第8話 初めての冒険は……

 「うぉぉお! ありがてぇ! さすがオルテガがよこした奴だぜ」


 紹介からゴルドー工房に戻った彰とマリア。工房に戻ってまず、彰はリッチブレッド商会から石炭や鉄鉱石といった鍛治に使用する鉱石は売ってくれることを話した。

 それに安心したのか初めて来店した時には怒号を浴びせられたが今では満面の笑みで彰の両肩をバンバンと叩いてくる。


 オルテガさんもそうだったけど、ゴルドーさんもメッチャ叩いてくる……痛い。

 「そ、それからなんだけど、ゴルドーさん『ドラゴンの火炎炉』って知ってますか?」

 「……なんでお前さんが炉のことを知っている?」


 炉の名前が彰の口から出た瞬間ゴルドーの満面の笑みが消え、これから殺されるではないかと思うほど緊張した雰囲気が三人がいる部屋を支配した。


 「え、えっと……」

 「リッチブレッド商会会長エリクト様からお聞きしたのです。そのような名の炉があるとしか私たちは知りません。どうか殺気をお収めくださいゴルドー様」

 「……ふう。リッチブレッド商会か。わしでも名前が聞いたことがある商会だ。ドワーフだけの伝統と言っても隠してるわけじゃねぇ知ってるやつもいるか……」


 部屋全体を覆っていたゴルドーの殺気が霧散した。ゴルドーは深いため息をつくと近くにあった椅子に勢いよく腰掛けた。


 「さっきはすまんかったな彰。急に火炎炉のことをしゃべるもんだから驚いちまった」

 「……ゴルドーさん。その……ドラゴンの火炎炉ってなんなんですか? エリクトさんからは魔法の金属を加工するための特殊な炉ってことしか聞いてなくて……」

 「いや? その認識で合ってるぜ。それ以上でもそれ以下でもない彰のいった通りだ」

 「え? じゃあなんであんな急に殺気を?」

 「ドラゴンの火炎炉自体はそこまで問題じゃないんだが……」


 急にゴルドーが口ごもる。


 「ゴルドーさん別に無理して言わなくても」

 「いや彰とマリアの嬢ちゃんは俺のために動いてくれたんだ。職人としても冒険者としても義理は通さないとな。……それで話を戻すが、火炎炉自体が問題じゃないんだその動力源。火種がちと特殊でな、ドラゴンの火炎炉なんて仰々しい名で呼ばれるきっかけになったものでもある」

あ、もしかして。ドラゴンなんて呼ばれてるから薄々思ってはいたけど

「彰は感づいたらしいな。おまえさんが思ってる通りドラゴンの素材。それも火を操るレッドドラゴンの魔力の塊。「紅玉」が炉を作る上で必要なんだ」

 「ドラゴンの素材、それも名前を聞くだけでレアアイテム。もしかしてそれが盗まれるかもしれないと思っての行動だったんですね」

 「紅玉……確かに警戒しなければならない代物ですね」

 「マリア?」


 今まで静かにしていたマリアが神妙な面持ちで喋り始めた。その様子になんとなく嫌な予感がする彰。


 「紅玉。引いてはドラゴンの魔力の塊。魔法使いが持てば見習いでも熟練者以上の魔法が使えるようになり、魔法が使えない戦士が持てばその一撃一撃が魔法の力を帯びた必殺の技になる。玉を割ればどんな爆弾よりも威力のある爆弾になりうる。兵器としての価値はもちろん宝石としての価値も高く、売れば城を買えるほどだと言う噂です」

 「……マリア?」

 「間違ってねぇな。だから悪用されないように管理しなきゃなんねぇ」


 腕組みをして強く頷くゴルドー。

 

 「ゴルドー様はオルテガ様とパーティを組まれていたとか。レッドドラゴンを討伐されたご経験があるでは?」

 「いやいや流石に……」

 「確かに昔一体だけドラゴンを討伐したことがある。若い頃のパーティメンバーでな」

 「あるの!? あれ、でもドラゴンを討伐してるなら紅玉を持ってるはずじゃ」

 「いやそれがな? 当時の仲間にどうしても欲しいと言う奴がおってな。そいつに譲ってやったのよ」


 ガッハッハと高笑いするゴルドーに半分呆れる彰。しかし彰の横にいたマリアはどんどん興奮しているようだった。


 「確認します。ゴルドー様はドラゴンの火炎炉を作れる方なのですか?」

 「ん? まぁな」

 「火炎炉を作るのに他の特殊な素材は必要ですか?」

 「ねぇな。普通の炉と火炎炉の違いは紅玉を組み込んである炉かどうかだ。耐熱に多少改造が必要だがな」

 「紅玉をご自身で取りに行くというドワーフの伝統やゴルドー様自身のこだわりはありますか?」

 「若い頃ならまだしもジジイになっちまったしなぁ。今じゃわし自身が無謀にドラゴン討伐しようとは思わんな。正直売り物でも構わん。買えればの話だがな!」

 「そうですか……」


 マリアとゴルドーがやり取りをしてる間、彰はインベントリを開いてガチャアイテムを漁っていた。


 マリアとゴルドーさんの話を聞く感じ、火の魔力を発する動力的な何かがあれば成立するんじゃないか? 今までエリクトさんからもらったメダルが便利すぎて忘れてたけど俺には元々ガチャアイテムっていうチートがあるじゃん。それで何か良さげなものは……


 【SSR 魔剣イフリート ――炎の魔神イフリートが宿った伝説の魔剣。イフリートの許可なく柄を握る者は焼き尽くされ、認められた者には強力無比の炎の力が与えられると言う―― *装備条件〈加護『焔からの寵愛』の所持〉】


 こりゃダメだ。金属の加工云々の前にゴルドーさんが焼き尽くされてしまう。

 

 【SR 五十三式魔動機(炎)*故障 ――古代遺跡から発掘されたオーパーツ。魔力を通すと炎の魔力を発し、同じく古代遺跡の機械を動かす動力源となる――】


 惜しい! 故障じゃなかったら一番良さげなアイテムだったのに! ……おっ?


 【UR 九頭龍王の宝玉 ――全ての属性の魔力を司る全ての龍の神の朽ちぬ心臓。その心臓はどんな宝石よりも美しく、どんな魔石よりも強力な魔力で満ちている。宝玉自体が主人を選び相応しい者の前にのみ現れる―― *サーヴァント「ヤマト」が装備時、追加効果】


 明らかにレッドドラゴンの紅玉の完全上位互換のアイテムだな。これさえあればゴルドーさんのドラゴンの火炎炉も作れるだろうけど。……いや、どれぐらいあるかもわからないURアイテムをここで出すか? それにヤマトっていう子の専用装備っぽいし取っておくかぁ?


 URという明らかに激レアなアイテムを手放したくない思いと、ヤマトというマリア以外の新たなサーヴァントの存在。目の前の問題を手っ取り早く解決手段が目の前にあることで彰が頭を悩ませていた。


 「う〜ん……ねぇ、マリ……」

 「彰様!」

 「ん!? な、なに」

 「ゴルドー様と話は纏まりました! 冒険者ギルドに行きましょう!」

 「えっ!? なんで!?」

 「それでは言って参ります!」

 「おう、気をつけてなぁ」


 鼻息を荒くして工房を勢いよく出発するマリアとそれをひらひらと手を振り見送るゴルドー。見送るゴルドーの表情はどこか疲れた顔をしていた。

 いきなりの急展開で着いて行けてない彰はマリアに手を掴まれ強引に連れて行かれた。


 「オルテガ様に取り次ぎをお願いします」

 

 マリアと彰が冒険者ギルドに着いてすぐ受付に頼んでオルテガの元へ向かった。もちろん商会のメダルを使って、それからの出来事は彰にはあまりにも目まぐるしいものだった。


 「そうか、ゴルドーのやつそんなことになっていたのか。あいつ頑固だからな助けを求める考えにすらならなかったんだろ。二人はあいつのために頑張ってくれているんだな。もちろんゴルドーの一人の友人として協力は惜しまない。彰……いや嬢ちゃん。俺に何をさせたい?」

 

 呆然としている彰を見て、マリアが主体になっていることを察したオルテガはマリアに目的を尋ねた。その質問を待っていたと言わんばかりにマリアは宣言した。

 

 「私たちにドラゴンの情報を教えてください。レッドドラゴンの紅玉を彰様と二人で取りに行きます」


 その場の空気が一瞬固まった。


 「いいだろう! 嬢ちゃんなら遅かれ早かれ成す事だ! だが残念なお知らせだ。ここ数年レッドドラゴンの目撃情報はこのギルドにはない。ないが……」

 「話は聞かせてもらいました! まさか冒険者になって初めての冒険がドラゴン討伐とは! 私の目に狂いはありませんでした。リッチブレッド商会の情報網を総動員しドラゴンの情報を集めましょう!」 

 「やっぱり聴いてたなエリ坊」

 「エリ坊はやめてください。オルテガさん」


 バンッ! と勢いよく部屋に入ってきたのはエリクトだった。平静を装って入るがニヤケが収まりきってない。

 マリア、オルテガ、エリクトの三名が無邪気に遊ぶ子供のように話が膨らんでいく。


 「えと……マリア……まさか本当に」

 「はいっ! ドラゴン討伐やりますよ!」


 爛々とした目で満面の笑みを向けてくるマリアはドラゴンという強力な敵と戦える高揚感で我を忘れている。こうならないために最低のブロンズランクにしたというのに……。

 ドラゴンの火炎炉の秘密を聞いた時の彰の嫌な予感はどうやら最悪の形で的中してしまったらしい。

  

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