3話 プロスペルの森で コウタと


「うわぁ、これも食べられるの?」

 肩車で持ち上げたコウタが嬉々として果物をもぎ取る。ちっこい身体を疑いもせずに預け、眩しそうに空を見上げる奴に、柄にもなく頬が緩む。


 穏やかな朝だ。

 この季節、屋根と壁があるだけで、冬の厳しさは全く違ってくる。

 野営と言いつつ、キールとコウタが土塊つちくれ小屋をおっ建てた時は頭痛がしたが、まぁ跡を残さねば良いかと許可をして正解だった。

 ただでさえ目につくエンデアベルトだからな。領主の俺には普通に見せかける責務がある。


 ここプロスペルの森は、険しく危険な山の麓の小さな森。地熱のおかげで雪はあまり積もらず、人の手も滅多に入らないからたくさんの恵みに溢れている。


 薬草も多いが不思議な果実も多く、今コウタがもいだ三角形の串団子のような果物もその1つ。


『ピピ、ピピピピピ』

 青い小鳥のソラが硬めの殻から芳醇な果肉を突き出し、串のような部分をフゴフゴと齧り付いたコウタ。その頬を伝う溢れた果汁をグランのジロウがペロと舐める。

 普通なら滅多に姿を現さない、ほの光を帯びた幻獣達が、俺達の足元をウロチョロし、まだらに浴びる木漏れ日が濃緑と薄黄を際立たせている。


 『楽園』とは、このような場所を指すのかもしれない。俺達は手に手に気になる果実をもぎ、間も無く帰宅の途につこうとしていた。


▪️▪️▪️▪️



 一方、このプロスペルの森に隠れ潜んでいた盗賊の残党。昨日、近くの集落を襲うためかしらの命を受けて待機していた輩。


 間も無く本格的な冬を迎えるこの季節。盗賊らは村といえないほどの小集落を全滅させて冬を越す。集落を丸ごと潰して仕舞えば、彼らの冬の蓄えで春まで遊んで暮らせるからだ。


 だが、仲間からの連絡が途絶え、不審に思って拠点に戻ろうとしたとき「盗賊討伐」の狼煙のろしを確認した。


 それは討伐の許可を受けたパーティが残すギルド承認の印。名のある盗賊ならば討伐の証拠を持参すれば賞金がもらえる。だが、そうでない場合、狼煙のろしを確認したギルドが正当な討伐か否かを調査する。(まぁ、見つけられずに終わることも多いが)

 これは無闇に殺人を合法化させないための国の決まりなのだ。


 “相当ランク“の冒険者が来た。

 残された野盗は途上に暮れた。集落を襲うほどに戦力はなく、かといってここは開けた荒野だ。下手に姿を現す訳にもいかない。ほとぼりが覚めるまでプロスペルの森に隠れよう。幸いここは外よりも暖かい。


 そんな時だ。場違いの賑やかさを晒すパーティとは思えぬ集団を目にしたのは。


 いいが来た。

 そう思ったのは束の間の一瞬。一眼見て自分達では到底敵わない強者の集団。おそらくかしらを殺ったのもあいつらだろう。見つかる訳にはいかないと薮に潜んで息を殺す。


 

 夜の間に逃げようか、そう考えた彼らの目には雄々しき漆黒のオオカミの姿。下手に動いて襲われたらひとたまりも無い。無風で穏やかな夜であり続けることを祈って、まんじりともしない夜を過ごした。


 グウと鳴る腹を冷や汗で宥め、奴らの朝食を見守る。昨夜の簡易小屋にも腰を抜かしたが、野営でナイフやフォークを使う食事をするとは。俺達は、味のない固くパサついた携帯食と見比べる。

 暫くすると、ボスらしき男が馬に乗って颯爽と飛び出す。ついで紳士な男も跡を追う。

「肉が足りねぇ」

「やりすぎるんじゃ無い」

 どこぞの噂の暴君だ。擦ったもんだと聞こえた声が幻覚でなければと思う。

 だが敵が減るのは有り難い。ひ弱な子供とドレスを召した貴婦人さえ人質にすれば俺達に勝機が訪れる。


▪️▪️▪️▪️


「コウタ様〜、あまり遠くに行ってはいけませんよ〜」

「大丈夫、ジロウもソラも一緒だから!」


 白い光が差し込む森の中。メリルさんの心配をよそに、ふわふわと漂う幻獣らを追いかけて、柔らかな草の上を走る。冬なのに暖かい不思議な森。鬱蒼とした木々と薮が広がる世界にポカンと開けた場所に出た。


『コウタ、こっちこっち』

 ピピと青い小鳥のソラがオレを呼ぶ。わぁ、シュガシュガ草。かがんで手を伸ばそうとした時、ドサっと被せかかってきたのはG《グラン》のジロウ。その重さにペタと転がると、光を帯びた幻獣達がオレの顔をぺろぺろと舐め回しに集まる。


 うふふ、くすぐったい。

 コロコロころり。

 リスもうさぎもチビ猿も。幻獣になった柔らかな獣の毛はオレの吐息でふわりと揺れて、お日様の匂いを運んでくる。


「あぁ、幸せねぇ。可愛いがいっぱいよ」

「ええ、癒されますぅ〜」


 互いにもたれかかってオレ達を眺めるサーシャ様とメリルさん。狩り足りないと出て行ったディック様達を待つ間、オレ達はのんびりタイムだ。アイファ兄さん達パーティも各々で薬草や木の実を採取している。


 うーん、やっぱりこれは家族旅行。パーティで活躍なんかできないなぁ。

 オレはチラと企画者様の顔を思い浮かべ、ふと知らなかったと苦笑いした。



 ガサッ。ゴソッ。

 少し離れた茂みから不思議な音がする。不思議って言ったらアレかも知れない。ジロウとソラとそっと近づく。


「わぁ!」

「「「「 わぁ!」」」


 残念。妖精さんじゃなかった。薄汚れたオジサンが抱き合ってオレを見ている。いつもだったらきっと事件の香り。でもよかったね。


 宣伝用のサイドストーリーがちっとも終わらなくて作者が力尽きているから。大事にはいたらないよ。

『ピピピ、アイツYokoちー、結構雑な奴よ! まとめてピーー殺っちまうかも』


 ソラの念話が聞こえたのか聞こえてないのか? 焦ったオジサン達が一本指で唇を押さえて、琥珀色の液体が入った瓶を差し出した。


「ねぇ、オジサン達、何してるの?」

「ば、馬鹿! 喋んじゃねぇ!」


「オレ、馬鹿じゃないよ。賢いって言われるもん。ねぇ、この瓶って、もしかしてお酒?」

「決まってんだろう! 静かにしろ! それもって、ほら、あっちに行けってんだ」


「えぇ? 駄目だよ。 知らない人に物をもらったら、家の人に言わないと。ほら、お礼もしたいしね」


「ば、馬鹿野郎! じゃぁ、それ返せ」

「ええ?! でもこれくれたの、そっちのオジサンだよ」

「坊や、いいから、持ってお行き。ほら、家の人には後でゆっくり言えばいいさ。オジサン達、急いでるから」

 にこにこと後退りするオジサンその2。うーん、なんだか怪しい。

 はっ、そうだ! 知らない人から何か貰っちゃいけなかった。これって誘拐される?!


「ア、アニキ、このまま逃げましょう」

 ササと後ろを向いて逃げようとするオジサンその3。

 駄目だ、これ、もらったら誘拐されなきゃ! 違った。 叱られるから返さなきゃだった!


「ジロウ、お願い」

ワオーーーーーーン!


 さすがフェンリルの亜種。一声の雄叫びは森を震わせ、オジサン達をビビらせ、逃げようとする気力すら奪う。

 もちろんアイファ兄さん達パーティも瞬時に勢揃いだ。


「「「 う、うわぁーー、ち、違げぇ、お、俺たちゃ何もしてねぇ」」」

 尻餅をついて叫ぶオジサン達。オレはきょとんと首を傾げる。


 見下ろすアイファ兄さんにニヤけるキールさん。ニコル、指を鳴らすの、やめてあげて。ほら、オジサン達が鼻水出して怯えているよ。


「えっと、茂みで見つけたの。これ、くれたからお礼を言おうと思って。でも、知らない人に物を貰っちゃ駄目だって思い出したから返そうとしたんだけど」

 しどろもどろに話すと、はぁーーーーと大きなため息が聞こえた。


「犬や猫じゃあるまいし」

 ( い、いや、捨て置いて欲しいっす)


「貰う地点でアウトなんだけど」

 ( 確かに、いつもならそこで拘束だ)


「なんでガキに酒なんだ?」

(それしか持ってなかったんで)


「まぁ、まぁいいじゃない。コウちゃんなんだから〜」

(そうですよね、じゃぁ行っていいでしょうか?)


「ちょっと待ちな! まさか毒なんか入ってないよな?」

(ひぃいい、何でバレる?)


 じりじりと取り囲む兄さん達。一歩また一歩と後退しながら汗だくのオジサンず。

 待って待って! そんな怖い顔をして追い詰めたら普通の人も悪者になっちゃうよ。オレはキッと兄さん達を睨んだ。


「兄さん達、怖いよ。オジサン達、悪い人じゃないよ。だってオレ、誘拐されてないもん。これから友達になるんだから邪魔しないで!」

 ねっ! ってニッコリ笑顔を向けると真っ青な顔になったおじさんたちが全身でうんうん頷いてくれた。わぁ、やっぱりいい人だったね!

((( ひぇぇぇ、とんでもねぇことになっちまった )))


 そこにジロウの遠吠えを聞いたディック様と執事さんが到着だ。オジサン達をオレの友達って紹介したら冷たい目で頷いていたけど。うん、領主館に招いてご飯でも食べればきっとみんなも仲良くなれるよ!


 あぁ、やっぱりまだまだ続きそう。この後どうなるのか、いつか本編や閑話になるかも知れないけれど、宣伝はここでおしまい。

 ごめんなさい! 作者が企画を荒らしたよね?

 でも、もしこんな話でよかったら、オレに会いに来てね!

 「青い鳥と 日記 〜コウタとディック 幸せを詰め込んで〜」


 あっ、ディック様のお名前でクスッと笑っちゃう人がいたら、お願い、知らん顔をしてね! だって作者、知らなくて。とりあえず開き直ってるとこだから!



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青い鳥と 日記 〜コウタとディック 宣伝に来たよ〜! よかったら本編も読みに来てね! 〜 Yokoちー @yokoko88

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