第012話 【アンデッドは水が苦手! ……ソースはドラキュラ】

 非常にもやっとする感じで当て馬のように扱われ、このまま櫻子さん(『様』と呼ぶような人でもなさそうなので、心の中では『さん』に格下げ)と一緒にいると言葉遣いなどがキツくなりそうだったこともあり、気分転換のために近所の散歩と言う名の『ストレス発散(ゾンビ退治)』でもしようと門までやってきた俺とカズラさん。

 櫻子さんにあたる分には彼女の自業自得だからどうでもいいんだけど、中身は違うとは言え綾香さんに冷たい態度を取るのは心が痛いし……。


「外出……ですか?」


 大手門で警備というか見張りをしていた自衛官の一人に、『外に出たいんだけど』と声を掛けると不思議な人を見るような視線と少し困ったような態度をされる。


「えっと、何かおかしなことでも言いましたかね?」


「あっいえ、なんと言いますか。外にいる人に入れろと要求されたり、中にいる人達から『行方不明の身内を探してもらいたい』などと相談されることはありましても、自分の意思で外に出たいなどという方はこれまでいらっしゃいませんでしたので……。

 南郷に確認を取りますので、申し訳有りませんがこちらで少々お待ちいただいてもよろしいでしょうか?」


 なるほど、確かに自衛隊と警官隊に守られた安全な場所から自ら進んで出ていこうなどと言う奇特な人間はそうそう居はしないだろう。


「別に私たちはあの人の傘下に入っているわけでもないですから許可を貰うような必要などなくなくないですか?」


 と、少々おかんむりなカズラさんの態度に『確かにその通りだ』と納得しそうになるも、南郷さん個人には別に思うところ含むところもない、むしろ中間管理職の悲哀のようなモノを感じているので大人しく待つことに。

 というか、こちらに着いてからは会議だなんだに付き合わされて昼飯も食ってないんだよなぁ。


「俺は晩飯ガッツリタイプですのでそこまででもないですけど、腹ペコキャラのカズラさんはそろそろお腹がすいてるんじゃないですか?」


「私に腹ペコキャラなんていうイメージは一切ございませんけれど!?

 もちろんあのような中学生女子のような朝食でお腹が満足できているはずもありませんのでガッツリと空腹ですけど?」


「やっぱり腹ペコキャラじゃん……何か食べたいもの」


「お肉! お肉がいいです!

 それもお上品なステーキではなくTボーンとかトマホークとかそういう感じの野性的な見た目の、手で持ってむしゃぶりつく感じのモノでお願いします!」


「さすがにそんなデケェ肉を野外で一から準備して焼こうと思ったら数時間掛かりそうだから却下ですね。

 てか昨日の晩飯も焼き肉だったじゃん。なんだかんだ、遠慮なく一人で二キロくらい食ってましたよね?

 そしてトマホークはギリギリ手で持って食べれますがTボーンは持てないと思いますよ?」


「探索者は体が資本ですので! タンパク質と脂質が大切なのです!

 そもそも私、お肉は別腹なので! デザートもドリンクも別腹ですが!」


「もうそれ牛の胃袋じゃねぇか……なら本当の腹には何を入れるんだよ……

 まぁ俺も牛・豚・鶏の区別なくお肉は大好きだけれども!」


 肉……肉……手軽に食える肉と言えばハンバーガー? いや、今回は気分的にこっちだな!

 通販サイト(異世界商店・日本支部)を開き、目的の品と電子レンジならぬ魔石レンジ(業務用1500ワット)を購入する。


「昨日カズラさんが中華が食べたいと言ってたので今日は豚まん記念日です!」


「いえ、私が食べたかったのはもっとこう、高級な感じの中華でしてですね」


「そんなわがままを言う子は食べなくていいです!

 そこで俺が『555』を美味しく頬張る姿を見つめていてください」


「お兄ちゃんは鬼ですか!? 食べます! 食べますからっ!

 私の分も早くチン、むしろ連続でチンチンしてください!」


 文句を言いながらも、俺が三個の豚まんを食べる間に八個もたいらげるカズラさん。


「ふぅ……お腹がふくれました……あとはデザートで南極のアイスキャンディがいっぱい怖い?」


「落語か。そして『いっぱい(湯呑みひとつ分)』ではなく『いっぱい(大量)』なのかよ。

 そこはアイスキャンディも南極じゃなくて555にしとけよ……てか図々しい居候だなぁ」


 一晩一緒に過ごしてカズラさんに慣れてきたからか、そういう所がちょっとだけ可愛いなんて思ってしまっているのは親戚の子供にご飯をすすめる親戚のオッサンの気持ちだと思いたい。


「あ、南郷さんもアイスキャンディいります?」


「良かった、もしかしたら私は他人からは見えていないのかと思ったよ……

 と言うか、居るのに気付いていたのならもう少し早く声を掛けて欲しかったのだが?

 あと、本当に何も無いところから物を出すことが出来るのだな……

 それと、そちらの電力を必要としない持ち運びが出来る電子レンジは一体どのような仕組みなのだろうか?

 是非とも自衛隊の備品として大量に納入してもらいたいのだが?

 あと、貰えるのならアイスでキャンディはなく、さきほどの豚まんを頂けないかな?

 さすがにこの寒空の中で冷たいものは腹が冷えてえらいことになりかねんし……

 というか、君たちはそんな金属製の鎧を身に着けていて寒くは無いのかね?」


「……あれ? そう言えばお兄ちゃんにコレをプレゼントしてもらってから寒くも暑くもないような?」


「カズラさんには何もあげてないから、レンタルしてるだけだから、帰還したら全部返還だから。

 この鎧って色々とバフ……『魔法的な力』が込められていてですね。温度とか湿度の調整もしてくれますので内部は常時心地よい常春なんですよ」


「何なんだそのデタラメなテクノロジーの装備品は……ええと、外に出たいとの報告を受けたのだが?」


「ええ、色々と不愉快なことがありましたのでゾンビとか盗賊とか退治して気分転換しようと思いまして。

 ああ、最初に約束しましたので最低限の食料の納品はいたしますが、それを持ちましてこちらとのお付き合いは終了とさせていただきますのであしからず?」


「なっ!? いや、いきなりどうしてそんなことに!?

 もしや先程相手をしてもらったニイミがまた君たちにちょっかいでも掛けてきたのかな!?」


「説明するのも面倒ですので、詳しいお話はお姫様にでもお聞きください」


 俺とカズラさんが豚まんにかぶりつくのを見て、非常に物欲しそうな顔でつばを飲んでいた自衛官さん達に大量の冷凍豚まんをおすそ分けした後、困惑顔の南郷さんに見送られながら門を出る俺とカズラさん。


「あ、レンジは帰ってきたら回収しますので壊さないでくださいね?」



 あんまり遠くまで離れると戻ってくるのが面倒、むしろそのまま違う場所に向かいたくなってしまいそうなので、マラソンコース(?)になっている皇居外周のゾンビを処理して回ることに。


「というか、お掘りの中にゾンビが一切入っていないのはどういうわけなのでしょうか?」


「言われてみれば確かに……水に落ちたら溶けるとか?

 いや、それなら自衛隊は銃ではなく水鉄砲で戦ってるか」


「女性のゾンビ相手なら殺伐とした世紀末の雰囲気が南国リゾートみたいな光景になりますね!」


「腐った死体とおいかけっこするリゾートになんて行きたくねぇ……いや、でも本当に堀りの中にゾンビが居ない理由は気になるな。

 あれかな? 吸血鬼は流れる川を渡れないとかどこかで読んだことがあるし、吸血鬼よりも下級なゾンビは流れてない川でも渡れないとか?

 でも、それはそれで……音に反応して襲ってくるし、聴力はそれなりにありそうだけど視力はそれほど良くもなさそうだし……どうやって水場があると判別してるんだろう?」


「嗅覚……は本人が腐っていて臭そうですから鼻が効くとも思えませんしねぇ?

 こう、第七の感覚とかに目覚めてるとか?

 ちなみにですが、もしもお掘りに落ちたゾンビはどうなるんですかね?」


「何処の聖闘士だよ……

 水に落ちたゾンビは……たぶん濡れるんじゃね?」


「ゾンビ関係なく全員濡れますよね?」


 ちょっと倒したゾンビの体の一部を掘に投げ入れて……さすがにろ過して生活用水に使っているらしい水の中にゾンビを投げ込むのは嫌がらせが過ぎるな。

 そもそも俺達が近くに寄るだけでゾンビが塵と消えちゃうんだから何も残らないか。


「私、こうしてのんびり恋人と目的なくお散歩とかするの憧れてたんですよね。

 ちょっと手とか繋いでもいいですか?」


「散歩と言うには状況が殺伐としすぎてますけどね?

 あと、俺とカズラさんは恋人ではないですし、ガントレットの上から手を繋いでもゴツゴツしてるだけなので嫌です」


 堀りに囲まれてるから寄り付かないのか、自衛隊が処理しているから数が少ないのか、皇居の外周を歩いていても散発的にしか遭遇しないゾンビ。


「お散歩デートの後はお部屋デートがしたいです!

 ホラー映画とか観ながら二人でイチャイチャとかしたいです!

 なんと! ここからなら私のお家までそれほど遠くはありませんし!」


 誰かが聞いたら『そんなもの観なくても現実がホラーなんだよ!!』と怒鳴られそうなことを言い出すカズラさん。


「昨日今日と歩き回ってますけど別に俺、ハイキングとかウオーキングとかが好きなわけでもありませんからね?

 基本的にお家とダンジョン大好きなインドア派ですし」


「お兄ちゃんにとってダンジョンは室内だった!?」


「まぁ、あれですよ。どうせ遠出をするなら、ここでとっとと大量の食料を卸しちゃって、お金を貰ってバイクとか購入してからですかね。

 それから改めて……帰る方法を探しながらウロウロすれば良いんじゃないですか?」


 一応帰還方法というか、それらしきヒントがありそうな場所に見当はつけてるんだけどね?

 俺達がこちらに飛ばされることになった大神山ダンジョン……いや、この世界にダンジョンがあるかどうかはわからないから大神山古墳と、この世界で赤い月が発生した時刻に異世界と繋がったであろう場所――俺の住んでいたマンション。


「なるほど! つまりツーリングからの!

 ウォールナッツランドとウォールナッツシーでデートですね?」


「間違いなく大量のゾンビが居るだけでアトラクションは一切動いていないであろうテーマパークに何しに行くんですか……」


 まぁ経験値稼ぎという面ではなかなか美味しそうな場所ではあるんだけどさ。

 でもほら……何と言うかさ。

 こっちの世界の綾香さんと会い、あのような態度を取られたことでとっとと元の世界に帰って思いっきり彼女に甘えたい気分の俺だったりするんだよなぁ……。



 ちなみに散歩も終わり戻った俺を出迎えたのは綺麗な姿で土下座する櫻子さんだったんだけど……別に話すこともないのでそのままスルーした。

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召喚された異世界で(知らない奴が)魔神を退治したら日本に送り返された俺。向こうでは役立たずだった祝福、『異世界商人』で日本初のダンジョン攻略者になる! あかむらさき @aka_murasaki

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