幕間 牧野が五十嵐に胸を揉まれる話
第39話冒頭の「いろいろ」の詳細です。
〇 〇 〇 〇
ご飯を食べたあと、今日も五十嵐は一番風呂に入った。
確か一番風呂は健康に悪いんだったね。優しさを嬉しく思いながらバスタオルやパジャマを用意していると、下着を買い忘れていたことを思い出した。胸に顔をうずめたときのふにふにまで思いだしてしまって、顔が熱くなる。
あれだけボリュームがあるのなら、下着のサイズが合っていないのではないか。窮屈なのはあまり良くない。ショーツだってそうだ。何日も同じの履くなんて、最悪だ。
合うかは分からないけれど、試しに私の下着を持ってくる。自分が履いてたのを五十嵐に履かせるって、もはやただの変態だ。でもまぁ、窮屈なブラや汚れたショーツを履き続けるよりは、ずっとましだと思う。
別に、邪な気持ちなんてない。善意100%だ。いや、90? いやいや、80くらいかも。……って何を考えているんだ。なんだか五十嵐に毒されている気がする。
とにかくサイズが合うのなら、私の下着の方がましだと思う。
脱衣所に向かって、すりガラス越しに五十嵐に呼び掛けた。
「五十嵐。下着置いとくからつけてみてね。サイズ合うか分からないけど」
「買ってくれてたんですか? でもいつの間に?」
天宮のマネージャーさんが買い物袋を私の部屋まで届けてはくれた。でもその中には下着なんて当然ない。買ってなんていないのだ。だから私はささやいた。
「……その、私のだけど、良ければ」
ぱちゃぱちゃと聞こえていた水音が、消えた。
「えっと。嫌ならいいんだよ。私のなんて付けたくないよね。ごめんね」
顔を焼けるほど熱くしながら、私は棚から下着を回収した。でも脱衣所を出ていこうとすると、呼び止められる。
「むしろ、付けたいです。……あ。断じて変態とかではないです」
何やらもごもごと言い訳のようなものが聞こえてくる。でも結局は、そのどれもが無意味なものだって理解したんだろう。「むしろ、付けたいです」なんて口に出してしまった時点で負けなのだ。
浴室はまたしても静まり返る。
「……ごめんない。私、変態みたいです。牧野さんの下着、つけてみたいです。でも仕方ないですよね!? だって好きなんですから。大好きなんですからっ。……えっちしたいって気持ちだって、あるんですから」
どう返答すればいいのか分からない。でも無言のままでいるのは、五十嵐に恥ずかしさの全てを押し付けるみたいで嫌だった。私にも邪念はあるのだ。……多分、善意は50%くらいしかない。
「私も同じ気持ちだよ。……つけてくれると、嬉しい」
どうにかなってしまいそうだった。恥ずかしさのあまり死にたくなるって、きっとこういうことを言うんだろう。
「……その、お風呂あがるので」
「あ、ごめん。すぐ出ていくね」
私はすたすたと大急ぎで退散した。ソファでもぞもぞしながら待っていると、やがて五十嵐が現れる。とんでもない会話をしたせいで、まともに視線も合わせられない。
「どうだった?」
「えっと。意外とぴったりでした」
どうやら私と同じくらいあるみたいだ。っていうか、それってずるじゃない? 五十嵐はモデルさんみたいなスタイルなのに、しかも私と同じくらい胸もあるって。
いやでも、五十嵐って私の恋人なんだよね。いつか、本当にえっちとかするんだよね……。嬉しいような、敗北感がにじむような。なんだか複雑な感情だ。
「……でも前、小さいことを気にしてるみたいな発言しなかった?」
確かここで初めてお風呂に入ったとき、自分ほど美しいのなら欠点すらも長所になってしまう、みたいなことを言っていた気がする。
「ブラのサイズで勘違いしてたみたいです。これまでのでも意外となんとかなっていたので。でもどうやら、私は完璧な美少女のようですね。完璧な顔に完璧なスタイル。流石私です」
後光が差すほどのどや顔だった。思わず苦笑いしてしまう。
「牧野さんも嬉しいでしょう。完璧な私といつかえっちするんですから」
「……なんていうか、敗北感」
「えっ」
いざそういうことをすることになって、お互いに素肌を晒し合って。せめて胸だけでも勝っていたのならまだ平常心は保てると思うけど。なんていうか今のままだと申し訳なさの方が勝ってしまいそうな気がする。
「いや、嬉しいよ? でも私の唯一の取り柄すらなくなちゃうのは寂しいよ。というか申し訳ない」
肩をすくめていると、突然五十嵐は両手をわきわきさせ始めた。
「胸を大きくする方法、教えてあげましょうか」
わきわきする手をみつめて、冷や汗を流す。いくら何でもそれはまずい。私はソファから立ち上がり、笑顔の五十嵐から後ずさりして逃げる。
「大丈夫です。牧野さんが理性で耐えればいいだけですよ。私も頑張ります。牧野さんを襲わないように。だから私に任せてくれませんか?」
情欲の炎を瞳にたぎらせた五十嵐は、どう考えても野獣だった。けど狭い部屋では逃げられない。ベッドの上に腰をついてしまう。
恐れもある。でも好きな人に触ってもらいたいという気持ちもあるのだ。我慢できるかはともかくとして、とても魅力的に思える。私は目を閉じて、五十嵐に体を差し出した。
「……えっちは絶対にダメだからね?」
「善処します」
私の肩を押した。善処できそうにない欲情しきった顔だけど、今は五十嵐を信じるしかない。ベッドの上でぎゅっと目を閉じて、息の荒い五十嵐に身を任せた。
幕間 終
絵画の神様に愛された彼女は、世界の全てに憎まれていた 壊滅的な扇子 @kaibutsu
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