ダンジョンで野糞をした俺、人気配信者に実況されて有名になりました。 後、汚名挽回の為に最強の探索者になろうと思います。

角刈り貴族

第1話 野糞をしただけなのに…


 「──んおぉぉぉお! 撮影するんじゃねぇ!!」


 俺は不快な音を静かな迷宮の中で響かせながら、自然と体から出る声を我慢出来ずに叫ぶ。


 「ヤバwww 此処にダンジョンで野糞をしている変態が居ますwww!」


 「くっさぁ! こんなに汚い野糞初めて見たwww ってか野糞自体初めて見るわwww」


 「…不快」


 その地獄のような光景が、奴らの近くを飛んでいる撮影用ドローンのレンズに反射する。


 奴らはこの状況を見て俺を嘲笑い、人の不幸を晒し物にして自分の為に、お金の為に五歳以上年下である高校二年生を利用しようとしていた。


 「クソォぉォぉォ!」


 その間も俺の濁流が止まることなく、自分で聞くのも嫌になるほど不快な音を立てて地面を汚していく。


 「如何してこんなことにぃぃぃぃ!」


 俺はこの悲惨な状況から現実逃避をする様に、如何してこんな状況になったのかを思い出していた。





 二階には探索に必要な武器やアイテムを売っているダンジョン受付場。 俺はその一階にある受付カウンターで荒狂大地と書かれた生徒証を受付嬢に見せる。


 「これは、こうきょう大地さんですか?」


 「いえ、あれくるう大地です」


 「あ、あれくるうぅだいちw?」


 彼女は肩を震わせて必死に笑うのを我慢している。 まあ、こんな中二病心溢れていて馬鹿げた名前を聞いたら仕方ないだろう。


 俺の名前は荒狂大地あれくるうだいち、一人暮らしをしている高校二年生だ。


 普通の高校に普通に通い、顔も普通の特に特出すべき所もないような男。 強いて言えば、離れて暮らしている母親と妹は美人だ。


 「出来ました、此れが探索者証明書です」


 俺は先日、漸く親から探索者になる事を認められた。


 (よし、これで漸く俺の冒険が始まるのか!)


 「有難うございました!」


 しかし、朝から並んだのに時刻はもう昼過ぎを超えていた。 それを確認した俺はこの紅草ダンジョンの受付を離れ、近くにある飲食店を探すことにした。


 「はいどうも皆さんこんにちは──」


 …どうやらこのダンジョンには配信者も来るみたいだ。 俺は彼らを横目で見ながらその場を歩き去った。






 「それでは食べたら無料大食いチャレンジ、スタート!」


 暫く道を歩いていると揚げ物の良い匂いがした。


 俺は興味が惹かれたのでその匂いのする所に向かうと、そこにはかつ丼のお店があった。 


 しかし、店に入ると普通のどんぶりの十倍ぐらいの大きさをしたかつ丼を食べている成人男性が。


 これは何事だ、と俺はここがどんな店か気になって周りを見渡す。


 すると、どうやら食べたら無料の大食いチャレンジをやっている普通のお店みたいな事が分かった。




 なので、最初はそこまでお腹は減っていないので普通のかつ丼を頼もうとした。 だが、ふと財布を覗くと探索者証明書発行にお金を大分使ったこともあり、五百円ほどしかお金が入っていないことに気づく。


 なので、俺は何も言わずに店を出ようとするがそれに目ざとく気づいた店員に止められ、何故か俺がこのチャレンジに参加する流れに。


 「…よし、やってやるぞ!」


 まずはかつ丼なのに上にかかったカレーを…






 「ちゃ、チャレンジ達成おめでとうございます!」


 「あ、有難うございました」


 「兄ちゃん凄いぞー!」


 奇跡的に完食を達成することが出来た。 そして、このチャレンジを興味深そうに見てくれた人が称賛の声をくれる。


 「あ、有難うございます」

 

 俺は応援してくれた人達に感謝を伝え、重い足取りでその店を後にした。


 (こんな満腹な体でダンジョン探索しても大丈夫なのか?)


 まあ、探索と言っても浅い層を回るだけだし、大丈夫か。 俺はそう思い込み、必死に先ほどまでいた紅草ダンジョンへ向かうのだった。






 「…漸く着いた」


 俺は終わりの見えない辛い旅路を終えて、紅草ダンジョン一階に着いた。 途中で知らないおばあちゃんが足を痛めたので家まで運んだり、腹痛も来るしで大変な道のりだった。


 「これがダンジョンの空気かぁ─────あ、スライムがこっちに来た」


 俺が初めてのダンジョンに心を奪われていると、近くにゼリーの様なモンスターが現れた。


 「よし、倒してやるぜって…そんなに来たらッ──」


 俺が上で借りた木製のバットのようなモノを振り上げ、目の前のスライムを倒そうとするとさらに奥から大勢の同じスライムが此方に駆けてくる。


 「お腹にそんなぶつかるなッ! 人体の腹部に何の恨みがッ──」


 ──俺はその後も、出会ったモンスター全員に腹部を狙われるという奇跡的な体験や、隣で闘っていたパーティーから魔法を喰らうという不運を通じてお腹の危険度メーターを上げていった。


 そして数十分後、そのメーターが遂に振り切れた。


 だが、俺は何とか脱糞だけはしまいと走って人気のない所に行き、勢いよくズボンとパンツを脱いだ。


 「これで何と─「あれ、なんか変な所に来ちゃった──皆さん見てください! ダンジョンで野糞をしている変態が居ます!」」


 だが、此れがすべての始まりだった。 俺はいつこの事を思い出しても後悔する、大食いチャレンジなんてしなければ良かったと。

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