ベッドに入った瞬間眠気が飛んでいく
二八 鯉市(にはち りいち)
眠気、どっかいった
いいや、確かにあったのだ。
髪を解きほぐし乾かしている時。
歯磨きをしている時。
明日の陰鬱な予定を考えている時。
眠気は確かにそこにあった。
だが、どうだろう。
枕の形を整え。
起床時間のアラームを確認し。
敷布団の冷たさに身もだえし。
安眠用の動画を流し始めた瞬間。
私の内部にあった眠気はどこかへと消えた。
煙のように消えてしまった。
もしや最初からなかったのかと思うほど、忽然と眠気は消えた。
なすすべなどない。
人間はこんな時どうしたらいい?
眠気を探すしかないのだ。
ベッドの隙間。
天井の向こう側。
雨で濡れそぼる窓の外。
あの雨がしみこんでいく灰色のアスファルトに、私の眠気もしみこんでいってしまったのではないか?
世界はそういう理不尽な輪の中から抜け出せない仕組みなのか?
いやそれはあまりにも悲観的過ぎる。
私の眠気はきっともっと別の場所にある。
信じて探し続けよう。
ほら、定期的なリズムは何も雨だけじゃない。
私を迎えに来る電車の音だ。
羊膜に包まれた世界の中で一人生きる人、あるいは惑星に置き去りにされた気の毒な人間、そして眠気に逃げられた私のような人間を迎えにくるある種の電車があるのだと相場が決まっている。
そうして電車に乗り込めば数多の分岐があり、分岐の先の先の先の先の先をたどるうち。
朝である。
夜は、終わったのだ。
ならば眠気は。
眠気はどこにいったのだろう?
ベッドに入った瞬間眠気が飛んでいく 二八 鯉市(にはち りいち) @mentanpin-ippatutsumo
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