第4話はじめてのご注文はふしぎな子3

 魔法の内容を想像しながら読んでいただけると楽しいかもしれません。






「ただいま〜」

「カズ、お早い帰宅であるな。もう根を上げたのかの?」

「いやいや、聞いて驚け!『きれいな石』の入手方法、しかと掴んで来たのだ!」

 バッ、とマントの裾を跳ね上げカズは自慢げに声を張り上げる。なんと、モノクロはそれに本気で驚いた表情を見せた。

 カズはダンジョン探索の準備のため、『新米勇者』一行と別れた後、自らの店に戻って来ていた。

 ちょうどその、帰宅直後の場面である。

 そこからカズはことの経緯をモノクロに話し、『きれいな石』を手に入れるため、『新米勇者』一行とともにダンジョンへ向かうことを告げる。

「カズが情報をあっさり手に入れれたのは、結局ただの幸運であったと言う訳か。」

「いやいや、僕がこの街で結んできた縁のおかげであると言ってほしいね。」

「はん、その『新米勇者』との縁も私が手伝って繋いだ物ではないか。」

「それを言われると痛いねぇ…。」

 駄弁りつつもカズは生活空間として利用している屋根裏部屋へと向かう。

 ベッドに戸棚、机などの家具が部屋の形に沿うように置かれており、狭い空間を最大限に利用できるようにという努力が垣間見える。

 また、その他にかなり大きな書見台、そしてその上に開かれた白紙の本が置かれているが、その特徴的なオブジェには向かわずに戸棚の方へと向かう。

 そしてその中から数冊の本を取り出して机の上に乗せる。また、懐から少し分厚めの手帳も取り出しそれもまた机の上へ。

 取り出して来た本を開くカズ。その本の中には文字ではなく、いくつもの現像写真が収められている。アルバムであるらしい。

「ふむ、モノクロ。今回はどの写真を持って行くべきだと思う?」

「そうであるな、今回は…」

 いつも憎まれ口を叩いているモノクロも、この時ばかりは真剣な様子である。

 さて、カズの魔法は写真から力を引き出し行使する物だ。当然写真の種類に魔法の種類は左右されるし、写真の数に使える回数も左右される。

 であればなるべく沢山の写真を持ち歩いておくべきかと言われればそうでもない。

 まず、嵩張るのだ。写真そのものは薄い紙だが、損傷させないためにそれなりに頑丈な入れ物が必要だ。これが嵩張る。そして重い。地味に思えるかもしれぬが、死と隣り合わせのダンジョン探索において身軽さと装備の充実さのバランスは重要である。

 また、戦闘時に一々莫大な数の写真から必要な物を探し出す手間をかけるというのもいただけない。それならば始めから手札を絞って即座に使えるようにしておいたほうが良い。

 そのために、カズはこうして溜め込んでいる写真から必要に応じて何枚か選び出し、持ち歩き用のアルバム、先程取り出した手帳に入れてダンジョン探索に赴くようにしている。

 一応、他にも換えのきく、そして即座に使う必要が生じそうでない写真であれば纏めて頑丈な箱に入れて、腰に巻いているベルトに引っ掛けていたりもするが。

 とはいえ、ここでの写真の吟味、すなわち使える魔法の吟味は命に直結する重要な選択であるのだ。

「えっと、今回の目的は特定の物の収集だから…」

「うむ、それはあったほうが良かろうな。他にもこれはどうだ?」

「あ、確かにどの程度の割合で持ってるかもわからないし連戦になる可能性もあるね。と、なるとそもそも疲労を溜めないために…」

「む、それも持って行くのか?補充もきかぬしわざわざ持ち出すほどでは…」

「いや、強力といえば強力だけどなんだかんだ使い勝手も悪いから。それに、貴重だからって使い渋って命を落としたり目的を果たせなかったら本末転倒だよ。」

「そうであるな。であればこれもセットで…」

 アルバムを行ったり来たり、カズとモノクロは話し合いながら今回の探索に持っていく写真を選んでいく。

「よしっと、これでいいかな。」

 選び出した写真をアルバムから手帳に移し変えながらカズが言う。

「うむ、あとは箱のほうに纏めているものも確認しておけ。」

「りょーかい。」

 革を金属の枠と木の板で補強した手のひらより少し大きい箱を戸棚の引き出しより取り出す。その中から束になった写真を取り出し枚数と種類を確認していく。

「あー、これちょっと少なくなってるね。モノクロ、確認促してくれてありがと。」

「む、礼を言うのであれば今度美味い魚でも買ってこい。」

「もちろん。さてこれはこっちの棚だっけか。」

 そうして、幾つかの写真を補充した箱を腰ベルトに吊るす。写真を収めた手帳もマントの内側にしまい、あとはダンジョン探索に必要な道具類をまとめたポーチをベルトに吊るし準備完了である。

「さてと、モノクロ。広場の方に向かおうか。」

「うむ、ダンジョン探索は久々であるな。緊張はしておらぬか?」

 モノクロはひょい、とカズの肩に飛び乗りつつ冗談めかして問いかける。カズはそれを鼻で笑い宣うのだ。

「緊張?『新米勇者』一行だなんていう"面白い"奴らの冒険をそばで見れるんだ。そんなものしている暇あるか?」

「はっ、最近大人しくしておったが治っておらぬようだな。その"冒険譚狂い"は。」

 モノクロは、慣れた様子で鼻をならす。

「当然。」

 カズはそう一言返事をして、また店から出て行った。向かうはこの地方最大のダンジョン、ヒューディ塔。その、低階層である。




「うーん、散々準備したけど今回行くのって低階層なんだよね。」

「油断か?良くないぞ。ここのダンジョンは今までのダンジョンとは規模が全く異なるらしいからな。」

「ま、そうだよねぇ。それに準備してしすぎるなんてことは無いわけだし。」

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道具屋『軌跡のカケラ』 河童 @ti_kazu_kappa

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