第25話 長い夜の終わり



「み、見るなっ♡ 見ないでくれぇ♡」


 ウィルムスがモジモジと股を擦り合わせながら、顔を真っ赤にして叫んでいる。

 なんでそんなに嬉しそうなんだ……。

 露出癖……こんな時にも発揮するのか。


「わ、分かった! 見ないから負けを認めろ!」

「負けてなどないっ♡ 私は負けるわけにはいかないのだ♡」


 聞く耳を持たないウィルムス。くそ、埒があかない……!

 俺は上着を脱ぎ、彼女に被せてやる。そんなあられもない格好でいられても困るしな。それに、この場面をシンシアに見られでもしたら――。


「……クロード? これは一体どういう状況です? 説明してください」

「ね、姉さん……!?」


 ――悪い予想は当たるものだ。


 俺たちの騒ぎを聞きつけたらしいシンシアが、ハイライトの消えた瞳で俺を見つめている。表情はいたってクールだが、明らかに怒っている。


「こ、こいつが私の胸元を切り裂いたのだっ!」

「おい!?」

「……なるほど。分かりました」


 何を言い出すんだこいつは!? 誤解しか生まないことを言わないでくれ!


 シンシアは静かにウィルムスに歩み寄ると、その両腕を縛り上げる。その間もなにやら叫んでいたが、それどころではない。


 今はシンシアをなんとかしないと……!


「ウィルムス、でしたか。貴女はシエルが目的だったのですか?」

「……答える義理はない」

「なるほど。ではクロード」

「は、はいっ!」


 ウィルムスとの会話を切り上げ、俺に問いかけるシンシア。


「貴方がウィルムスの胸元を切り裂いたというのは本当ですか」

「……結果的にそうなっただけで、決してそれが目的だったわけじゃありません」

「そうですか」


 俺が弁明をしても、変わらずジト目のシンシア。


「と、とりあえずこれからどうするか考えない?」

「……クロード? どうしたのです、そんなに慌てて」


 話を逸らそうとするも、シンシアは俺を逃さない。


「い、いや? 俺はいたって冷静だけど」

「…………」


 すごい。無言の圧がすごい。せっかくウィルムスに勝ったというのに、次に出てきた姉さんが強すぎる。


「……ウィルムスは露出癖がある」

「お、おい!? 適当を言うんじゃない!」


 たまらず俺はウィルムスの秘密を暴露するという暴挙に出る。こいつの性癖が悪いんです!


「なんでそんなことを知っているんです?」


 さらにハイライトが消えていく。俺はどうやら選択肢を間違えたらしい。ここでさよならだ。


「……姉さん? 一体何があったの?」

「シ、シエル!? ダメじゃないですか、出てきては!」

「だってずっと騒がしいんだもん」


 騒ぎを聞きつけたのか、大きなぬいぐるみを引きずりながらパジャマ姿のシエルがやってくる。


 た、助かった……!


「シエル! 無事だったか!?」

「うん。大丈夫だけど……。これ、どういう状況?」


 一体何が、と言った様子で俺に尋ねるシエル。どう説明したものか……。


 いや、これはシエルのこれからに関わる大事なことだ。誤魔化さずに正直に答えよう。


「こいつは魔王の部下、ウィルムスだ。一応四天王ってことらしい」

「……なんでそんなのがここに?」

「俺たち……いや、シエルを狙ってやってきたんだ。多分姉さんのことを脅威に思ったんだろう。姉さんは強い。だからシエルを人質に取るつもりでここに来たってわけ」

「……」


 俺の説明を聞いたシエルは黙ってしまう。自分の存在が、シンシアの弱点になってしまっていることを気にしているのだろうか。


「シエル。気にする必要はありません。私がこんな変態に遅れをとると思いますか?」

「……思わない、けど」

「シエルとクロードは必ず私が守ります。信じてください」

「うん……。ありがとう、姉さん」


 その言葉を聞いて安心した様子のシエル。


 ――俺たちは負けない。絶対に。


「俺も、必ずシエルを守ると約束する。だから安心してくれ」

「兄さん……。分かった、二人を信じる」


 よかった。シエルが気に病む必要はないからな。


「……ふん。立派な家族愛だな。それで、これから私をどうするつもりだ?」


 俺たちのやりとりを黙って聞いてきたウィルムスが、皮肉を言いながらこれからの処遇を問うてくる。


 さて、どうしたものかな。とりあえず地下牢にでも幽閉するくらいしか思いつかない。


 魔王についての情報を聞き出せれば一番なんだけど……。見る限り、かなりの忠誠心だ。なかなか口を割るとも思えない。


「姉さん、うちの地下牢って空いてたよね?」

「はい」

「とりあえずそこに閉じ込めておこう」

「分かりました。では私が連れていきますね」


 そう言って頷いたシンシアが、縛り上げられているウィルムスを引っ張って屋敷へと向かう。


「おい、引っ張るんじゃない! この怪力女!」

「誰が怪力ですか。この変態」

「……ぐ……!」


 やいのやいのと言い争いながら、夜の闇へ消えていく二人。……ふぅ、とりあえずはなんとかなったかな。

 姉さんに問い詰められた時はどうしようかと思ったけど、シエルのおかげで助かった。


 その後、俺はシエルを別宅へ送り届け自室に戻る。


 ――長い夜だった。破滅フラグを回避するつもりが、どんどんと状況が移り変わってしまっている。もしかしたら、まだ四天王が襲ってくるかもしれない。


 強くならないと。誰にも負けないくらい、強く。



──

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男女比1:9の貞操逆転世界ゲームの悪役貴族に転生した俺は、【模倣】の魔眼でバッドエンドを破壊する〜でもブラコンで匂いフェチの姉に迫られて困ってます〜 モツゴロウ @motugorou

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