第3話

そうして村を離れ、両親の姿が見えなくなった頃壁面の出っ張りに座っている護衛隊員に声をかけられ馬車の中に入る。


?「おうおう、感動的な別れだったな。わんわん泣いて。もう10歳だろう?」


先客がいたようだ。別れの現場を目撃されるなんて少し恥ずかしい。

ヒオは少しびくついた。


?「あんたも家族と別れたときわんわん泣いてたでしょ。」

?「う...うるさい!お前は黙っとけ!」


__何だこの二人。


カイ「俺はカイ・エルドリア、この子はヒオ」


ヒオは僕の腕をぎゅっと抱きしめている。


ヒオ「ヒ、ヒオです。ヒオ・アヴァローニ、です...」


あんだけ元気な子だったのに何故今こんなに恥ずかしがってるんだ?泣いていたシーン見られたからなのか、人見知りなのか...


ナイト「俺はナイト・ニライカだ。よろしくな泣き虫さん」

カナリア「私はカナリア・カナンよ。こいつの言葉は無視でいいわ。」

ナイト「おい、カナリアお前!」

カナリア「『母ちゃん...!俺まだ離れたくないよ〜!』ってギャン泣きしてたのはどこの誰だったかしらね」

ナイト「〜〜〜!!!」


ナイトは顔を真っ赤にしている。

カナリアの方は淡々と本を読みながら会話している。

ナイトはつんつん髪のやんちゃな男の子、カナリアはメガネをしている長髪の女の子のようだ。性格がまるで違うが、仲のいいようにも見える。幼馴染だからだろうか。


カイ「よろしく、ナイトとカナリア。」

ヒオ「よ、よろしくお願いします...」

カナリア「...とりあえず座ったら?」


空いている席を指差す。ナイトとカナリアは隣り合って座っている、その向かいに座る形になった。


カイ「二人とも仲良いけど、同じ出身地なの?」

ナイト、カナリア「「別に仲良くない!」」

ヒオ「そこハモるんだ...」

ナイト「カナリア、お前なんで俺の真似するんだよ」

カナリア「あなたの真似じゃなくて、思ったことを口にしただけ。」

ナイト「なんだとー!」

カイ「まあまあ、二人が仲良いのは分かったから...」

ナイト、カナリア「「だから仲良くない!!」」


話が進まない。この二人なんで息ぴったりなんだ?

ヒオの方を見ると俯いており、肩をプルプル震わせている。


カイ「ヒオ?大丈夫?」

ヒオ「だって...あまりにもこの二人が似合い過ぎてて...わ、笑いが...」


必死に笑わないようにしているようだ。小声でつぶやいた。

確かにこのやりとりを見てるとこっちも笑いそうになるが、笑ったら最後二人にめちゃくちゃ責められそうで笑うな...笑えない。


カイ「それで、出身はどこなんだ?」

ナイト「あ、ああ。マムリバってところだ。かなりでかい川があって、そこを起点に生活しているところ。俺はそこの商人の息子だ。」

カナリア「ここより西の方角、馬車で2時間くらいの場所にある。私もそこから来た。私は普通の家系よ、見ての通り本が好き。」


ナイトはかなり自慢げに話している。カナリアは本を見ながら淡々と話す。ほんとこの二人正反対だな。


ナイト「俺はシントヒル学院で商業科に進んで家業を継ぐんだ。」

カナリア「私は研究科行ってたくさん勉強をしたい。ナイトは商業科らしいんだけど、あんたの頭で無事卒業できるかしらね。」

ナイト「なんだよカナリア、急に振ってきて。俺といる時間が減るから悲しいんだろう?」


ナイトは少し煽るような発言をする。

それに対し冷静に


カナリア「いや別に。ただあんたの頭で商業科行ってもちゃんと卒業できるか珍しく心配してるのよ。算数もできないじゃない、あなた。」

ナイト「それはこれから勉強するんだろ!?一年の間は基礎的な勉強をするって聞いたぞ!」

カナリア「もう既に行きたい科が決まってるならそれに合わせて勉強を進めるのは当然のことだと思うけど。そんなんだと落ちぶれて研究科の手伝いするハメになるわよ。」

ナイト「なんだとこの本バカ女!」


ナイトは顔を真っ赤にしてカナリアに掴み掛かろうとする。それを止めようとカイは動き出すが、それより先にカナリアは持っていた本を閉じナイトの顔の前で寸止めをする。

急に目の前を遮られたナイトは勢いにブレーキをかけるが間に合わず、そのまま本に顔をぶつけてしまう。


ナイト「ってぇ!」

カナリア「...あっ。」

カイ「大丈夫かナイト!?」


おでこを抑えるナイトに駆け寄るカイ。少し赤くなっているが大したことはない。

護衛隊員の一人が声を掛けるが、大丈夫であることを伝える。

カイはナイトの顔を見ると、だんだん涙目になってることに気づく。


カイ「ほんとに大丈夫か、ナイト?」

ナイト「...」

カナリア「ナイト...私がわる

ナイト「うわあああん!!!!」


急に泣き出した。よほど痛かったのだろうか。


ヒオ「ナイトくん、ど、どうしたの?痛かった?」


人見知りしていたヒオも駆け寄る。ヒオはナイトの頭を撫でているが、泣き止む様子はない。

そうして数秒大声で泣いたのち、掠れたような声で


ナイト「俺だって親から離れて寂しんだよぉ!カナリアと一緒だから我慢してたんだぁ!俺の何が悪いんだよぉ!うわあああん!!」


募りに募った思いをぶちまける。そうだ、僕らは10歳だ。10歳で親元離れるなんてすごく辛いことなんだ、まだ親に甘えていい年なのに政策のせいでこんな...

流石に罪悪感を感じたのか、オロオロとするカナリア。本人もこんなことになるのは想定外だったようだ。

本を椅子に置き、ナイトの前にしゃがみ込む。


カナリア「わ、悪かったよ、ナイト。ごめんね、一応私なりに心配したつもりだったんだ。その、恥ずかしくて口が悪くなって...」

ナイト「ひっぐ...ひっぐ...」


あんなに冷静だったカナリアの口から出るのは優しい言葉。冷静で落ち着いて口がすこし悪いなって思っていたが、ちゃんと人の心配できる人だったんだと安心した。


カナリア「私も親から離れるのは寂しいよ、でもナイトがいてくれたから安心してこの馬車に乗ったんだよ。」

ナイト「うぅ...ほんとか?」

カナリア「ほんとよ、だからあなたも安心なさい。」

カイ「僕も親元離れるのすごく悲しかった。ナイトだけじゃないよ」

ヒオ「私もすごく泣いちゃった。だから気持ちよくわかるよ。」


カナリアの言葉に耳を傾け、更にカイとヒオの言葉に安堵するナイト。だんだん泣き止み、落ち着いてきた。

すると後々思い返して恥ずかしくなったのか、隅の席で体育座りして顔を埋めた。耳が真っ赤である。


カイ「落ち着いてくれてよかったよナイト。このことは僕たちだけの秘密にしよう?」

ナイト「...」

ヒオ「私も誰にも話さないから...!」

カナリア「顔を上げなさい、あなたのこと誰も恥ずかしい人とは思ってないわよ。」

ナイト「いや、ちょっと今はもう少しこのままでいさせて...」


ナイトはしばらく恥ずかしそうにしていた。


...数十分は経っただろうか、やっとナイトは顔を上げた。

未だ顔は紅潮し、目元は腫れているが多少は気持ちの整理が落ち着いたのだろう。


ナイト「はー...もう二度と泣かない。」

カナリア「やっと顔を上げたのね。そのまま学院に着くまで顔を伏せたままかと思ったわ。」

ナイト「...さっきまでの優しさはどこへいったんだ」

カナリア「私は常に優しいわよ?」

ナイト「ははは...」


優しいかもしれないが、口調が淡白で感情が乗っていないから優しくは聞こえない。

しかし考えてみたら言葉自体はナイトを気にかけているようにも聞こえる。

...案外ナイトのことを気に入っているのかもしれない。


ナイト「それで、カイとヒオはシントヒル学院へ行って何を勉強するつもりだ?」

カイ「ああ、僕たちは冒険科に行って冒険者になろうと思っているよ。」

ヒオ「そう!私は冒険者になるのが夢だったんだー!だから今から学院での生活はとても楽しみ!」


ヒオがテンション上がっている。寂しさもあるが、楽しみが上回ったようだ。


ナイト「へぇ、二人とも冒険科か。確か冒険科って近接戦闘と魔法に分かれてなかったか?」

カナリア「そうね。冒険科といっても二種類に分かれているわね。あなたたち二人はどっちへ志望するのかしら」


考えたこともなかった。

そうか二種類に分かれているのか、ヒオが行く方はおそらく...


ヒオ「それならもちろん近接戦闘の方かな!私体動かすのとっても好きなの!」

ナイト「女の子なのに近接戦闘か、そりゃ結構大変じゃないか?」

カイ「確かに体力面や力のこと考えたら男よりは劣るかもしれないが、ヒオはかなり動ける方だから大丈夫だとは思うが...」

カナリア「ごっこ遊びと本物は違う。おままごとが出来るからって料理が出来るかは別よ。それに落ちぶれたら卒業まで研究科の下でずっと手伝いよ?編入制度があるとはいえ慎重に選ぶ方をお勧めするわ。」


ヒオの心配をするナイト。

本を見ながら淡々と喋るカナリア。

どちらも心配をしてるのが目に見える。

まて、今結構大事なこと言ってなかったか?


カイ「編入制度あるのか?あと落ちぶれると研究科の手伝いってのも...」

カナリア「そうよ、5年の在学中1年目は基礎的な勉強をして2年目から各希望の科目に分かれるの。そこから半年後に、ついていけない生徒やギャップで勉学する気力がなくなった生徒の救済処置として編入制度があるのよ。」

ヒオ「そうなんだ。一回までは助けてくれるんだ。」

カナリア「そうとも捉えられるわね。まあ編入制度使った生徒は大体編入先でもついていけず、研究科の手伝いって形で単位取って卒業って感じになることが多いけれど。」

カイ「そういえば何故研究科の手伝いになることがあるんだ?」

カナリア「研究科は中でも頭がいい人たちが国の発展を続けるために研究する基礎を身につける場所だからかなり忙しいのよ。そうすると荷物の運搬や片付けなどとても手に負えないらしいのよ。それを落ちぶれてしまった生徒が手伝いとしてこなすことによって研究科としての単位をもらうことになってるわ。」

ナイト「だからみんな入学前からかなり考えてくるみたいだぜ?」

カイ「なるほどな...」

ヒオ「私は絶対近接戦闘の方を学びに行くよ!夢を叶えるためにすごく頑張るよ!」


救済措置とはいえ、確かに落ちぶれたくはない。慎重になるのもすごくよくわかる。

ヒオについていくつもりだったが、そうなると話が変わる。魔法について勉強しながらと思っていたが、魔法の方をとるとヒオと一緒にいる時間も減ってしまう。かといって近接戦闘出来るほど体を動かせるわけでもない。


ナイト「ヒオのことは分かったけど、カイは冒険科どっちへ行くんだ?」

カイ「僕は...」


ヒオを見る。ヒオはこちらの視線に気付くと笑顔を返す。本当に冒険者になりたいわけではないが、あんなに泣きじゃくっていたヒオを一人にはさせられない。

少しの間、ヒオの顔を見ていた。笑顔を見せていたが流石に恥ずかしくなったのか目線を逸らす。

ヒオは勘付いたのか、カイの方を向き


ヒオ「カイ、私なら一人でも大丈夫だよ。カイはカイのやりたいこと学ぼうよ!それに勉強以外でも一緒にいられるはずだから」


朝にあんなこと言った手前、流石に自信は無さそうに見えるが本人が言うなら...

ナイトとカナリアの方を向き


カイ「僕は...魔法を学ぼうと思うよ。ヒオのことは心配だけど、魔法学んでヒオのサポートができたらいいなって」


ひとしきり言葉を並べ、ヒオの目を見て手を取る。我ながら恥ずかしいことこの上ない。

ヒオの方も手を取る行動にはびっくりしたようで、呆気に取られている。


ナイト「なんだカイお前、結構やるじゃねーか!」

カナリア「魔法なら近接戦闘の補助や攻撃に転用も出来るからいいんじゃない?」


ナイトはニヤニヤしながら、カナリアは相変わらず本を見ながら。

握った手をヒオは握り返して


ヒオ「よ、よろしくお願いするわ、カイ!」


紅潮する頬、目線を逸らすヒオ。

一瞬ドキッと来たが、段々笑いが込み上げてきた。


カイ「...あ、あははは!!」

ヒオ「な、何よ!」

カイ「いやいや、自分でもらしくないことしたなって思ってたら、ヒオもそれに真面目に返すんだから笑いが...はははは!」

ヒオ「〜〜〜〜!!!」

ナイト「君たちお熱いねぇ!カナリア、俺らは歩いてシントヒルに向かうか?」

カナリア「バカいってんじゃないわよ。まだかなり距離あるからもう少し乗せていて貰いましょう。」

ヒオ「二人とも茶化さないでー!もう、カイのばか!」


笑い続けるカイ、紅潮しきって涙目になるヒオ、それを見守るナイトとカナリア。

4人乗っている馬車は賑やかに、シントヒルへ向かい続けている。

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兄妹異世界冒険譚 獄江天佳 @hellorheaven

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