第18話 理由
「……羨ましかったんだ。田沼は、俺より全然フツーじゃないのに、みんなから好かれて、応援されてて。俺が必死で欲しかったものを簡単に手に入れて、ずるいって……。少し、困らせてやりたかっただけなんだ」
「だからって……」
酷すぎる。そう続けようとして、はっとした。
あの公園で、心春は何て言った?
心春もずっと、イリスを妬んでいたんじゃないのか。
イリスがうっうっと小さくしゃくりあげる声だけが、夜の闇の中で響いていた。
「心春っ」
遠くから、大声で呼ばれて振り向くと、お母さんが坂の下から駆け上がってきていた。後ろには、イリスのお母さんの姿もある。
「お母さん」
「何回電話したと思ってるのっ。心配したじゃないっ」
お母さんが、物凄い剣幕で怒鳴りながら、走り寄ってきた。
「何でここがわかったの?」
急に現れたので、心春は動揺した。イリスは、大丈夫だろうか。横目で見てみると、イリスはのろのろと立ち上がるところだった。
イリスのお母さんに、心配をかけたくなかったのかもしれない。
「心春のスマホのGPS見て追ってきたの。やり方分からなくて苦労したんだから。それで、もしかしたら一緒なんじゃないかって田沼さんのお母さんに連絡して来たのよ。こんな遅くに飛び出して、何やってたの」
「ごめんなさい」
謝ったものの、何をしていたかなんて、とても言えないと思った。話したらきっと、イリスをさらに傷つけてしまう。
「はる、大丈夫?」
イリスのお母さんが深刻な顔で駆け寄り、イリスをぎゅっと抱きしめた。イリスは、されるがままに棒立ちしている。
「僕、帰ります」
高橋くんは、そう言い残して駅の方へ走りだした。
「えっ、ちょっとっ」
お母さんが呼び止めるのも構わず、全速力で、あっという間にいなくなってしまった。
イリスのお母さんも気にして振り返ってはいたけど、それよりもイリスのことで頭がいっぱいみたいだった。
イリスの瞳は、うつろで何の感情も読み取れない。なんだか、泣き叫んでいたさっきよりずっと、心配になった。
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