第009話 【人の彼女をちゃん付けで呼ぶんじゃない!】

 どうも、六条さんの先導で案内され、皇居の中を見学中のツアー客です。

 いや、確かに六条さんは旗を持ったままだけど全然違ぇわ。

 ……今度、バスガイドさんのコスプレしてもらって


『ここで一度休憩に入ります。

 そちらの双子山は自由に散策が可能ですので、是非とも山頂のさくらんぼ狩りなどを楽しんでっ……あっ、まだ、まだ説明が途中でっ、うっ、あっ……』


 みたいなプレイしてもらおうかな?うん、皇居で何を妄想してるんだ俺は。


「門とか庭とか外観とかはお城っぽいけど、建物の中はホテルと言うかバブル期に建てられた無駄に豪華な旅館みたいな感じなんですね?」


「櫓の内部とかは普通にお城っぽいですし、建物によっては体育館みたいなところもありますけど、来賓の方が案内されるようなスペースは確かに高級な旅館っぽいかもしれませんね」


 まぁ二条城とは違って普通にやんごとない方の生活空間でもあるんだもんな。

 そして俺による謎の二条城押し。

 だって姫路城は一回しか行ったことないし、大阪城とかただのコンクリの建物だし。


 キョロキョロと見学を兼ねて城内――皇居内を移動、最終的にたどり着いたのは映画で見た、御前会議とか開いてるような会議室。

 そこで出迎えてくれたのは、


「ご足労頂き感謝する、私はこちらの警護にあたっている陸上総隊司令部……っと、このような有事に仰々しく名乗るのも無駄でしかないな。

 自衛隊の南郷(なんごう)です」


「ご丁寧にどうも。自分は学生……と言って良いのかな?

 迷子の真紅璃です」


「妹の鷹司葛です!」


 妹どころか身内ですら無いんだよ……いや、六条さんと結婚したら本当に従姉妹になるのか。

 向こうから手を差し出されたので、こちらの手を伸ばして握手をする俺と南郷さん。

 まぁ俺は鎧姿のままなので握手も籠手越し。そもそも兜を外してもいないから顔も見せてないんだけどね?

 戦場の真っ只中……とも言えなくもない場所だけど、顔を出すくらいは問題ないだろう。


「ええと、この姿のままだと自分が地球人かどうかすら判断できないと思いますし、兜だけでも外した方がよろしいでしょうか?」


「ははっ、確かにそれもその通りだね。

 いや、それもこちらが急かすように、休憩もなくこちらに案内してしまったからなのだが」


 ミスリル製のヘルメットを外し……そこらへんに置きたくは無いので『荷台』にしまう俺。

 カズラさん?もちろん、まったく脱ぐ気配はない。

 何と言うか、俺以上にこっちの世界の人間に一線を引いてる気がする。

 一応六条さん、綾香さんにはバイザーを上げて顔は見せてたんだけどね?


「なっ!?いきなり兜が……消えた……?

 いや、そもそも鎧が光っていると言うことからしておかしいのだから兜が消えるくらいは普通なのか……?

 落ち着いた話し方からもう少し年かさなのかと思っていたが、想像よりもお若い……

 いや、学生と言っていたのだから当たり前なのだが」


「はい、見ていただいた通りまだ十六歳の若輩者ですので、交渉事はお手柔らかにお願いしますね?」


 手振りで席に着くようにと案内される俺。カズラさんは……ああ後ろに立つんだ。

 そう言えばこの人、一応俺の護衛名目で付いてきてたんだった。

 真面目に職務に当たるカズラさん、違和感しか無い。


 俺が椅子に腰掛けると(何故か六条さんが俺の隣に座った)さっそく話し始める自衛隊の人。


「異世界……平行世界からのお客人などという、普段なら学者も交えてお聞きしたいことが山程あるような、イレギュラーな出会いなのだが……見てもらった通り、何分このような緊急事態が半年以上も続いている状態でね。

 単刀直入にお願いしたい、君たちのその力を我々に貸してはもらえないだろうか?」


「本当にどストレートに来ましたね」


 腹に一物も二物も抱えてそうな、カズラ父と雰囲気の似たところのあるその切れ者の参謀然とした外観から出てきたのは……意外なことに回りくどい交渉では無く、ストレートな協力要請だった。


「ははっ、いや、最初に六条さんと鷹司から連絡を受けた時はどうしようかと随分と悩んだのだけどね?

 もしもここで威圧的な対応でもすれば、間違いなくそのまま出て行くタイプだよね?真紅璃くんは。

 それに最初の挨拶での『迷子』と言う自己紹介。

 この国の、この世界の人間じゃないって意思表示までされてしまったからさ。

 おそらくは情に訴える様なことをしても、一ミリも心を動かすことなどなさそうだし」


 うん、とても素晴らしいプロファイリングだと思う!

 でも、そこまで冷血でもないんだけどねぇ?もちろん、俺が優しいのは身内認定した人に対してだけなんだけどさ。


「もっとも、綾香ちゃんに対してだけは妙に優しい……

 と言うよりも、最初に対応に出たのが彼女じゃなかったらそのまま立ち去ったのではないかな?

 というか、並行世界から迷い込んで真っ先に六条の屋敷を訪れた上で、ここまで安否の確認に来るような関係。

 もしかして……向こうの世界で彼女は小さい頃の憧れのお姉さん、もしかすると初恋の女性……だったとかかな?」


「いえ、そんな遠い関係ではなく、大切な彼女でした。

 ……あと、綾香ちゃんなどと随分と親しげに呼ばれていますが六条さんとはどのようなご関係で……?」


「えっ!?彼女!?二倍ほども年の差があるのに!?

 いや、普段から奇行の目立つ子だからとついつい聞き流したが、先ほど鷹司の娘が妹と言っていたな……

 つまり、彼が高校生だと考えて、そちらの世界の葛ちゃんは中学生……それならば綾香ちゃんが高校生ってこともありえるのか?

 いや、鷹司――隆文と僕は古くからの友人でね。その繋がりで小さい頃から知っているのでついつい馴れ馴れしい呼び方になってしまってね」


「そうですか……もしも不倫などの不適切な関係性なら色々と世界の修正とかしちゃおうかと思いました」


「そのような関係ではまったくないからね!?

 というか世界の修正って……何それ怖い……」


「ちなみに向こうの世界の綾香さんも年齢は同じですよ?」


「えっ!?向こうの世界の私……男子高校生と深い交際をしてるなんて超勝ち組人生じゃないですか!?

 一体どんな徳を積み重ねればそんなことに……」


「綾香ちゃ……六条くん、彼は『彼女』だとは言ったが深い交際とは一言も」


「お兄ちゃんとお姉様は普通に男女の関係でした!

 ソースはそういう関係になってから毎日惚気けられていた私です!」


 あの人年下の従兄弟に何の話をしてるんだよ……。

 あと、ここにいるのは俺達とこっちの世界の綾香さんと南郷さんだけじゃないんだからね?

 普通に他の人達も……てか、向こうで座ってる方って、画面越しにしかそのご尊顔を拝見したことはないけど完全に『やんごとない』方々じゃないですか。

 海外ではその美貌から『ドライアドプリンセス』と呼ばれていた櫻子様もいらっしゃるし。


 ……うん?どうして『呼ばれる』じゃなくて『呼ばれていた』なのか?

 それはほら、彼女の年齢が……確か綾香さんと同い年だったような?

 最近では、一部の不敬な連中からは……とてもいい笑顔でご本人から睨まれている気がするのでこの話はこれくらいにしておこう。


「だ、男女の関係なのですか!?何なんですそのウラヤマけしからん状況は!?

 でも、さすがにそれは……向こうの私、普通に犯罪で捕まってしまうのでは?」


「大丈夫ですよ?向こうでは……何やかやあって十六歳成人ですので。

 ……いや、今はそんな下世話な話はどうでもいいと思うんですけどね?

 ほら、南郷さんが俺の彼女を綾香ちゃんなんて呼んだことで限りなく決裂したも同然の交渉が残ってますので」


「真紅璃くんはとても心の狭い人物なのだな!?

 いや、そもそも君の彼女はそこにいる六条くんではないよな!?」


「それはそれ、これはこれです」


 もちろんこちらの世界の六条さんに手を出そうなどということは一切考えてないんだけどさ。

 下手に情でも移っちゃったらドツボにハマりそうだし……。

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