第36話 強くなるには

「強くなるには、魔物をたくさん倒してレベルアップするのが手っ取り早いんだけど……」


 ヴィルヘルムとシャルロッテに向かってクラインはそう言った。言ってから、困ったように頭を掻く。


「けど、この辺の魔物って弱いんだよな~」

「らしいね」


 そばで聞いていたピエールが応じる。


「勇者の力で守られてるんだったっけ?」

「ああ。だから村周辺の弱い魔物倒しても、あんまり強くはなれないんだよ」

「何を言っているのだ、お前たち」


 身支度を整えながらジークフレアが答える。


「こいつらの目的は人を殺すことだ。ならば、一人でも多く斬るに限る。なぁ?」


 グリム兄妹に笑いかける。


「よし、出立するぞ!」


 刀を片手に立ち上がった。


「今から村人を斬る。何人斬れるか、三人で競おうじゃないか!」

「えぇっ!?」


 シャルロッテが声を裏返す。


「ダメですよ、そんなこと!」

「何言い出すんだよ! お前の大切な領民だろ!?」


 ヴィルヘルムも血相を変えて反対した。


「てか、どさくさに紛れて何、自分も斬ろうとしてんですか!? 楽しもうとしてんじゃねぇよ!?」


 クラインも思わずツッコミを入れていた。


「アッハハハハ! でも一理あるよな。敵はマティアス、魔物じゃなくて人なんだから」

「一理も無ぇ!!」


 ピエールの頭を、クラインはどついた。


「おい待て、餓鬼ども」


 だがジークフレアは真剣な眼差しを、兄妹に向けた。


「さっき覚悟を決めたと言ったばかりだろう。口だけだったか?」

「決めたよ!? でも、そういうこっちゃねぇよ!」

「覚悟って言うのは、どうしてもって時の覚悟です! これはどうしてもって時じゃないです!」


 二人の訴えに、ジークフレアは難しい顔になって首を捻る。


「…………」


 しばらく考えてから、口を開いた。


「何を言ってるのか分からん。やはり人を殺し慣れるには、一人でも多くるのが早い」


 真顔でそう返した。


「人殺しに慣れるなんてイヤです!」

「狂ってんのかよ、コイツ!」

「マジでネジぶっ飛んでるよ!?」


 再び総ツッコミを受ける。


「ヤッホー☆ 朝から元気だな、お前ら!」


 ワイワイやっていると、後方から声が掛けられた。振り返ると、レシィが立っていた。


「あ、レシィ」

「聖女様!」


 クラインや兄妹たちがレシィの周りに駆け寄る。


「何か用か?」


 ジークフレアも無愛想に問いかけた。


「二人のことが心配だから見に来たんじゃん?」


 ジークフレアに言うと兄妹に何かを手渡す。


「ほい、ポーション! 今朝作ったばっかの出来立てだぞ?」

「ありがとう」

「もしかして、わたしたちのために?」

「ヘレンさんから、怪我したって聞いたからね。てか、二人とも無茶しすぎな?」

「は、はは」

「すいません」


 二人はポーションを受け取った。


「で? みんなで何の悪巧みしてたん? アタシも混ぜてよ。ポポイヤがウザいからちょっと聖堂抜けてきたんだよね~」


 イシシと笑う。


「相変わらずっすね……」


 困ったように笑うと、クラインは事情を説明した。話を聞いたレシィが、早速ジークフレアの胸ぐらを掴む。


「テメ、ロアのみんなに手ぇ出したら、ただじゃ済まさねぇかんな!?」

「じゃあ、どうする。時はあまりないぞ」


 冷静にジークフレアは返した。


「あの男がいつまでも待ってくれると思うか? すぐに、次の手を打って来るはずだ」

「だからって強くなるために村人斬るとかあり得ねぇし! 今度んなこと言い出したら、また股間蹴り上げっからな!?」

「……ほう?」


 一瞬口を噤むと、ジークフレアは自分の股間を握った。レシィを見ながらにやりと口元を歪ませる。


「なっ、なんだよ、その笑い!?」


 レシィが若干引いている。


「やっぱ、俺らが稽古をつけるしかねぇか。気は乗らねぇけど……」


 クラインは溜息交じりに言った。それもそのはず、ここで兄妹に手を貸すことはマティアス──貴族殺しの片棒を担ぐことになるからだ。


「う~ん……。俺らが稽古をつけるくらいなら、やっぱり遠出してでも魔物を退治したほうがよくないかな?」


 ピエールはそう意見した。


「忘れたのか、ピエール? この二人はマティアスたちにマークされてんだぜ? 村から出たら危険なんだよ」

「でも、実戦積まなきゃ短期間でレベルアップなんて出来ないと思うんだけど」

「それは、そうだけどさ」


 なにか短期間で強くなれる良い方法はないものか……。


 思案気に唸るクライン。少しして──


「そうだ!」と閃き顔になって、ポンと手を叩いた。


「ダンジョンだよ! この村に眠るダンジョン! この手があった!」

「なんだ、それは?」


 ジークフレアが首を傾げる。


「ダンジョンってのは、簡単に言うと魔物が潜んでいる危険な場所のことです」


 普段は誰も立ち入らない洞窟や廃墟など、内部が複雑に入り組んだ迷宮のことをダンジョンと呼び、その内部は魔物の巣窟になっていることが多い。


 クラインはそう説明した。


「古い言い伝えによると、この村にもどこかにダンジョンがあるんだそうです。その奥には勇者が魔王を倒した伝説の聖剣も眠っているとか。昔ばなしに過ぎないですけどね」

「ま、村人ならみんな、一度は聞いたことのある昔ばなしだよな」


 レシィが応じる。


「ジーク様、二人が強くなるにはそのダンジョンに潜るのが一番効率が良いかもしれないっすよ」

「魔物と言うのは、この前戦った骸骨どものような連中か?」


 ジークフレアの問いに、クラインは「そうです」とうなずいた。明後日の方向を向いて、拳を握りこむ。


「ダンジョン探索で経験値稼いで、バリバリレベルアップ! 勇者様が遺したダンジョンなんだ。聖剣のほかにも夢のようなお宝アイテムが眠ってるかもしれないっす!」

「それマジ!?」


 レシィが瞳を輝かせて食いつく。


「そんなお宝も眠ってるわけ!? それは初耳なんだけど!?」


 あたりをキョロキョロと見渡した。


「一丁探してみますか! 五百年前の勇者──我らがジーク様の祖先が遺した伝説のダンジョンって奴を!」

「うお~、なんだそれ! なんか冒険みたいで、面白そうだな!」

「わたしも、ちょっとワクワクします!」


 ヴィルヘルムが笑顔になった。シャルロッテも胸の前で小さくガッツポーズする。


「けどさぁ、探すって言っても、どこをどう探すんだ?」


 ピエールが難しい顔をする。


「五百年も見つかってないんだよな。そこらじゅう適当に、穴でも掘るのか?」

「そんなわけねぇだろ」


 クラインはやれやれと首を振った。


「この手の話ってのは、古い伝承にヒントがあったりするんだよ。んでもって、ロア村の伝承に詳しいって言ったら、長老のマルセルさんに決まってるぜ!」

「ああ。マルセルおじいちゃんね」


 レシィも訳知り顔でうなずいた。


「確かに、あのおじいちゃんなら何か知ってるかも。昔ばなしにも詳しいしね」

「よっしゃ! ジーク様、取りあえず、村の長老の家に行ってみましょう!」


 六人は村の長老マルセルの家へと出掛けていった。


 ──こうして、本来ならば勇者ニルスたちが来るまで放置されるはずの聖剣が眠る伝説のダンジョンはジークフレアたちによって、まったく別の目的で探されはじめる。


 因みにだが、ゲーム主人公のニルスたちがダンジョンを見つけるまでのルートは次の通りだ。


①村人から長老マルセルならば何か知っているかもしれないと聞いて、長老を訪ねる。


②長老から、ロア聖堂の司祭ポポイヤが五百年前の勇者トトスと親交があったパパイヤの子孫だと聞かされる。司祭ならばより詳しいことを知っているかもしれないから訪ねるように勧められる。


③ポポイヤから代々口伝されてきた祈りの言葉を聞かされる。それをヒントに、ジークフレアの屋敷の地下にダンジョンがあることを突き止める。


④ジークフレアの屋敷の図書室で古文書を見つけ、それを手掛かりに裏庭のギミックを解除、遂にダンジョンの隠し扉を見つけるのだ。


 最初の足掛かりとなる村人の協力が不可欠なのだが、好感度がゼロどころかマイナスの今のジークフレアでは本来、不可能に近かった。


 だがこれは、クラインやレシィなどの協力によって難なくクリアできた。


 果たしてマルセルは、ジークフレアに心を開いてくれるのだろうか……。

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戦国の悪鬼、異世界に堕つ さんぱち はじめ @381_80os

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