第7話 ゴルドー工房

 「出てけっ!! 仕事はもうやってねぇんだ!」


 ギルドマスターであるオルテガから紹介されたゴルドー工房という鍛冶屋に訪れた彰とマリア。

 しかし店に入った途端ゴルドーだと思われる背の低い無精髭を生やした男に強く拒絶されてしまった。


 えーー! 店に入った途端怒鳴られたんだけど

 「失礼しました。貴方様はゴルドー様でしょうか。私はマリア、こちらの方は彰様です。私たちはオルテガ様の紹介で訪れたのですがお仕事をやられていないと言うのは本当なのでしょうか」

 「オルテガ? あぁ、あいつの紹介か、まぁ最近一緒に飲みにいくことも減ったしなしらねぇのも仕方ねぇか」

 

 オルテガの名前を聞いたゴルドーはさっきの怒鳴ってきたことが嘘のように冷静に話し始めた。


 「あれ? ということは最近までは現役だったってことですか?」

 「今でも現役のつもりなんだがな……」

 「では何か理由でも?」

 「……オルテガの野郎がよこしたってことはある程度信用できるやつなんだろうな。話してやるこっちに来い」

 

 ゴルドーがそう言って椅子から立ち上がり二人を案内したのは店の裏にある倉庫だった。


 「ここは?」


 彰がゴルドーに質問する。 


 「ここはもともと石炭とかの燃料とか剣や鎧に使う革や鉄を保管していた倉庫なんだがな。取引先の商会の代表が変わっちまってから俺みてぇなちっさい無名の工房との取引は止めるって言われてな。仕事しようにも燃料も材料もないんだ」

 「新しい取引先を見つけるってことはしなかったんですか? 正直それで解決な気が」

 「考えはしたんだが冒険者上がりの俺の頭じゃ商談のしの字もわかりゃしねぇ。そもそも前の取引先でも昔馴染みの縁でなんとかなったもんだしな」

 うーんどうすれば、商談なんて俺にもわからないしなぁ……あれ?

 ゴルドーに仕事を依頼するにはゴルドーが鍛治仕事をできるように材料と燃料を売ってくれる商会を見つける事。彰もマリアも商談なんてしたことがない。オルテガに相談しようかと思ったが彰には目の前の問題をすぐに解決できる手段があった。

 アイテムボックスからメダルを取り出す。エリクトからもらったリッチブレッド商会のメダル。


 なんかガチャ産のアイテムよりエリクトさんからもらったこのメダルの方がチートアイテムな気がしてた。

 「ゴルドーさん。材料と燃料の件何とかなりそうです」

 「ほ、本当か!?」

 「はい。なので少し俺たちにまかしてくれませんか」

 うぉお! 「〇〇の件なんとかなりそう」からの「ませてください」のかっこいいセリフ! 言ってみたかったんだよなぁ

 「あぁ! 会ったばかりだっちゅうのにありがてぇ!」


 それから彰とマリアはゴルドー工房を出て、エリクトのいるリッチブレッド商会の店に向かった。道中エリクトから肝心の店の場所を聞くのを忘れたのに気づいたので街の住人に聞いてみると、商業地の一番大きい建物がエリクトの店らしく意外にも簡単に辿り着いた。


 「お〜。ここがエリクトさんの店か。店舗というよりは一つの屋敷だな。いやスーパーマーケットかな」

 「彰様。お待ちしておりました。思っていたより早い再会で嬉しく思います」

 「エリクトさん!? なんで?」


 エリクトは店の前に彰とマリアが来るのがわかっていたかのように立っていた。


 「お二人が私の店の場所について住民に聞いていたと耳に入りましたので、ぜひ私自らお二人に我が商会のことを説明させていただきたくこうして待っていたのですよ」

 聞いたって一人だけにさらっと聞いただけなんだけど……スマホもない異世界でどんだけ早く情報が回ってるんだ? 関心を通り過ぎて怖い。

 「驚かれているようですが今回はたまたまですよ。それでは店を案内しますよ。それともお求めの商品はお決まりですか?」


 ニコニコと冗談をいうような軽い口調で話を進めるエリクト。一緒に店に入ろうとする前にマリアが目的の鍛治に使う燃料と材料についての話を切り出した。


 「エリクト様。エリクト様の商会でゴルドー工房という工房に石炭や鉄といった鍛治に使う鉱石を売ってもらうことは可能でしょうか」

 「……ほう。そのようなお話なら販売というより商談になりそうですね。応接室に案内します。こちらへ」


 そういって案内されたの応接室はギルドよりは豪奢な装飾はなかったがシンプルながらも高級感漂う部屋だった。机を跨いで対面するように椅子に座る彰とマリア、そしてエリクト。


 なんか今日は応接室に何かと案内されるなぁ

 「それでは単刀直入にお聞きします。お二人は我が商会にゴルドー工房に石炭や鉄鉱石など鍛治に使われる鉱石を売って欲しいということであっていますか?」

 「はい。間違いありません」

 「ゴルドーですか確かオルテガさんの戦友のドワーフの方がそのような名前でしたね」

 「多分その人だと思います。ゴルドー工房を紹介してくれたのはオルテガさんですし、ゴルドーさんも背が低かったし」

 やっぱりゴルドーさんてドワーフだったんだ。

 「オルテガさんに会ったのですか?」

 「ま、まぁ冒険者ライセンスを取るときにエリクトさんからもらったメダルを身分証明書代わりに出したら流れで」

 「お二人ば冒険者になるためにこの街に来たのでしたね。メダルを使ったのであればオルテガさんが出てきてもおかしくない。ということはお二人はもう冒険者に?」

 「ブロンズランクですけど」

 「それはおめでとうございます。お二人なら最初からゴールドランクだと思っていたのですが、よろしかったのですか? なんなら私から冒険者ギルドの方に……」

 「いやいやいや。大丈夫ですって。マリアはともかく俺には妥当なランクですよ」

 「……そうですか」


 不服そうな表情を浮かべて引き下がるエリクト。少々彰に心酔しているような雰囲気を醸し出している。流石にリッチブレッド商会という明らかに大きな組織が彰一人のたかが冒険者のランクのために動くようなこことは冗談だと思うが……。


 「それで! 鉱石の件は受けてくれるんですか?」

 「その件でしたら、もちろん応じることもやぶさかではありません。お二人の頼みでもありますし、それにオルテガさんの戦友でしたら信用できる方でしょうから。ですが一つ疑問がありまして」

 「?」

 「ゴルドーさんはドワーフの鍛治職人なのでしょう? でしたら鉄鉱石は別として石炭といった炉の燃料はいらないはずなのですが」

 「どういうとでしょうか?」

 

 マリアが興味津々にエリクトに質問する。


 「王国にはドワーフの鍛治職人があまりいないので使われない人も本当はいるかもしれないのですが、ドワーフの職人は別名「ドラゴンの火炎炉」と言われる特別な火床を持っているのです」

 「ドラゴンの火炎炉?」

 なにそれかっこいい!

 「ドラゴンの火炎炉というのは一部のドワーフのみが製造、使用ができると言われている火床です。ミスリルやオリハルコンといった魔法の力を帯びた金属を加工するためにドワーフの国の初代国王が開発したと言われる伝統の炉らしいですよ。もしゴルドーさんがドラゴンの火炎炉を作ることのできる方なのでしたらその炉を作る材料をお売りしましょう」

 「彰様! その方がいいですよ! ゴルドー様がミルリルを扱えるようになれば私の鎧の修繕もお願いできるかもしれません! 鎧の修繕に関しては少し諦めていたので嬉しい誤算です!」

 「マリア落ち着いて!」

 「は、はい」

 「まずゴルドーさんがそのドラゴンの火炎炉を作れるのかどうかを聞かないと。エリクトさんの話を聞く感じだとドワーフの鍛治職人全員が作れるわけじゃないようだし」

 「そうですね。まずゴルドー様にエリクト様のお話を持って帰ってからの話でしたね」

 ……やっぱり、武器とか戦いになるとマリアは我を忘れてしまう子らしいなぁ

 「そういうことなんで、一回ゴルドーさんのところに一度戻ります。……そういえばなんですけど、もし火炎炉が作れないって事になっても石炭は売ってくれるんですよね?」

 「それはもちろん。いつでもご用意の準備は済ましておきますよ」

 「ありがとうございます。それじゃあまた」

 「失礼します。エリクト様」


 エリクトに礼を言って応接室を出る彰とマリア。二人はエリクトの石炭と鉱石を売ってくれる話とドラゴンの火炎炉の話を持って、ゴルドーの元へ向かった。

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