第9話 いざ初めての冒険へ(前編)

 魔法の力を帯びた金属を加工するために必要な炉。「ドラゴンの火炎炉」を造るのに必要な素材レッドドラゴンの紅玉を獲得するためにドラゴン討伐をすることになった彰とマリア。

 しかし、このドラゴン討伐はほぼマリアの独断。しかもオルテガやエリクトと行った周りの人はノリノリでマリアに協力するものだから彰は完全に蚊帳の外だった。


 「まずレッドドラゴンの生息地を見つけ出さないといけませんね……。多少時間がかかりそうですが我がリッチブレッド商会の維新にかけて見つけ出して見せます!」

 「エリ坊だけにいい格好させらんねぇな。俺もギルドの過去の目撃情報を洗い出して、目星を付けておこう。もちろん情報だけじゃねぇ。ギルドとして討伐に必要な装備、人員も用意してやる」

 「それはありがたい! 私の商会とギルドの人員が手を合わせればおそらく数日で生息地を見つけ出せます!」

 「オルテガ様、エリクト様もありがとうございます。まさかここまで協力してくれるとは思いませんでした……」

 本当だよ! なんで二人ともこんなに協力的なんだ!

 「そりゃ面白そうだからに決まってんだろ! 今日ギルドに冒険者ライセンスを取りに来た新人が冒険者の夢の一つを叶えようとしてんだから、首を突っ込まずにいられるかってんだ!」

 「私はお二人の成すこと、成そうとしている事は絶対に商会にとって利益になると確信しているからです。もちろん個人的にもお二人の偉業を近くで見ていたいと言う願望もありますが」

 

 あまりにも彰とマリアの信頼が厚すぎる。エリクトは命の恩人という関係上、無理やり理由をつけられるがオルテガがなぜここまで二人のことを気に入ってるのだろうか。そのことを聞かずにいられなかった彰はオルテガに質問する。


 「オルテガさんはなんでここまで俺たちに親切にしてくれるんですか? 今日会ったばかったりの新人の冒険者ですよ?」

 「そりゃエリ坊がお前たちのことを信頼できるやつだって言ってるからよ」


 当然のように言ってのけるオルテガ。オルテガの二人に対する好意はエリクトへの信頼の証でもあったらしい。オルテガは続けて話し始める。


 「それになそんなの抜きにしたってお前らには興味が尽きねぇ。リッチブレッド商会の会長すら魅了する魔道具を持つ彰。なぜ今まで知らなかったのが不思議なほどの実力を持ったマリアの嬢ちゃん。そりゃ面白そうだけでドラゴン討伐の許可はしねぇよ。お前らならドラゴン討伐を成功できる力を持ってると判断したから協力してやってんだ」


 不敵な笑みを浮かべながら顎をさするオルテガ。これがギルドマスターとしてのオルテガの本当の姿なのだろう。今までどこか、豪快なおじさんぐらいにしか思ってなかった彰はオルテガの変わった姿に言葉を発せなかった。

 

 パンッ!


 「ドラゴンの生息地捜索はオルテガ様とエリクト様にお願いするとして、最初は彰様と私の冒険者ライセンスをどうにかしませんといけませんね」


 手を叩いて場の空気を変えたマリア。


 「どうして?」

 「それはですね。正式にギルドを通してドラゴン討伐の依頼を受注しないと密猟になって犯罪者になってしまうからですよ」

 「そ、そうなんだ」

 急に事務的な話になったな….

 「ドラゴン討伐の依頼を受けるなら、最低でもゴールドランク以上にならないといけませんね。捜索にはどれだけ早くても数日はかかると思います。その間にランク上げを行いましょう。幸いここは冒険者活動に困らない依頼の数が……」

 「いやランクの問題は俺の方でどうにかできると思うぞ。それに本気で数日でゴールドランク以上に上げるつもりなのか? ……本気か?」

 「マリアは普段は理性的でいい子なんですけど、戦いの話題になると途端にその……なっちゃうんですよ……」

 「そんな戦闘狂みたいに言わないでくださいよ!」

 

 頬を膨らませて怒るマリア。とても可愛らしいが彰は引き下がらない。


 「そりゃ、マリアなら数日でゴールドランクになれるだろうけど俺には体力が絶対に持たないよ? マリはどう考えてたの?」

 「体力は気合いでなんとかなります! 指南してくれた教官もおっしゃっていましたし、実際にどうにかなりました!」

 

 誇らしげに胸を張るマリア。しかしそれに唖然とするオルテガと納得と諦めの混じった微妙な表情をする彰。


 「マリア……」

 「いや嬢ちゃん、気合いじゃあどうにもなんねぇぞ。ゴールドランクに特例を除いて最速でランクアップした期間は登録から半年。しかもその記録は今までの5年間破られてねぇ。それを数日でやろうとするのは無理があるぞ?」

 「オルテガ様まで、そんな馬鹿の子を憐れむような顔を向けないでください! 分かりました! 分かりましたよ! オルテガ様の案にしましょう」


 少し涙目になりながら座っていたソファの隅っこに小さくなっていくマリア。気を取り直してオルテガの案を聞く。


 「さっきもチョロっと話したがゴールドランクまでならちょっとしたズルですぐ上げられるんだ」

 「それは?」

 「ギルドのスポンサーに加入している商会からの推薦とギルドマスターの認可だ」

 「推薦と認可か……あれ?」


 一見難しそうに聞こえる条件だが彰とマリアの二人はこの条件をすぐにクリアできる状態にあった。


 「私の商会はギルドのスポンサーですから、すぐに推薦書を認めましょう」

 「そしてその推薦にギルドマスターである俺が二つ返事でサインを出せばすぐにゴールドランクの冒険者になれるってこった」

 「ありがとうございます!」

 やったー! なんとか楽にランクを上げらせそうだ。


 「最後は討伐依頼の発注ですが、それに関しては私がお二人に指定依頼する形にしましょう」

 「それもそうだな。レッドドラゴンの特殊個体なんて出たらゴールドランクじゃ受けられないことになるかもしれんが指定依頼なら関係ねぇ。エリ坊任せるぞ」

 えっ!? 特殊個体なんていんの?

 「と、特殊個体……出てこないかなぁ」

 「マリア……?」

 「はっ……!? な、何でもないですよ?」


 恍惚な表情を浮かべるマリアに不安になる彰。マリアがまた彰についていけない事を想像していることは安易に想像できた。

 それから数分経った後に彰、マリア、オルテガ、エリクトの四人はドラゴンの生息地が分かり次第連絡することを約束しそれぞれ解散した。


 彰とマリアはゴルドー工房に戻っていた。

 オルテガとエリクトの協力の元実行するドラゴン討伐もとい紅玉入手計画をゴルドーに共有していた。その話をゴルドーは思いの外静かに聞いていた。


 「……ということでドラゴン討伐をすることになりました。ぜひ討伐した暁にはゴルドー様の腕を存分に振るってくださいね」

 「本当にやるんだな。お前さんたちは冒険者だ。やろうとすることに文句は言わねぇよ。……そうだな。これからお前さんたちの装備はわしが面倒見てやるもちろんタダでな。これがワシの出来る最大限の礼だ」

 「ありがとうございます! ゴルドー様!」

 「ガッハッハ! 孫がいたらこんな感じなのかね」


 数日後……


 『レッドドラゴンの生息地を発見しました。詳しくは先日と同じギルドの応接室で話ましょう』

 

 ゴルドーの家の部屋を貸してもらって過ごしていた彰とマリアに一文だけの手紙が届き、二人はすぐにギルドに向かった。 

 ギルドの応接室に入ると既にオルテガとエリクトは集合していた。


 「お待ちしていました。それでは発見したレッドドラゴンについて共有します」

 「お、お願いします」


 緊張した雰囲気の中唾を飲み込みエリクトからの報告を聞く。


 「レッドドラゴンは通常個体。ここファウストの街から東の山岳地帯にある洞窟を根城にしているようです。番らしき個体はなし。十分お二人で討伐可能でしょう。お二人の準備が出来次第移動用の馬を用意しようと考えていたのですが……彰様なら移動用の魔道具を持ってていらっしゃるのでは?」

 「え、まぁ、はい」

 ここ数日でアイテムを確認してたら移動用のアイテムもあったんだよね。

 「それは素晴らしい。出発はいつになさいますか?」

 「明日の早朝出発します! 彰様もそれで良いですよね?」

 

 今すぐにでも出発しよう思っているような興奮の仕様だが、あれから少し反省したのか多少彰に合わせた提案だった。


 「うん。それでいいよ」

 あ、明日かぁ〜

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