第129廻「氷雨日記・こころ音日和「輪廻の休憩所」番外編「虹の橋の向こう🌈🐈」

 輪廻りんねが仔猫のみるくを失い旅立ちを見送ってから、二か月、ある日、輪廻は相談所の事務室で深夜からの仕事の疲れが出てうとうとと、居眠りをしていた。



 輪廻は夢を見ている、ふわふわの白い雲の上に七色の虹の橋が架かっていた。

 輪廻が雲の上にあぐらをかいて、ぼんやり見ていると虹の橋の向こうから、白色の小さな何かが滑って来た。



 輪廻

「なにかがこっちに来る」



 滑って来た何かは白い仔猫だった。仔猫は虹の橋から滑り落ちるとポーンと弾んで輪廻の方へ飛んできた。



 輪廻

「あぶないっ!」

 輪廻が慌てて小さな体を受け止める。



 輪廻はその仔猫をじっと見た、「みるく?」思わず彼が呼びかけると仔猫は「にゃう」と鳴いて、輪廻の頬を小さな舌でペロッと舐め、そのまま、ちゅ、とチュウをしてきた。



 輪廻

「みるく? みるくなのか」


 仔猫

『みゃあ……ママ、しゅき……みゃう』




 仔猫はたどたどしく言葉を発すると、輪廻の瞳から涙が溢れた。

 そこで夢から覚めて起き上がる。



 輪廻

「――みるく」





 すると輪廻のスマホが鳴り始めた、画面を見ると父の閻魔王えんまおうだった。

 輪廻は通話ボタンをタップし電話に出た。



 輪廻

「もしもし、親父、どうした?」



 閻魔王

『まぁ、ちょっとな、輪廻、なんだか声に張りがないが、大丈夫か』



 輪廻

「ああ、問題ない、親父、仕事は?」



 閻魔王

『ああ、今は束の間だが昼休みだ、お前に話があってな』



 輪廻

「話? 相談所関係のことか、それとも裁きの依頼のことか」



 閻魔王

『いや、そのどちらでもない、今日はお前に大切な話がある』


 輪廻

「なんだ、気になるな」




 閻魔王

『輪廻、お前、前に冥府に猫を送っただろう、その話だ』


 輪廻

「猫……? もしかして……」


 輪廻は閻魔王の言葉を聴いて胸がドキドキしていた。


 輪廻

「つっ、その猫は白くて綺麗な青色の目の仔猫じゃなかったか!?」



 輪廻ははやる気持ちを抑えきれず、閻魔王に早口で聞いた。

 閻魔王は一瞬、間があったがフッと微笑みを漏らすと優しい言葉で語り掛けて来た。



 閻魔王

『そうだ、その白い仔猫だ、お前が大切にしていた『みるく』のことだ、今、みるくは俺の元にいる』



 輪廻

「そうか、それで! みるくはっ」



 輪廻は少し興奮しながら話す、その後にスマホから仔猫の鳴き声が聴こえた。


 仔猫

『にゃうにゃう……』



 輪廻

「みっ、みるくか?」



 みるく

『にゃ……ママ』



 輪廻

「みるくがしゃべってる!」



 閻魔王

『はは、そうだよ、冥府では強き想いの力が込められた者は動物でも話せるようになるのだ』


 閻魔王

『しかし、みるくは霊であるために、生まれ変わるまで冥府から出ることは出来ない』



 輪廻

「……そうか、でも、親父と共にいるなら安心だ。また冥府に帰るからその時に、みるくに逢わせてくれ、親父、みるくを頼むな」



 輪廻が微笑みながら、通話を続けると『ああ、分かった、みるくがお前に伝えたいことがあるそうだ』閻魔はそう言うと次に、みるくの鳴き声が聴こえて来た。


 みるく

『にゃあ、にゃ……りんねママ、だいしゅき、ありがと』



 輪廻

「みるくっ……! 俺の方こそ、きみに会えて嬉しかった、ありがとう」


 輪廻はボロボロと涙を流して笑った。




 その翌日、輪廻は相談所を大和と椿に任せて、冥府に帰りみるくを抱きしめた。

 みるくはあの時のように輪廻にチュウをしてくれた。


 それから輪廻は、みるくが天国に行って、生まれ変わるまで休日には必ず炎魔宮えんまきゅうに通い続けた。



 みるくが生まれ変わったのはそれから、一年後のことだった。



 生まれ変わった日の朝、外に出ていた輪廻の耳に、仔猫の鳴き声と人間の女の子の赤ちゃんの産声うぶごえが交互に聴こえた気がした。空からは日が差し込み、希望の色をした虹が掛かっていた。

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【第8章】氷雨輪廻物語~裁きの刻、闇夜に蒼き炎が燃ゆる極寒の炎で震えて逝け!~ 夢月みつき @ca8000k

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