第17話 まるで悲鳴
「あいつと俺の姉ちゃん、同じ道場で剣道習ってたんだ。あのブラックローズってアニメをあいつに教えたのも姉貴。ROSE BUDって、英語で『ばらのつぼみ』って意味だろ。あのアニメのファンは、自分たちのこと『つぼみーず』って、キモイあだ名付けて呼んでるんだ。それで吉田だろうなってピンときた。あんな古いアニメ見てる奴、そうそういないし。アドレスは、姉ちゃんのパソコン盗み見したらわかった」
「でも、パスワードはどうしたの?」
「あのアニメのキャラの名前と誕生日かけ合わせていくつか入れていったら当たった。あいつ、パソコンのログインパスワードも同じにしてたから、二段階認証もすんなりいった」
まさか美羽ちゃんと高橋くんのお姉さんが知り合いだなんて、心春には思いもよらなかった。
入学してすぐの頃、美羽ちゃんは高橋くんと同じ小学校出身だと教えてくれたけど、「高橋のこと大嫌いだから話題にしたくない」と言われて、それ以降、心春は何も聞かなかったのだった。
やり方はわかったけど、わざわざそんな面倒くさいことまでして、なぜイリスを騙したりしたのか、心春にはちっともわからない。
「どうして、こんなことしたの?」
高橋くんが、ひときわ嫌そうな顔をする。
「理由なんてねーよ。ただ、からかってやろうと思っただけだよ。コイツ、まんまと引っかかって馬鹿じゃねーの。マジできもかったよ。信じ切っていろいろ語ってきちゃってさ」
心春は、あまりの高橋くんの言いように言葉を失った。
「ああーーーーっ」
突然、今までほとんど動きもしなかったイリスが大声をあげた。
びっくりしてイリスの方を向くと、よつんばいになって身体を震わせながら、何度も何度も、地面を叩いている。
「あーーーーっ」
イリスが一瞬上を向き、その顔を見て、心春はやっと気がついた。
――叫んでいるんじゃない、泣いているんだ。
ぼんやりした街灯の光が照らすイリスのほほが、濡れている。
今までに聞いたこともない、空気を切り裂くみたいな、悲鳴みたいな泣き声。耳にするだけで、胸が張り裂けそうになる。
高橋くんも、イリスを見ながら棒立ちになっていた。
イリスの泣き声は、内にこもっていくように低いうなり声となっていき、しばらく心春も高橋くんも何もできずに、ただイリスを見ていた。
「ごめん……」
高橋くんが小さな声でつぶやいた。
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