第19話 待ってください

「とにかく、みんな帰りましょう。話は後から聞くから」

 心春の背中をそっと押すお母さんの手は、温かかった。その時初めて、身体がとても冷えていたことに気づいた。

 イリスのお母さんは無言でイリスの肩を抱いて、イリスと二人でゆっくりと歩きだしていく。

 これからそれぞれ家に帰って、学校でも会えずに、ずっと、このまま……?

 並んだ二つのまるまった背中が少しずつ離れていく。

「待って……、待ってくださいっ」

 二人がゆっくり振り返った。

「あの、私はイリ……はるさんと、話がしたいです。まだ、帰らないでください」

「心春ちゃん、気持ち嬉しいわ。でも、今日はいろいろあったみたいだし、みんな家で休んだ方がいいんじゃないかと思うの」

 イリスのお母さんは、柔らかな口調だったけど、はっきりと拒んだ。

「でも、このまま、しばらくはるさんに会えなくなるのは嫌なんです。私、ずっと勘違いしてたのかもしれない。イリスがこんなに苦しんでるなんて思ってなかった。私は、イリスが考えていること、ちゃんと知りたい」

 頭で考えるより先に、心春は夢中で訴えていた。

「でも……」

 イリスのお母さんが困った様子で、心春の母親の方へ視線をやった。

「心春、無茶言わないで。話すのはまた今度にしなさい」

 お母さんが心春の肩にそっと触れたけど、その手を払うように前のめりになり、心春は必死でつづけた。

「今日聞かなかったら、イリスの思いを知るチャンスはもうないかもしれない。あんな風に泣いていたイリスを見て、このままお別れなんてできない。お願いします」

 イリスが、うつむいていた顔を上げた。

「お母さん、私、心春ちゃんと話したい」

 

 結局、大人二人が折れて、イリスは心春の家に泊まることになった。イリスのお母さんは最後まで心配そうにしていたけど、心春もイリスも、譲らなかった。

 家に着く頃には、心春はめまいがするほどお腹が減っていた。お母さんはすぐに夕飯を準備すると言って台所に向かい、心春とイリスは、心春の部屋で待つことになった。

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春とイリスとペールブルー・チョコレート @fuyunire

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