第315話 酒と朝チュン
「ウッ……グウッ……」
目を覚ますと知らない天井があった。
村で蒸留酒の試飲をしていたレストであったが、いつの間にか眠っていたらしい。
「いや……知っている天井だ……」
見覚えのない天井かと思いきや……よくよく見れば、前にも見たことがあるものだ。
村にある唯一の旅館。かつて宿泊したその部屋の天井である。
「身体、重……気持ち悪い……」
酒を飲んで寝落ちするだなんて、前世を含めて初めての体験だ。
「吐きそう……いや、大丈夫だ。大丈夫。俺には魔法がある……」
レストは初歩的なものだけであるが治癒魔法を修得している。
毒を抜く魔法……【
魔法をかけるとかなり気分が楽になり……結果、自分が置かれている状況を把握してしまう。
「…………は?」
「スウ……スウ……」
すぐ傍から聞こえてくる寝息。
胸に伝わってくるぬくもりと柔らかな膨らみ。
モチモチの感触を堪能しているのは胸部だけではない。レストの両手が別の膨らみをガッチリと掴んでおり、指を喰い込ませている。
「う……あ……ま、まさか……!」
「ん……あん……」
聡明な諸君はお気づきだろう。
レストが感じている温もりと柔らかさの正体……それは同衾している女性だった。
レストが眠っている布団にはセレスティーヌ・クロッカスがいたのだ。
セレスティーヌはすっぽりとレストの胸の中に収まっており、抱き合うようにして寝息を立てていた。
「そうか……天国はここにあったんだな……」
ようやく見つけた……レストは現実逃避して、そんなことを考える。
もちろん、いつまでも目の前にある事実から目を逸らしてはいられない。
レストはセレスティーヌと抱き合って眠っており、おまけにレストの両手はセレスティーヌの尻をがっつり掴んでいる。
さらに……セレスティーヌは一糸纏わぬ裸だったのである。
「…………終わった」
「ん……あ、レストさん。おはようございます」
「ぐお……」
最悪だ。
セレスティーヌが目を覚ましてしまった。
もはや、言い訳のしようがない。レストは勢いでその場から飛び退いて、そのまま床で土下座をする。
「ごめんなさい、許してください」
「朝から、何を謝っているんですか? 別に謝罪されるようなことはしていないと思いますけど……」
「いや、何というか……謝るしかないというか……えっと、どういう状況?」
「わからないのに謝っていたのですか? どうやら、昨日のことは忘れてしまったようですわね」
セレスティーヌが苦笑しながら起き上がり、己の裸身をシーツでさりげなく隠した。
「レストさん、昨日はお酒を飲んで眠ってしまったんですよ。治癒魔法をかけたんですけど起きなくて、仕方がないので旅館まで運んできたのです」
「あ……そうなんだ」
「私が一緒に寝ていたのは、旅館の部屋が空いていなかったからですわ。他の部屋は酒の開発のために雇い入れた職人などに貸しているため、この部屋しかなかったのです」
「つまり……俺が君を連れ込んで朝チュンという展開じゃないわけだな……」
ひとまず、安心をした。
セレスティーヌもまたレストの婚約者。とはいえ、婚前交渉は奨励されていない。
ローズマリー姉妹に先んじてセレスティーヌに手を出してしまえば、色々な人に叱られてしまうことだろう。
「ああ、でも私を布団に引き込んだのはレストさんですわよ。こちらに寝かせた際、私の手を掴んで引きずり込んだのです」
「…………」
「それに……寝た時は服を着ていたはずなんですけど、もしかしてレストさんが脱がせたのでしょうか? 下着まで脱がされていますし、身体をあちこち触られたような……?」
「ごめんなさい」
レストは再び、土下座をした。
全身全霊で額を床に擦りつけ、昨晩の無礼を謝罪したのであった。
――――――――――
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魔力無しで平民の子と迫害された俺。実は無限の魔力持ち。 レオナールD @dontokoifuta0605
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