第3話「ハズレ」

とある異世界。この世界では成人すると、神から能力スキルが与えられる。人々はそれぞれの役職の中でこのスキルを活かし、それぞれの生活を豊かにしているのだ。


そして、とある街の冒険者ギルド。ここに1人、成人の儀を終えた青年が訪れていた。


「ですから、」


「おめでとうございます。貴方のスキルは『付与魔法』です」

「……は?付与魔法だって!?」


教会のシスターにそう告げられた青年、フェンは絶望を浮かべた表情でガックリと肩を落とした。


「なにか、ご不満でも?」

「最悪だ……付与魔法とか、ハズレのスキルじゃないか……」

「なっ!?無礼ですよ!神からの祝福にケチをつけるのですか!?」

「だってハズレはハズレだろ!クソっ、なんてこった……」


膝から崩れ落ちたフェンは、シスターに縋り付くように訴える。


「お願いだシスターさん、もう一度やり直しを……」

「いけません!賜った祝福に感謝するどころかこき下ろし、挙句祝福をもう一度授かりたいなどと……これは神への冒涜です!」

「そんな!?冒涜だなんて、俺にそんなつもりは……」

「出ていきなさい!この恥知らず!」


シスターからのビンタと共に、フェンは教会からつまみ出された。


「痛た……ダメかぁ……」

「な~にやってんだよ」


起き上がろうとする青年に手を伸ばしたのは、フェンの幼馴染、ダリルとニーニャだった。

彼らも青年と同じく、今日で成人を迎えスキルを授かりに来ていたのだ。


「立てるか?」

「ああ……」

「何やってるのよ。あんな事言ったら、怒られて当然じゃない」

「それはそうだけど……お前らは“聖騎士”に“魔物使い”、アタリ中のアタリスキルだろ。俺の気持ちなんて分かんねぇよ」

「アタリにハズレ、ねぇ。お前の言うそれって、どういう基準なんだ?」


聖騎士のスキルを授かった青年、ダリルはフェンに問いかける。


「そりゃあ戦闘系のスキルに決まってるだろ!剣術に属性魔法、格闘術に弓術!戦闘系以外のスキルなんてあったって意味ねぇだろ!?」

「昔から思ってたけど、あんた脳筋すぎない?頭戦闘民族なの?」

「んだと!?バカにしてんのか!」

「まあ待て。じゃあ、逆に戦闘系以外がハズレだと思う理由はなんだ?」


言い合いに発展しかけていたフェンとニーニャ間に割って入り、ダリルは重ねて問いかけた。


「まず“鑑定”なんかは見たものの状態が分かるだけだろ?そんなのスキルがなくたって誰にでも分かるだろ」

「は?」


初手からあまりに浅慮な答えが返ってきたことで、ニーニャは困惑する。


「次に“作成”系とか“錬金術”も使えないな。魔力を消費してアイテムを作れるって、それ店で買えるしスキルが無くても自分で素材集めて作れるじゃん」

「手間が省けるし金も節約できるんだけど……」


ダリルも思わず頭を抱えた。フェンは自分が言ってることがおかしいと理解していないのだろうか?


「それから“治癒魔法”、あんなのポーションの下位互換だろ?魔力消費するし、1人じゃ戦えないんだしよ」

「ポーション飲む手間がかからないし、ポーション買わなくてもよくなるって考えはないわけ……?」

「あと“付与魔法”!武器とか肉体を少しの間だけ強化するだけじゃん。そりゃレベルが低いうちは役に立つかもしれないけど、レベル上がってきたらわざわざ強化する必要なくね?」

「コイツ、昔からバカだとは思ってたけどここまでとは……」

「僕も予想外すぎて頭痛くなってきたよ……」


あまりにも自分本位な基準による偏見意識。

もはや差別とさえ言えるレベルのそれに、2人は呆れ果てていた。


「チクショー!戦闘系スキル欲しかった!……まぁ、変えられないなら仕方ないか。このまま冒険者としてのし上がってやる!」

「おう、頑張りなー」

「応援はしているよ……うん」

「なに他人事みたいに言ってるんだよ?お前らもパーティー組むんだろ?」

「「は?」」


1人で落ち込んで自己完結。そして当然のように自分たちと組むことを前提としたフェンの口ぶりに、2人は思わず顔を見合わせる。


そして決意する。この後の行動を。


「こんなハズレスキルじゃ、冒険者になった所でどこのパーティーも入れちゃくれないからな。その点、幼馴染のお前らならそんな心配もないし、気も遣わなくていい。だから……」

「フェン、残念だけど断らせてもらうよ」

「へ?」

「そうね。あたしも遠慮しておくわ」

「ちょっ、お前らどうしたんだよ!?俺たち友達だろ?」


幼馴染たちの冷たい態度に、フェンは困惑しているようだ。


「友達だった、よ。今日であんたとは絶交するわ」

「そんな、どうしてだよ!?俺がハズレスキル持ちだからか!?」

「フェン、自分の言動を振り返るんだ。今日の君の態度はあまりに酷い。神に見放されても当然と言えるほどだぞ」

「考えを改めるまで口聞かないから。じゃ、さようなら」

「おい!ダリル、ニーニャ!待ってくれよ!」


こうして、フェンは幼馴染たちに絶縁を宣言されてしまうのだった。


そして──


「それはお気の毒に……?」

「スキルひとつで絶交とか、あんまりだろ!?あいつら、絶対見返してやるんだ!だから頼むよ、高ランククエストを受注させてくれ!」

「ですから、お客様の冒険者ランクは新規登録したばかりのFランクですので……」


現在、フェンは冒険者ギルドの受付でクエストを受注しようとしていた。受付で身の上話をしながらゴネる彼の態度には、受付嬢も迷惑そうな顔をしていた。


「俺の実力はFランクなんかに収まらないぜ?」

「お客様、先程は付与魔術師がハズレとかなんとか言ってませんでした……?」

「ああ、この前まではな。けど俺、気づいたんだよ。付与魔法って他人には一定時間しか効果ないけど、自分への付与はずっと続くんだよ。これ、ハズレどころか大アタリじゃね?」

「お客様、冒険者ランクは個人の能力ではなく、当人のこれまでの依頼達成回数などの功績を基準としております。ランクを上げたいのでしたら、まずはご自身の身の丈に合った依頼を達成してください」

「だからFランクのクエストなんて俺の実力には見合わないんだって!」


何度説明しても、この会話の繰り返しだ。フェンの様子を見ている他の冒険者たちも、あまりいい顔をしていない。そろそろ限界だ。


「そこの君」


そこへ、野太い声の大柄な男がやってきた。フェンは声の主を振り返る。


「はい?俺のことですか?」

「他のお客様の迷惑だ。残念だが出ていってもらおう」

「は?あんたどういう了見で……」

「業務妨害で突き出されたくはないだろう?さあ、出ていくんだ」

「お、俺は悪くないぞ!そこの受付が……」

「ギルド長!申し訳ありません、お手を煩わせてしまって……」

「は……?」

「いや、いい。規則も弁えない若造の相手は、新人の手にゃ余る」


ギルド長と呼ばれた男は、鋭い目付きでフェンを見下ろした。


「もう一度だけ言う。出ていけ、今すぐだ!」

「ぬぐぐ……ああ、出てってやるよ!こんなクソギルド、こっちから願い下げだ!」


気圧されたフェンは、そのままギルドを飛び出していく。受付嬢はホッと息を吐き、ギルド長は呆れながらフェンの背中を見送った。


「まったく、近頃の若いモンは礼儀を知らんのか」

「ギルド長、あの人って確か最近噂になってる……」

「ああ、この辺りの殆どのギルドから出禁をくらっている迷惑客だ」

「懲りない人ですね。あんなに自己顕示欲が強い人、中々見ませんよ」

「あのくらいの若いモンは自分の力を誇示したがるもんだ。自分は特別だと思い込んでるし、周りの連中よりも特別になりたがる。なるべく早いうちに目が覚めりゃいいんだが……」


それから数日後……。街の朝刊にこのような記事が掲載された。


『新人冒険者、Eランクワイバーンに1人で挑み死亡』


受付嬢に渡されたそれを読んだギルド長は、誰にともなく呟く。


「何もかもをハズレにしたのは、あいつ自身の心だったんだろうよ。あの小僧にもっと謙虚さがあれば……」

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異世界SSS~ショートショートセレクション~ 金城章三郎 @Emmyhero

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