第24話 夜の攻防
そして夜になる。
ウィルムスの動向が気になるので、やっぱり眠らずに起きておくことにした。1日くらい徹夜しても、まぁ大丈夫だろう。
俺はすっかり暗くなった窓の外を眺める。この部屋からなら、シエルの住む別宅の様子も見ることができる。
眠い目を擦りながら、不審者がいないか監視する。仕掛けるなら今日のはず。しかし、ウィルムスは相当慎重な性格のようだな。まぁそのおかげでシエルは襲われずに済んでいるともいえるけど。
「ん……?」
部屋の中で一人。やることもないので魔力操作の練習をしながら監視していると、暗闇に動く影があるのを見つけた。
俺は瞳に魔力を集中し、『魔眼』を発動する。便利なことに、これを使うと夜目が効くようになる。
じっくり、その人影に焦点を合わせる。
真っ黒なローブで身を包んだ小柄な影。顔はよく見えないが、あの体格からしてウィルムスで間違いない。
「来たか……!」
俺は迷うことなくベランダから飛び降りた。ここから出るのが最短ルートなのだ。
魔力を脚に集中させ、落下の衝撃に備える。自室は2階だ。そこまでの高さではない。
物音を立てないよう、ゆっくりと着地した俺はシエルのいる別宅に向かって駆ける。
「やっぱり狙いはシエルだったか……」
ウィルムスの狙いは、俺たちの弱みであるシエルを人質にとることだろう。シンシアの強さはあちらも知っているらしい。わざわざこんな回りくどいことをするってことは、ウィルムス本人はそこまでの戦闘能力はないのだろう。
――俺一人で、止めてみせる。
これまでの修行の成果。それを見せる時だ。まさかこんなに早く四天王と戦うことになるとは思ってなかったけど、いずれは戦うことになる相手だ。早いか遅いか、それだけだ。
静かに、そして速く夜を駆ける。
そして、俺たちは邂逅する。
「――誰です?」
「やあ、初めましてだね」
俺の存在に気づいたウィルムスが警戒しながらこちらに話しかけてくる。
「まさか……どうしてあなたが?」
「それはこっちの質問だ、ウィルムス」
「どうして私の名前を……!?」
その名を呼ぶと、ローブから覗く瞳が驚きに見開かれる。
どうやら、あっちも俺のことは知っているみたいだな。あったことはないはずだけど、おそらくこの街にずっと潜入していたのだろう。ここには未来の勇者、レネシス・ミルハートもいるからな。
「シエルが目的か? どうして俺たちを付け狙う?」
「……全てお見通し、というわけですか。しかし、
そう言って戦闘態勢をとるウィルムス。その小さな体に魔力が漲っていくのが魔眼を通さなくても伝わってくる。
俺は『魔眼』でウィルムスを
動きの一つも見逃さないようにしながら、剣を構える。シンシア直伝の構えだ。
「……男のあなたが、私に勝てるとでも?」
「まぁね。じゃなかったらわざわざここまで来ない」
「アルベイン流、ですか。そんな見よう見まねの付け焼き刃で戦うつもりとは。命が惜しくないようですね」
「付け焼き刃、ね……」
ウィルムスが俺を挑発してくるが、軽く流す。ここで熱くなっては向こうの思う壺だ。冷静に、そして確実に勝つ。
俺は魔力を練り上げ、身体中に纏う。身体強化とアルベイン流剣術。二つの武器が今の俺にはある。大丈夫、勝てるはずだ。相手は俺をみくびっている。恐らく俺を軽く気絶させて人質にでもするつもりなのだろう。そうしないとシンシアには勝てないからな。
夜の闇に、緊張が走る。ジリジリと、俺はウィルムスの隙を窺う。
相手は武器を構えていない。ウィルムスは懐に隠した暗器を使う。もしそれを取り出して構えるようなら、その隙に攻撃をしようと思ったが、その素振りはない。素手でも勝てると思っているのか、はたまた隙を見せないようにしているのか……。
俺とウィルムスの距離が少しずつ縮まっていく。あと少し、あと数歩近づけば俺の間合いだ。
「どうしたのです? 今さら怖気づいたのですか?」
動かない俺にウィルムスがまた声をかけてくる。
――怖気づいた? そんなわけ無いだろう。俺は絶対にお前に勝つと決めたんだからな。
静かに間合いを詰め、ようやく俺の間合いになる。ここからなら、いつでも仕掛けられる。あとは隙を作るだけだが……。
「一ついいか?」
「なんでしょう。もしかして降参ですか?」
「いや、お前の趣味について聞きたくてな」
「……は? 趣味?」
いきなりの質問に、少しの動揺を見せるウィルムス。……よし、反応してくれた。
「――どうやら、お前は『
「なっ……!」
――今だ!
俺は魔力を解放し、大きな隙を見せたウィルムスに向かって駆ける。
「――【一ノ型・風凪】!」
何度も繰り返し、洗練させた動き。
その鋭さに全く動けずにいるウィルムスの懐に潜り込み、剣を薙ぐ。
――確実に仕留める!
「……くッ!」
迫る刃を、腕に隠していた短刀で受け止ようとする。その動きを『魔眼』で捉えながら、それを避けるように脇腹を狙う。
防御が間に合わないと判断したウィルムスが、俺の剣を避けようと飛び退く。ギリギリを掠めた剣先が、彼女のローブの裾を切り裂く。
「……あ、あぶな――」
避けられたことに安堵した様子のウィルムス。しかし、その回避行動は俺の
――そこだッ!
「――【ニノ型・嵐華蓮舞】!」
俺は身体中に巡らされた魔力を剣先に集中させ、次の動きに移行する。
「は、早――!」
ウィルムスの着地地点にめがけ、体を限界まで捻ったエネルギーを解放する。
「……ガハァッ!」
魔力の奔流と、俺の渾身の突きが無防備なウィルムスの胴体に突き刺さる。
当たる寸前で魔力を使って防御をしたのだろう。剣は突き刺さることはなかったが、完全に殺しきれなかったその衝撃でウィルムスは庭のフェンスまで吹き飛んでいく。
「……な、なんですかこの強さは……!」
膝をつきながら、なんとか立ち上がった彼女だが、そのダメージは深刻そうだ。彼女の体内に練り上げられた魔力が霧散していくのが『魔眼』越しに伝わる。
「これが俺の『アルベイン流』だ」
勝敗は決した。ウィルムスはもう戦える様子じゃない。俺の勝ちだ。
苦悶の表情に顔を歪める彼女に近づく。
……ん?
そこで俺はあることに気付く。彼女の服が破れ、胸元が露わになっていることに。
「……み、見るなッ!」
彼女も自分の状況に気付いたらしい。顔を赤くして胸元を必死に隠そうとする。
しかし、どこか様子がおかしい。恥ずかしがっているのに、どこか嬉しそうでもある。
「見るんじゃ……ない……! はぁ、はぁ……♡」
……ま、まさか……!?
――露出癖で興奮してるのか!?
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