🎨第133廻「猫嶋椿の懇願と裁き」

小鳥遊たかなしりな・冥府編』挿絵

 https://kakuyomu.jp/users/ca8000k/news/822139842986300448






「――お初にお目にかかります、わたくしは猫妖怪のねこしま椿つばきと申します。恐れながら閻魔えんまおう様、わたくしは紫闇枢しあんかなめ傀儡くぐつです、貴方様の王子様、輪廻りんね様を私は殺めようとしました、どうか厳格な裁きをわたくしめにお与えくださいませ」






 閻魔王は、少し複雑なそして、穏やかな表情で椿を静かに見つめ左右に首を振り、そして彼女に語りかけた。




「――猫嶋椿、そのことは我が王子、輪廻の一存いちぞんゆだねておる……直接、輪廻の口から聴くと良い」




 閻魔王の冷静な言葉を聴き入るように一瞬、瞳を伏せ、また硬い表情をすると椿は、深々ふかぶかと一礼をする。



「はい……承知いたしました、閻魔王様」



 椿はひざまずいたまま、輪廻とりな、大和たちの方を向いた。



「お願いです、輪廻さま、私をどうぞ、あなたの極寒地獄の炎で裁いてくださいませ」




 輪廻、りな、大和は硬く驚いた表情で椿を見つめた。



「椿さん、駄目だよ! だってあなたは。輪廻さん、あなたなら大丈夫だと思う、けど。お願い、椿さんを罰さないで」



「椿、なに言ってんだ、お前は奴に操られていただけだ! 若、若ならそんなことはしないって信じているが、だが、もし罰が必要なら俺も受ける、だから……!」



 りなと大和が椿の前に立ち彼女を庇った。


 その様子を見て輪廻は溜め息を吐くと、困ったように微笑みを返した。



「りな、大和、大丈夫だ、君たちが感じている通り、俺が椿を罰するはずがないだろう? 椿、きみの気持ちは分かるが落ち着け、な?」



 椿に向けて優しい笑みを向ける輪廻、りな、大和もホッと安堵の息を吐いて輪廻にうなずく。



 輪廻は柔らかな笑みをたたえて椿の方へと左手を差し出した。

 輪廻の目と彼のその手を遠慮がちに交互に見ながら、おずおずと手を伸ばす椿、しかし、輪廻の手を握る直前でパッと手を引っ込める。




「駄目! 私にはこの手を取る資格はないですわ……だって、私はあなたを殺そうとしたんですのよ、実際に私は輪廻さまをこの手で刺している」



 椿は輪廻を自身が刺した時の記憶を思い出し、ぶるぶると小刻みに体を震わせている、そんな椿を心配そうに見守るりなと大和。



 輪廻は椿に微笑みながら言った。

「りなから全て伝えてもらったよ。これまで随分、辛い思いをしたな。でも、もう大丈夫。これからは俺達がいるから、君は独りじゃないよ」



 うなずきながら、輪廻はベッドを下りひざまずいている椿と同じ目線になるように、硬くひんやりとした床に座って向かい合った。



「輪廻さま、どうしてあなた様が罪人の私と同じく床に座るのですか? ベッドにお戻りくださいませ」


 椿が慌てて輪廻に早口で伝える。



「椿? きみは罪人じゃないよ。俺たちの大切な仲間だ。そう、大切な、な」



 輪廻は、椿の目を真っすぐに見つめて微笑む。



 しかし、椿は一歩も引かず首を振ると輪廻に、自分に罰を与えるように懇願した。



「でも、このままでは私が私自身を許せないのです。輪廻さま、どうか、私に対する最期の裁きをお与えください」




 しかし、輪廻は溜め息を吐き、切なく微笑みながら椿のひたいにデコピンをした。



「えっ、輪廻さ、ま……?」目を丸くして信じられないと愕然とし、まばたきをする椿。



「もう、良い……もう良いから椿、きみの覚悟と悲しみは良く伝わった。だから」





 輪廻の表情が凛とした精悍せいかんな顔つきに変わった。




「――猫嶋椿、十王の一柱いちばしら、閻魔王の継承者、氷雨輪廻ひさめりんねが命ず! これからお前は自分の人生を生きろ、そして幸せになれ、聖女、小鳥遊たかなしりなの手により我らの仇敵きゅうてきから、束縛が解かれた今、お前を縛る者はもはや、誰もいない――」




 厳しい表情から、輪廻の顔がふっと緩む。輪廻はそのまま、椿を優しくそして、強く両腕で抱きしめた。



「椿、俺もりなも、大和もきみのことをずっと待ち続けていたよ。椿、おかえり、きみは晴れて“氷雨ひさめ輪廻りんね相談所”の仲間だ!」



「ああっ、輪廻さまっ……」



 椿は頬を真っ赤に赤らめ、薄い蒼と茶のオッドアイの瞳からぼろぼろととめどなく大粒の涙が溢れる。



 それを見た、りなと大和も泣きながら椿に近づいて輪廻と一緒に抱きしめた。



「椿、おかえり! 遅いから、すっげえ心配したんだぜ、これからみんなでラーメンパーティーでもするっすよ」



「おかえりなさい、椿さん、これまで良く頑張ったね! でも、もう輪廻さんや大和さん、私もいるから大丈夫だよ」



「……ふっ、うっ……輪廻さま、大和、りなっ! ありがとう、皆、大好きですわ。ただいまっ」



 椿は輪廻とりな、大和に囲まれて幸せそうに、ふにゃりと笑うと子供のように大声で泣き始めた。



 新章「猫嶋椿」挿絵

 https://kakuyomu.jp/users/ca8000k/news/822139842987196497



 閻魔王は、病室のすみの壁に寄りかかりながら腕組みをしている、そして、輪廻たちの様子を微笑ましく、まぶしそうに目を細めて優しく見守っていた。





「#9 新章《冥府編》【『束の間のやすらぎのなかで』】

 第131廻「冥府の病院で」に「小鳥遊りな」の追記イラストリンクを貼りました。

 https://kakuyomu.jp/works/16817330666469257512/episodes/822139842224572065






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2026年1月14日 07:15

【第9章・冥府編】氷雨輪廻物語~裁きの刻、闇夜に蒼き炎が燃ゆる極寒の炎で震えて逝け!~ 夢月みつき @ca8000k

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