第011話 【踊る阿呆と一緒に踊らされるのはあまり気分のいいモノではない】

 注文がまとまるまでしばらく待ってくれと頼まれ、することもないので『クレイジー・プリンセス(櫻子様)』に誘われるままに中庭まで散歩に出た俺とカズラさん。

 もちろんこちらの世界の綾香さんも一緒である。うん、一緒なのはいいんだけどさ。


「いやこれ、大量の避難民を抱え込んでてほぼほぼ難民キャンプみたいな状況じゃないですか?

 見て回っても気分が滅入るだけで気晴らしにはならないと思うんですけど?」


「例えるなら落城寸前の会津城……それとも兵糧攻めされている鳥取城って感じですかね?」


「カズラ、白虎隊……じゃなくて、自衛隊の隊員さんに被害が出ているこの状況でさすがに不謹慎すぎる発言は止めなさい」


「これでも食料の備蓄などは他のコミュニティから見るとずいぶん余裕がある方なんですよ?」


 確かに皇居だもんね? 普段から天災に備えて地下にいっぱい備蓄とかしてそうだけれども。

 あと地下に緊急脱出用の地下鉄とかもありそう。


「問題は食料よりも先にお水が無くなりそうな事ですね……一応は浄水施設がありますので、お掘りからの補充も出来ますが人数が人数ですので……今ではお風呂はもちろんのこと、排泄物の処理にも不自由している状況です」


「ああ、お姉様が普段は使わないようなキツイ香りの香水をつけているのはそれでなのですね!」


「カズラさんはお母さんのお腹の中にデリカシーを忘れて来ちゃったのかな?

 さすがに彼女……と同じ顔をした人が臭いのは気になりますので、お風呂くらいなら俺がどうにかしますけど?」


「お兄ちゃんのソレもたいがいデリカシーの無い発言だと思いますよ?」


「ま、毎日濡れタオルで体は拭いておりますので臭いとかは……それほどしないと思いますが……」


 そう言いながらも顔を反らし、少し俺から距離をとる綾香さん。


「綾香さん、そこはかっこうをつけて遠慮するところではなく、可愛く甘えて殿方を利用……殿方におねだりするところだと思いますよ?

 ということでユウギリ様、現地嫁であるわたくしのためにも! 是非ともお風呂をご用意くださいませ!」


「こいつ今『利用』って言ったぞ!?

 俺は地元に残してきた綾香さん(とアテナ)しか嫁……彼女はおりませんので。

 櫻子様はただの現地の他人ですので先に相応の現金をご用意ください」


「お兄ちゃんはちょくちょく小さな声でゴニョゴニョ言いますよね?」


 などとくだらないことを言いながら大量の仮設テントが張られる区画を視察……いや今更だけど、どうして俺がそんなことしなきゃいけないんだよ……。

 そして、そんな集団――自宅(自城?)なので着替えがある櫻子様や、その服を借りているであろう綾香さんなどの小綺麗な格好をした女性――が歩いていれば、


「……国民の税金で暮らしているくせに、こんな所で俺達に不自由をさせておいて自分等は綺麗な格好をして飯も食い放題とか良いご身分だな!」


 目をギョロギョロと動かしながら口から泡を飛ばして難癖をつけに来るような人間もいるわけで。

 ……いや、その二人だけならばともかく、その隣に『光る鎧を来た人間が二人』もいるこの状況で、そんな行動に出る奴なんて普通に考えればいないと思うんだけど……もしかして◯◯◯◯か?

 まぁこの男の言い分も少しは解らなくもないんだけどね? 俺がそっちで暮らしている状況なら俺だって同じ様な事を思うかもしれないしさ。


 でも、


「勝手に転がり込んで自主的に何も行動することも無く文句を言ってりゃ飯が出るあんたもなかなかにいい『ゴミ分』だと思うけどな?」


「なっ、なんだと!! 俺を誰だと思ってるんだ!? ◯◯党のニイミだぞっ!!

 物を知らない若造が偉そうに囀るな!! 俺が一声かければ全国から数十万の同士が集まってくるんだからな!!」


「なんだよ、やっぱりただの◯◯◯◯じゃねぇか……。

 他人の家の庭で暮らすのが気に入らないならとっとと出て行けばどうだ?

 それとも全国から同士を集めてここで反乱でも起こすか? 三日くらいなら待っててやるぞ?」


「えー……私は三日も待つのは嫌なんですけど……。

 ということで、今すぐ内乱罪を適応してその男とその取り巻き全員始末してしまいましょう!

 大丈夫、こちらにはやんごとない方がバックに付いています!

 十人や百人始末しても愛国無罪になるはずです!」


「某国じゃないんだから愛国心だけでは無罪にはならないんだよなぁ……てか、そもそもカズラさんに愛国心なんて無いよね?

 そこのオッサン、とりあえず早めにごめんなさいしとけ。

 俺じゃなくてこっちのお姉ちゃんは狂犬とか狂牛とかそういう類の人間だから何されるかわからないぞ?」


「ふっ、ふざけるなよ!! やれるものならやって……

 おい、お前、そんな刀なんて抜いても……ひっ、ひいぃぃぃぃっ!?」


 腰から刀を抜き放ち、ゆっくりと男に近づくカズラさん。

 ……さすがに斬り捨てたりとかは……思いっきり刀を振り上げてるけど大丈夫だよね?

 さっきから、少し離れたところからこっちを見物してる南郷さん、そろそろ止めて欲しいんだけど?

 たぶん光っていて向こうからはまったく見えないと思うけど『もう十分だろう? 早くしろ』とアイコンタクトを送る俺。

 なんとか通じたのか、


「ストップ!! 待ちたまへ!!

 その男の君たちへの無礼は私が謝ろう!!

 だからどうか命だけは助けてやってくれたまへ!!」


 こちらへ駆けてきたかと思えば男の近くで頭を下げる南郷さん。


「……カズラさん、一旦そこまでで。

 南郷さん、今回はあなたの顔を立てて我慢しますが次は無いですからね?」


「ああ、了解した。さぁ、ニイミさんも彼らに謝罪を」


「なっ、ふ、ふざけるなよ!! どうして俺があんな◯◯◯◯に謝らないといけないんだ!!

 そもそも助けに来るのが遅すぎるだろうが!!

 この怠慢は非常事態が解決したら必ず国会で議題に上げてやるからな!! とっととそいつらを逮捕しろ!!」


「逮捕? ニイミさん、あなた……見てわからないのですか?

 彼らの着用している鎧……光っているんですよ?」


「それがどうした!!

 そもそもそんな、おかしな格好をしたおかしな人間を」 


「ニイミさん、ここに駐屯する人間では彼らを拘束することも止めることも出来ませんし、私もこれ以上あなたを庇う事は出来ません。

 ここで死にたくなければ、今すぐに彼らに謝罪を」


 真顔でそう告げる南郷さんの真剣な態度に、さすがに少しは状況が理解できたのかニイミの顔色が悪くなっていく。


「……少し感情的になりすぎた。騒ぎを起こして申し訳ない」


 嫌々ながらに頭を下げるオッサンと、


「チッ、次は有無を言わさずその首落としますからね?」


 捨て台詞を吐き、刀を鞘にしまうカズラさん。幕末かお前は……。


 てか、回りの人間が、特に子供が怯えて大泣きしてるじゃねぇか……。

 大丈夫だよー、ただの『茶番劇』だからねー。

 うん? どういうことなのかって?

 見たまんま、おそらくこれまでもやたらと反抗的だったあのニイミとか言う男を脅かすために利用されたんだよ。


 騒ぎの場から離れ、城内に戻る俺たち。


「……まったく、役者をやらせたいなら最初から台本を渡して欲しいですね。

 下手をしたらあのオッサン死んでましたからね?」


「あら、何のことかしら?

 ……もう、お姫様のことをそんな怖い顔で睨んじゃダ メ ダ ゾ☆」


 殴りたい、その笑顔……。


「いきなり『散歩に出ましょう!』なんていい出したところからおかしいとは思ってたんですよ」


 そう、ここに来てからは奇行ばかりが目立つけど、それでなくとも何か災害が起これば現地にいの一番に向かう櫻子様である。

 避難民が不便な生活をしているところにのんびりと散歩に出るようなことをするはずがない。

 ならどうしてそんな行動に出たのか? もちろんそれはあのオッサンを引っ掛けるため。

 たぶんこれまでにも、何度も何度も櫻子さんや自衛隊員に絡んでいたんだろう。


 こちらを振り返り、真剣な顔をしたかと思うと腰を九十度に折り曲げ、頭を下げる櫻子様。


「ユウギリ様、利用するような形になり申し訳ございません。

 私たちに暴言を吐くだけなら良いのですが……

 他の避難民の方々にも色々と迷惑を掛けるだけでなく、良からぬ行動に出ようとしておりましたので……」


「何も無い所に煙を立てる……いや、放火するようなタイプの人間に見えましたし、このような状況でなんらかのイニシアチブを握ろうと躍起になっていたんでしょうね。

 しかし、それにしても相談くらいは最初にしていただかないと……少々気分が悪いですけどね。

 綾香さんも最初からご存知だったんです?」


「はい……申し訳ありません」


「ユウギリ様! 今回はあくまでもわたくしが勝手に行動しただけのこと、綾香さんにも南郷さんにも何の責任もありません!」


 なるほど、こちらの綾香さんはこんな感じか……。

 いや、普通に考えればこっちの世界では俺なんて何の面識もない人間だからな。

 利用できるならば利用する、極々当たり前の話である。

 そんな俺達の会話にキョトンとした顔を……おそらくしてるんじゃないかな? と思うカズラさんが加わる。


「お兄ちゃん、いったいなんのお話なんですか?」


「んー、そうだな。カズラさんは可愛いなって話?」


「ふふっ、そうでしょうそうでしょう!

 とうとう私の魅力に気付いてしまいましたか!」


 脳筋可愛いカズラさん……たぶん漫画にしても売れないだろうな。


 まぁ櫻子様たちはこちらの能力や態度を確かめたかったんだろうけど……何にしても少し友好度を下げさせてもらおう。


―・―・―・―・―


厄介者の対応に困っていたら治外法権(異世界人)がやってきたので協力してもらおうというお話。

南郷さんと綾香さんには櫻子様が『大丈夫、私が話をつけておきますので』と伝えてあったので責任はないのですが……。

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