていた私が。
なんでだろうと己に問いかければ、うっすらとだが頭の片隅で隣の男子生徒の顔が思い浮かぶがそれを認められずに頭を振ってその思考を追い出す。
きっと違う。今日は気分がいいからなど言い訳染みたことを考えていると時間が結構立っており、映画が始まる十分前くらいにまでなっていた。
慌ててカフェから出て映画館へと急ぐ。
どうにか間に合わせて自席へとつき映画を見ることに集中することにした。
二時間後、私は何とも言えない気分になりながら映画館を出ることになった。
色々と考えさせられる映画となっていて、なんとも評価しがたい映画だった。面白かったかと聞かれれば首を縦に振ることができるけれど、物凄く面白いかと言われれば首を縦には振りずらい。
もやもやとした気持ちを抱え、頭で映画の内容について考えながら帰りの電車を調べていると誰かから声を掛けられその瞬間思考が途切れ、思わず不快感がこみあげてくる。
こういうことが今まで何度もあった。だから私は外に出たくなかった。
「ねぇ、今暇かな?」
「........暇じゃありません」
「えぇー、そんなこと言わずにさ。本当にちょっとだけだし、絶対に楽しませるからさ」
私があからさまに不機嫌さをだしても、全然懲りた様子もなくその軽薄さを遺憾なく発揮して此方へとまだ絡んで来ようとしてくる。
「ねぇ、いいでしょう?」
「嫌です」
何度、嫌だと言っても此方へと絡もうとしてくるこの男に流石にウンザリしてしまう。だから嫌なのだ。男なんて。
私がこの男を振り切ってさっさと帰ろうとすると、強引に此方の肩を掴んで来た。私はピタリと固まってしまい、徐々に足が震えてくる。
恐怖がぞわぞわと足から這い上がってきて、無理やり掴まれた腕の方を見てみると化け物が此方を見ていたのだ。
「…ヒッ」
思わず口からそんな言葉にもならない声が漏れる。
誰か助けてなんて言おうとするが声が言葉となって発されることはなく口をパクパクしてしまい私は嫌々と首を振るしかなかった。そのままその男に引っ張られ何処かに連れられそうになった時。
「おい、止めろ。嫌がってるだろ」
そう言って私と化け物の間に入ってきたのは、最近聞きなれた声と見慣れた顔だった。その人は隣の男子生徒だった。
「はぁ?お前、この人の彼氏なの?」
「違うけれど、明らかに嫌がってるのが見えないのか?足も震えてるし怖がっているのが見えるだろう」
「…ッチ。分かったよ」
そう言って化け物は何処かへと行き、私は安心してその場にへたり込んでしまった。
「もう、あの人はいなくなったので大丈夫ですよ。白石さん」
「…あ、ありが、とう」
彼はへたり込んでしまった私と視線を合わせるために私と同じ目線に立って話してくれてやわらかく微笑んだ。
「立てますか?」
「……少し難しいかもしれません」
「じゃあ、少しだけ手を貸してください。周りからの視線も多いのでここは休むのに適していませんから」
そう言って優しく私の手を取って体を支えて立たせてくれる。
「近くにあまり人がいない公園があったのでそっちに行きましょうか」
「……はい」
私は彼に手を引かれながら、公園のベンチまで行きやっと腰を下ろせた。
「ごめんなさい。手を握ってしまって」
「いえ、大丈夫です。それに謝るのは迷惑をかけた私の方です。ごめんなさい。そして........ありがとうございます、水無瀬君」
そういうと彼は少しだけ驚いた顔をしてから優しく微笑んだ。
「初めて、呼んでくれましたね」
「……え?」
「苗字で呼んでくれたことです。嬉しいです、少しだけ白石さんと仲良くなれたような気がして」
そう言われて私も自分のことなのに驚いてしまい目を大きく開いてしまう。
私が男の人に対して、苗字で呼ぶなんてことをしたことはほとんどなかったのだ。大体はあなたとか君とか言って頑なに呼ぼうとなんてしていなかった。
私が何も言えずにいると彼は「何か飲み物買ってきますね」とそう言って席を立った。
きっと少しでも一人で整理する時間をくれたのだろう。私は何となくそう思った。
数分後、私の心の中も幾分か落ち着くと彼が帰ってきてお茶を渡された。
「ありがとうございます」
「どういたしまして」
彼はニコリとまた笑って、飲み物に口を付けた。
不思議と彼といるこの時間は不快ではなかった。今まで男がこんな風に隣に座って一緒にいれば虫唾が走っていたというのに。
........きっと、どこまでも優しい彼だからだろう。
もし他の男がこうして私の隣に座っていれば、私は耐えられないと確信を持てる。
「……水無瀬君」
「はい」
「どうして、私を助けてくれたの?」
私がそういえば、彼は不思議そうな顔をしてこう言った。
「困っている人がいれば助けるのが普通じゃないですか?」
「そ、それはそうだけれど」
「それに白石さんはクラスメイトですし、知り合いですから。助けない方がおかしいと思います」
そう何でもないように言った彼から目を離すことは出来なかった。こんな男がこの世の中にはいたんだと。私の中の常識が崩れ去るのを感じると同時に強烈に水無瀬君という存在が私の中で印象付いた。
「…水無瀬君は不思議な人ですね」
「そうですか?」
「はい。本当に」
その後も水無瀬君と少しだけお喋りをしてから、彼は私がもう立って歩けることを確認すると何処かへと行ってしまった。
........ほんの少しだけもう少しだけ一緒にいたいと心の中で思ったが、かぶりを振ってその思考を追い出した。
キモデブブサイクが三人の美少女を攻略するRTA かにくい @kanikui
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