A国首相の手記
私たちA国と交流したいという申し出があったため、地球で宇宙からの来訪者を歓迎することとなった。A国首相である私は直接宇宙人と会うことになった。
来訪者は、部屋に現れるとともにいかにも高等な技術が詰め込まれていそうな小さな機械でをかざし、
「こんにちは、我々の口ではあなたたちの言葉を発音することが難しいため、こちらの自動通訳を使って交流させていただきます。」と人工音声に話させた。
さらに「この機械は言葉の解読をするために使います。かざすだけで解読できるので使い方も簡単です。」と続ける。
「音声以外の記号などを用いた暗号解読にも使用可能です。地球程度の言語レベルでしたらどんな暗号でも解けるでしょう。」
なんと素晴らしい機械だろうか。現在戦争中の巨大帝国B国の暗号はこれで筒抜けという訳だ。
「いくらでも払うからぜひ買わせてくれ!」というと
「いいですよ。」とあっさり了承してくれた。どうやら宇宙人はセールスマンだったようだ。
「いくらでも払うから、B国のものには売らないでくれ」と追加しても、
「分かりました。この自動通訳は売りません。」と素っ気なく人工音声が返答した。
そうして我がA国はこの戦争に勝つため、軍事費用の大半をこの小さな機械に使用した。宇宙人は満足げな顔で去って行った。
そうして私は陸軍大将にこの小さな機械を手渡し、世界を二分した長きに渡る戦いの終わりを確信し、安堵した。B国には技術でも、戦術面でも負けていたが、運では勝ったらしい。別次元の技術力で自慢の技術力がねじ伏せられるB国が少し気の毒に思えてきたが、それも勝てるのだからもうどうでもいい。
しかし安心していたのも束の間、陸軍大将から、暗号が解けない、と通達された。
どうやらB国は宇宙人セールスマンから暗号を買ったらしい。しかし、幸いにもA国の財力はまだまだある。今度はありったけの国家予算を宇宙人に渡し、その暗号を私たちに売れと要求した。すると、
「先客様とのご約束で、暗号は売れません。」納得した。しかし、何か対抗手段はないだろうか、と考え、一つのアイデアが思い浮かぶ。
「ミサイルなんかは売っているか?」
「そんな物騒なものは売っていません。」恐らくこの宇宙人は平和な星から来たのだろうと、感心した。そして我が星も、この戦争が終わればそうなるのだと思うと心が躍った。
「B国のコンピュータをハッキングできる機械はあるだろうか。」
「ハッキングとは用途がよくわかりませんが、あなたのコンピュータを世界中のどのコンピュータとでも情報を共有できるようにするアダプタならありますよ。いくらで買います?」
「いくらでも払うから早くくれ。」
そうしてA国は再びこの戦争で優位に立ったと思われた。しかしそれも一瞬で崩れる。どうやってもB国のコンピュータとは繋がらないのである。
「お前本当は宇宙人ではないな!B国からの使いだな!」と私は激怒し、部下たちに身を拘束するように命令した。変装を剥がそうとしたが、人間であるという証拠は掴めなかった。
「そんな乱暴な事しないでくださいよ。もうあなたの国には何も売りませんから。」そう宇宙人は言い捨て、宇宙船へと戻っていった。
それを止めようと私たちも外へ出たのだが、外は火の雨に包まれていた。上空には爆撃機が見え、遠くから銃声も聞こえた。
宇宙人は宇宙船の窓に顔を出し、重いヘルメットを取り外すかのようなしぐさをした。そこから現れた顔がB国の人種にありがちな特徴があったのは、私の見間違いだと思いたい。
手記はここで止まっている。
【ショートショート】ある虎 八十島蚕子 @Yasoshima_Sang0
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