第010話 【お姫様はストレスの溜まるお仕事らしい】

 皇居防衛隊の責任者……的立場であるらしい南郷さんとの挨拶が済めば、続いてはあちらからの相談事を聞くフェイズに移行する。

 まぁあくまでも?言い分を聞くだけで、協力するかどうかはまた別の話になるんだけどさ。

 てかさ、上から目線で、無駄に偉そうな態度を取られてもイラッとするけど……基本的に日本のやんごとない方々って腰が低いじゃないですか?

 それはそれでこちらはどう対応するのが正解なのかわからなくて、非常にやりずらくなるから出来れば別室からモニターを使って観覧とかしてもらいたいものである。


 まぁ求められたことは六条父からのお願いとそんなに変わらないんだけどね?

 納入品の規模が数百数千倍、はたまた数万数十万倍になっちゃうだけで。


「とりあえず必要な物資は、

 一に食料品……もちろんこれには水も含まれるのだが。

 二に医薬品……こちらも薬だけではなく、包帯やガーゼなどもだな。

 三に武器防具……弾薬や銃火器、兵器は仕入れられないのだよな?」


「そうですね、まず食料はお金があればいくらでも。

 薬品につきましても……こちらはお高くなりますが即効性のある魔法薬、ポーションの類もありますがどうします?

 武器につきましては……リストに並んでいる商品はあくまでも向こうの世界の日本で合法的に購入できるモノに限られてますので、銃火器は全く無いです。

 剣や槍、弓や魔道具なんかは売ってるんですけどね?」


「ポーション……物凄く興味があるのだが、値段や効能はどの程度のモノなのかな?

 やはり銃は無いか……近接武器はな……使いこなせるような人員が限られている上に、ウイルス感染の危険性があるゾンビ相手にはすこぶる相性が悪い。

 ……いや、君たちを見ているとそうとも言えないのか?

 光っていて詳しくは見えないが、そのような全身鎧なら噛みつかれる心配はかなり軽減出来るものな。

 しかし、飛沫感染と言うか、飛び散った相手の肉片や血液が体に付着することによる感染は防げないだろう?」


「光っていることからもわかるとは思いますけど、この鎧も剣も特別製なんですよ。

 聖銀(ミスリル)っていう異世界金属で出来ている上に、聖属性の付与までしてありますので、ゾンビやグール、レイスやヴァンパイアなんかのアンデッドに対しては圧倒的なアドバンテージがある……ぶっちゃけると、下級のゾンビやグール程度なら近寄るだけで消えて無くなります」


「なっ!?なんなんだその理屈の通らない性能は!?

 その、もしお願いすればそれらの聖銀?で出来た装備品や異世界金属を仕入れることは可能なのかな?」


「不可能ではありませんが……べらぼうな金額になりますよ?

 これって、向こうの世界ですら一グラムで数十、数百萬の値が付く希少金属ですので。

 向こうからの送料や加工費用を考えれば、この細剣一本でも一千億くらいの見積もりになりますからね?」


「ははっ、剣一本で最新鋭の戦闘機が十機買えるのか……」


 使いようによってはその剣一本で、このゾンビ騒ぎを根本から解決出来るかもしれないだけの性能を持っているんだから、まったく高くは無いと思うんだけどねぇ?

 でも六条父にも説明した通り、この世界の、魔力、魔法力の無い人間が振り回した所でどれほどの効果が発揮できるのかわからなのが玉に瑕。


「まぁお兄ちゃんは、そんな値段の金属で出来た短刀をぽんとお姉様にプレゼントしてましたけどね?」


「向こうの私、どれだけ愛されてるんですか……」


「今度カズラさんにも月の土地とか買ってあげようか?」


「それって胡散臭い会社が勝手に権利書を発行してるジョークグッズみたいなやつじゃないですか!

 私にも、今借りているこの鎧と刀をくださいよっ!

 お姉様だけではなく私もお嫁さんに出来るチャンスですよ!?」


「寝言は寝て言え?」


「私の扱い雑すぎませんか!?

 私、お嫁さんにしたい探索者ナンバーワンですよっ!!」


 ……普段の行いを振り返れば自ずと答えは見えてくると思うんだけどな。

 そして、有名探索者の女の人って……うん、まぁほら、ね?

 もちろん女性に限らず、男も碌なのが居ないんだけどさ。

 その中でナンバーワンとか言われても……ねぇ?


 そんなくだらない雑談をしてる間にも、兵站部門の担当者から欲しいもの、足りないもののリストが続々と上がってくる。


「何人の何日分の物資なのかはわかりませんが、すでに結構な量ですね」


「ちなみにだが、支払いは美術品や宝飾品などでは……」


「個人的には欲しいですけど、残念なことに取引先が現金しか受け付けてませんので……」


 いや、そもそもさ、日本円がどうして使えるのかってことが理解不能なんだよな。

 魔石はまぁほら、何かこう魔力に還元してどうとかこうとか……みたいな?理屈ではありえるかも?と思えるんだけどさ。

 日本円なんて言うなればいくらでも増やせる紙切れみたいなもんじゃん?

 そこにこもってるのは魔力とかじゃなくて怨念じみたものくらいじゃん?


「これは……ちょっと近隣の銀行を襲……引き出しに行くしかないな」


「思考が完全にお兄ちゃんと一致……」


「ここには犯罪行為を取り締まる側の人たちもたくさんいるんだから余計なことを言うのは止めなさい。

 あっ、俺はまだ実行に移してはいないですからね?

 そもそも引き出しやすそうな所は全部持ち出し尽くされてましたから」


 何にしても皇居に大量の現金などあるはずもないので、各地からお金をかき集める間はお城でダラダラと待機することになるのだった。


 ……いや、ダラダラするのとか時間の無駄だし!

 向こうに帰るまでに上級職とか特殊職とかも育てておきたいし!

 でも、タダ働きとかしたら調子に乗られるかもしれないし。


「報酬さえ頂けるのであれば、ここで待ってる間に近隣のゾンビの掃討くらいならお手伝いしますけど?」


「でもお高いんでしょう?」


「おおう!?何だいきなり……」


 南郷さんに提案したら後ろからテレビショッピングの様な返事が。

 振り返るとそこには――


「って、櫻子様!?」


「はい、櫻子です。夕霧様は綾香さんの恋人だとか。

 綾香さんは三じゅ……二じゅ……少し前からのわたくしの友人。

 つまり綾香さんの恋人はわたくしの恋人のようなもの」


「ジャ◯アンかお前は。

 お初にお目にかかります、私は……名乗る価値もないような下々の者です。

 というか、そちらの綾香さんの恋人ではなく、違う世界の綾香さんの恋人ですので、そのへんお間違えなく」


「まぁそのような他人行儀なことはおっしゃらないで?

 夕霧さん、わたくし、こう思うのです」


「いきなり何でしょうか?」


「夕霧さんの、ちょっといいとこみてみたい?それぼ◯き、ぼ◯き」


「誰か!このイカれたお嬢様にお薬を用意して!」


 何だこいつ……テレビで見たことしか無いけど、キングオブお嬢様、いや、お嬢様にキングはおかしいけれども。

 静たんみたいな偽物じゃなく、正真正銘、日本一の大和撫子だと思ってたのにっ!

 あと、帰ってからしばかれそうだから静たんを偽物とか言うの止めろ。


「という事で、あなたがゾンビを退治しているそのお姿、勇士の勇姿、いえ、雄姿を見せていただきたいのですが?

 出来ますれば無料で。無料、お好きですよね?

 あっ、もちろんタダでとは申しませんよ?」


「何を言っているのかまったくわからないです。

 あと、節々にツッコミを入れづらい下ネタっぽい発言を挟まないでください。

 と言うか、本当にいきなり何なんですかあなたは……

 あと、無料でと言っておいてタダじゃないとは一体?

 いえ、サイコパスの発言とか常人の俺には理解できませんので聞きたくは無いですけれども」


「夕霧さん、わたくしの愛読書にこのような言葉がありました。

 『男の人っていつもそうですね……! 私たちのことなんだと思って


「本当にゾンビが徘徊する世界でその発言(ネタ)はいろいろとマズイので止めてください。

 あと、やんごとない方がネットでエロマンガを読むのも止めてください」


 いや、あの作品はエロマンガでは無いな、うん。


「夕霧さん、わたくし、こう思うのですよ」


「おそらく問題発言しか出てこなさそうですのでもういいです。

 思ったことはそのままあなたの心のなかにしまっておいてください」


「綾香さんが行けるのならばわたくしもストライクゾーンなのではないかと」


「だから言わなくていいと……いや、いきなり何の話なんですか」


「つまり、異世界から現れた勇者である夕霧さんがこの国を救い、その報酬としてお姫様である私を報酬として要求するのです」


「俺が求めている報酬は現金だけ……いや、俺がもらう報酬としてなら貴金属や美術品なども有りだな」


「もう、いきなりわたくしが美術品の様に美しいだなんて……

 ということで、ゾンビを二、三匹退治してわたくしをこの荒れ果てた世界からあなたの世界に連れ去ってください」


「ゾンビ二、三匹分とかこのお姫様安いな!?

 というかあなた、ただただ荒廃した国から逃げ出したいだけですよね?」


「違いますよ?逃げ出したうえに年下の旦那様までゲットしようと考えておりますので。このビッグウェーブに乗り損なえば、未婚のままで年老いるかもしれませんからね?」


「そ、そらなら私も、一緒に付いていきたいです!

 夕霧さん、ほら、私も一人ではなく二人居るほうがいろいろと捗ると思うんですよ」


「無理です。お兄ちゃんの次のお嫁さんは私ですので!」


「いや、俺の恋人は向こうの綾香さん……(と、アテナ)だけですから普通に無理ですけどね?」


「今、小さい声で何かいいましたよね?」


 そもそも向こうに帰る方法がわからないからどうしようもないんだけどさ……。

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