第3話
放課後。雨は予想通りに止み、康二はウッキウキで部活へ走って行った。
一方帰宅部の雄太は、家までの山道を歩いていた。
「一目惚れ、ねぇ…」
雄太はなんだか「一目惚れ」と言うのが自分のポリシーに合わないような気がして、むず痒い気分を味わっていた。
雨あがりの森の匂いで頭をシャキッとさせては、悶々とした思考回路に悩まされる繰り返し。
頭を時折傾げたり、歩くスピードを変えたりしながら、家までの上り道を進んでいった。
少し行くと、後ろからクリマの走行音が聞こえたので、どんな車かと後ろを振り返った。
白い車がブゥンと通り過ぎ、雄太は再び歩き出す。
が、その車は気付けば止まっていた。
「……?」
少し気味が悪く、離れたところから車を観察する。
運転席のドアが空き、一人の女性が姿を現した。
「よ、何してんの」
「先生?!」
車の主は池内先生であった。
「家こっちなんだ、送るよ」
「いいんすか」
「君とは少し話したいしね、ドライブがてらに送るよ」
雄太は先生の車に乗り込み、シートベルトを閉めた。
「で、家どこなの」
「この道もっと上がったところの一軒家です」
「あーあそこか、あそこに人住んでるかも見に行こうと思ってたんだ」
「失礼だな本当に」
車のエンジンがかかり、緩やかに発進する。
「で、誰に惚れたんだきみは」
「それ聞き出したいだけでしょ」
「そうとも言う」
本当にこの人は…とあきれながらも、素直に答えることにした雄太。
「それが、わからないんですよ」
「ははーん、一目惚れか」
「そうとも言います」
「どんな子?」
「髪が長くてぱっちりした目の身長は俺と同じぐらいです」
「ふーん、知らね」
「知られても嫌なのでよかったです」
「と言うことにしといてあげるよ」
この先生は基本的に生徒が嫌そうな反応をするのを見て喜ぶ人間だ。雄太はそれをわかっていながら何もできない自分に情けなくなり、はあと大きいため息をついた。
「ほれ、ここだろ?」
そう言われて裕太が窓の外を見ると、自宅の前についていた。
「あ、本当だ。ありがとうございました」
「いいってことよ」
「先生、仕事はいいんですか?これからまた学校?」
「いや、もう全部終わったから帰る」
「そう言うところ優秀だから嫌なんだよなあ…」
「がはは」
雄太は先生に一礼し、家の中に入っていった。
「さて、学校戻って部活でも見に行くかな」
白い車は、今来た道をブーンと戻って行った。
淡緑の五月雨 ___ @Coffin_of_idea
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