第2話 破滅のダンジョン(1)


 ・臭すぎて草


 ・ダンジョンで野糞とかマ? 幾ら時間が経てば消えるといってもそれは…


 ・ウンコマスター大地www


 ・荒れ狂うのはお腹も同じ、荒狂大地君www


 あれから一か月が経った。


 あの時の動画は俺の顔だけモザイクがされずに翌日面白い編集付きで投稿され、瞬く間にネット上でバズッた。


 その結果、俺の名前などの個人情報はもちろん。 住所や学校さえ特定されてまともに生活することが出来なくなった。


 …俺は通っていた高校を自主退学し、引きこもりの日々を続けていた。

 

 「ご飯って最後いつ食べたっけ?」


 お風呂とトイレは入っているが、ご飯は余り喉を通らずに食べた記憶も朧気になっている。


 ブルルル。


 そんなことを思い出していると、近くにあったスマホが震えた。 どうやら、誰かから電話が来たようだ。


 「もしもし、お兄ちゃん大丈夫?」


 どうやら実家に住んでいる妹の万葉から電話が来たようだ。


 「…万葉か。 大丈夫、お兄ちゃんは大丈夫だ」


 「その声大丈夫じゃないよ! ちゃんと食事は取ってる?」


 「風呂とトイレはちゃんとしてるさ」


 「食事は取ってないってことじゃない!」


 俺の家族は優しく、こんな状況になってもよく電話をして俺のことを気遣ってくれる。


 …こんな野糞野郎のことを。


 ──そういえば、妹は。 学校で俺のせいでからかわれているんじゃないのか?


 「おい、そんなことよりお前、学校では大丈夫か?」


 「…うん、大丈夫だよ!」


 俺達はもう十年以上一緒に暮らしてきた。 だから、今の話すまでの間の長さで妹が嘘をついていることが分かった。


 「そ、そうか。 悪い、ちょっと風呂行ってくる」


 「お、お兄ちゃん待って!」


 俺の馬鹿野郎、何でこんな考えれば気づくことに察せられなかったんだ。 俺は高校になるまではあっちで育ってきたから、変なことをすれば家族にしわ寄せが来る可能性ぐらい考えられただろ!


 「父さん母さん、万葉ごめん! 俺があんなことをしたばかりにッ!」


 ──どうにか、如何にかしてアレを無かったことにできないのか! 俺不幸になるのは良い、幾らだって不幸になっても良い。


 だが、大切な家族だけは不幸になんてしたくない。


 何か方法は無いのか、全てを帳消しにするような解決方法が。


 「──そうだ、俺も配信者になろう! それも最強の探索者である配信者に!」


 俺はその時、あの人気配信者たちの姿を思い出していた。


 彼らは決して強くはなく、只人気があるだけであそこまでの地位を獲得していた。 なら、最凶で最強に面白い探索者になればこの状況を打開できるかもしれない。


 「俺はやってやる。 例え、その途中で死にかけたとしても!」


 絶対に最凶の探索者になって見せるッ!






 



 

 翌日、俺はマスクと目立たない様に地味な服装をして家の扉を開けた。 どうやら、もう一か月も引きこもっていたので出待ちなどはされていなかった。


 「目立たない様に行動しないと」


 俺は周りの目を気にしながら、ネットで調べたダンジョンの中で一番速く強くなれる場所に向かった。


 


 「此処がネットで言われていた破滅のダンジョン」


 破滅のダンジョン。 このダンジョンは他のダンジョンとは仕様が大きく違う、異質な作りになっている。


 中は大きな正方形の部屋の一つのみで、出てくるモンスターも必ず一体のみ。


 しかし、その出てくるモンスターは入った探索者の1.5倍ほど強い強さを持っているとされている。


 その理由は、入るときに体から導き出された探索者の強さを参考にしてモンスターが創り出される仕組みだからとのこと。


 その為、ここは多数の人が自殺を行う場所として使われている。 所謂、自殺の名所というやつだ。


 「でも、そのリスクに対する見返りもある…」


 それは他のダンジョンを圧倒的に上回る、経験値効率の良さ。 格上のモンスターだからという理由もあるが、それを超えるほどの莫大な経験値が手に入る。


 …偶に、此処でしか手に入らないレアドロップアイテムもあるとの噂も流れている。


 「俺には、進むしか選択肢は無いんだ!」


 俺はそうやって心の中で意気込み、足を動かして受付カウンターまで進む。 如何やら人があまり来ないのが原因で、内装も最低限の機能と清潔さしか無いようだ。


 「君、多分ダンジョン間違えてるよ。 帰りな」


 しかし、受付嬢の方は面倒臭そうに俺に向かってそう言いながらしっしと手を払う。


 「いえ、此処が自殺の名所と言われている破滅のダンジョンであることは知っています」


 「…君はまだ若いんだから人生やり直せるよ、だから─「いえ、自分は今ここに潜らないと絶対に後悔します」」


 だが、その言葉を「はいそうですか」と聞ける訳がない。

 

 「…分かった止めはしない。 けど、その理由について教えてくれない?」


 「…それは。 分かりました、理由について教えます」


 相手は俺のことを心配して、更には意思を尊重してダンジョンに行くのを許可してくれたんだ。


 恩義はしっかりと返さなければいけないだろう。






 「…そっか、そんなことがあったんだ」


 「はい、だから僕はここに潜らなければならないんです」


「 「そっか、偉いな!」っちょっと! まずいですよ!」


 彼女はそう言うと急に俺に対して抱き着いた、胸が顔を圧迫して息が出来な──。


 「これは頑張るお前にサービスだ!」


 「こんなこと駄目ですよ! 会ったばかりの男性にいきなり抱き着くなんて!」


 「私から見たらお前なんてまだまだガキだ!」


 だからと言って、そんなこと──。


 「…気遣ってくれてありがとうございます。 それでは、行ってきます」


 「おう、家族の為にも生きて帰ってこい!」


 俺は親切な彼女の応援を受けて、少し震える足を抑えてダンジョンへの行くための扉。


 紫色に輝いているダンジョンゲートの中に意を決して飛び込む。




 




 

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ダンジョンで野糞をした俺、人気配信者に実況されて有名になりました。 後、汚名挽回の為に最強の探索者になろうと思います。 角刈り貴族 @KakugariKizoku

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