不思議な乗客 /三題噺/モデル/タクシー/アリバイ

雨宮 徹

不思議な乗客

 ある晩、私は客を探してタクシーを走らせていた。都会に出れば客はすぐに見つかるだろう。今は十九時だ。飲み帰りの人が見つかるはずだ。


 そう思っていた矢先に、歩道から女性が手を挙げている。ラッキーだ。問題は行き先がどこかだ。近場はごめんだ。

 女性はタクシーに乗り込んでくる。スラリとしてモデルような女性だ。二十代といったところか。

「どこまでにしましょうか?」

 私の問いに紙片を渡してきた。

「ああ、ここね。メーター入れさせてもらいますね」

 行き先はかなり遠くだった。こいつはいいぞ。

「お客さん、それにしても、今日は暑いですね」

「……」

 どうやら、話したくはないらしい。そういう客もいる。私は黙って目的地を目指す。

 

 すると、途中で警察の検問に出くわした。

「そこのタクシー、止まりなさい」

「はいよ。何か事件でもありましたかい?」

「ああ、殺人事件がな。犯人はタクシー運転手だと判明している」

「まさか、私を疑っているんで?」

「当たり前だ。十九時ころ、お前はどこにいた? 仕事上、アリバイを聞かねばならん」

「後ろの乗客を乗せて、目的地に向かっていた時間です」

「後ろの乗客? どこにいるんだ?」

「だんなの目は節穴かい? ほら後ろにいるだろ?」

 そこに女性の姿はなく、シートが水でびしょ濡れになっていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

不思議な乗客 /三題噺/モデル/タクシー/アリバイ 雨宮 徹 @AmemiyaTooru1993

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ