第2話「女神様」
「あれ……?俺、死んだ……よな?」
「お目覚めになられましたね、
「うわっ、貴女誰ですか!?」
「私は女神マリエル。貴方に頼みたいことがあり、お呼び致しました」
交通事故で命を落とした青年。死後、目を覚ました彼は女神と名乗る女に出会う。全てはそこから始まった。
「凌太様、あなたには異世界へ行ってもらいたいのです」
「異世界……って事は魔法とかスキルとかある感じの!?」
「はい、概ねそういう世界ですね」
なんでも女神マリエルはその世界で、他の神々に嵌められ締め出されてしまったというのだ。このままでは世界はその神々に支配されてしまうらしい。
「そこで、貴方を勇者として派遣したいのです。勿論、必要な能力は出来うる限り何でも与えます。お願いできますか?」
「ええ、是非とも行かせてください!」
マリエルの美貌に心奪われた凌太は、二つ返事で承諾した。またマリエルは、世界を救った暁には報酬も用意すると言ったが、彼はそれを断った。
「生き返らせてもらえるだけでも有難い事なんです。それ以上のことなんて、俺は望みません」
「なんと謙虚な……。素晴らしい!貴方のような人間は好ましいです。特別にもっと加護を盛っておきますね!」
(よっしゃ、追加ボーナスktkr!これでチートウハウハ、女神様のハートもゲットだぜ!)
それは凌太の見栄だった。下心を隠しつつ、謙虚さをアピールしようとしたのだ。
そして彼の狙い通り、マリエルは大層喜んだ。あれもこれもと、彼にいくつものチート能力を与えたマリエルは、凌太を異世界へと送り出した。
「では、お願いします!」
「任せてください!必ずや、世界を取り戻してみせます!」
凌太はマリエルの使者として、異世界の各地を回った。
成すべきことは、全て頭の中に響くマリエルの声が啓示してくれた。倒すべき相手を。協力すべき存在を。獲得すべきアイテムやスキルを。そして目指すべき場所を。
示唆されたダンジョンへ赴き、徘徊するモンスターを倒し尽くし、そして最奥に隠された封印を破る。マリエルが再びこの地に戻れるようにするためだ。
「お前か、女神マリエルが遣わしたという男は」
「あんた、何者だ!?」
「俺はガイ。我らが父なる創造神ユピト、そしてそれに連なる神々の命により、貴様を倒す!」
いくつもの封印を破壊し続けた青年は、ある日勇者と呼ばれる青年、ガイに遭遇する。
ガイはこの世界に君臨する神ユピトから祝福を受けた存在であった。ユピトは女神を追放した神々の長である。つまり凌太がこの世界に遣わされた理由に他ならない。
凌太は全力でガイと戦った。ガイはユピトを始めとしたこの世界の神々の祝福を一手に授かっており、凌太を上回る強さで迫ってきた。
しかし、凌太もただ旅をしてきたわけではない。チートであらゆるスキルを手に入れた彼は、ガイが授かったいくつもの祝福を突破し、遂にその喉元へと刃を突きつけた。
「これで終わりだ!」
あとはガイが降参するか、凌太がガイの首をはねればそれで終わりだ。
(所詮、こいつは神々から祝福されただけの存在。俺はこれまでの冒険の中で、多くの経験を積んできた。その俺に、与えられた力だけで勇者だなんだと持ち上げられてちやほやされてきた奴が、勝てるわけねぇだろ)
凌太は勝利を確信した。
だが、ガイから返ってきたのは意外な言葉だった。
「リョウタ……お前は騙されている。お前が仕える女神マリエル、その正体は……この世界から追放された邪神なんだぞ!」
「……は?」
思わず聞き返してしまった。
ガイいわく、女神マリエルは神々を滅ぼして自らがこの世界の支配者になろうとしたために追放されたのだという。この世界に干渉できないようにされたマリエルは、別の世界の人間を手駒として送り込む事で、彼女にとって都合のいいように動かしてきたのだと。
「これまで何人もの転生者が駒として送り込まれてきた……。お前もその1人に過ぎないんだぞ!」
「だ……黙れ……」
思わず手が震える。
それは怒りか、それとも焦燥か。
「女神様は……マリエル様は俺に全てを与えてくれたんだ!金も、地位も、仲間だって!前の世界では手に入らなかったものばかりだ!そんな人が悪人なはずないだろう!?」
「惑わされるな!全てお前を動かすための餌だ!」
「そんなはずがあるか!!」
ガイは反撃を試みる。凌太に突き付けられた剣を叩き落とすと、素手で殴り掛かる。
凌太は迷いながらも応戦した。これまで積み重ねてきたもの全てを否定されたような感覚に、震えは止まらない。だが……。
『いいえ、滅びたりしませんよ。私を世界の中心とする事で、人間たちは救われるのです』
頭の中に女神の声が響く。甘く、優しく、心地よい声だ。彼女に導かれてここまで来た自分は、幸せな人生を歩んできた。そんな彼女が邪神であるはずがない。きっと勇者が俺を揺さぶるために吐いた虚言だ、と凌太は自らに言い聞かせた。
やがて、両者の戦いに決着がつく。
最後に立っていたのは、凌太の方だった。
勝利を手にし、凌太は最後の封印を破壊した。
『ありがとう、これで世界は救われます。凌太様、全部貴方のおかげです』
マリエルの声が淡々と響く。
震えが止まる。当然だ、これまでの旅で培った力、技術、経験の数々。積み重ねてきたもの全てをぶつけて勝利したのだから。自分の旅路は無駄なんかじゃなかったと、凌太はホッと息を吐いた。
(あれ……?思い返すと、今までの旅路って……)
……そこで思考が凍りつく。
何故なら、彼の選択は全て女神に指示された通りのものだからだ。
その手に握った魔剣も、使える魔法も全て、女神に導かれるままに手に入れたものだ。
従ってさえいれば、何の失敗もない人生が約束される。そうして自分では何も選ばず、何も掴んでこなかった。
それに今、こうして旅を振り返ってようやく気がついた。気がついてしまったのだ。
凌太に積み重ねてきたものなどなかったのだ、と。
『今までごくろうさま。あとは私に任せて、ゆっくりとお休みなさい』
そういえば初めて出会った時、報酬なんて要らないと言った自分をマリエルは喜んでいた。あれはもしかして……。
思考をかすめる最悪な結論を、凌太は首を横に振って否定した。
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