アドバイザーの多次元解説

榊 薫

「神秘なアドバイザー実験の原点」を踏まえて

アドバイザーの技術解説内容は難しいので、わかったふりをしてうなずいて帰ろうとしていると、「ちょっと寄っていくか」といって、車のドアを開けて乗せてくれました。

車の中で、短時間に解決していただいたお礼を述べたところ、よくある事例の一つであるとのことでした。

「複数の出来事が積み重なっていたので、少し難しかったのでは」という気遣いをしてくれので、「その通りです」と正直に答えました。

「金属の鉄が温度、結露、酸素、濃淡とくれば、中性環境腐食。さらに、腐食した錆の結晶水、水と気体の等モル体積の違い」とのことで、余計に難しくて、車に揺られながら、ますます頭が痛くなりました。

アドバイザーの家は比較的近く、その一階が製造場所で二階が研究室になっています。

ガレージの車を止め、研究室に上がっていくと、さっそくコーヒーを出してくれました。ミルクは高級な香りが漂います。

研究室には、純水製造器、乾燥機、天秤、分光器、電気炉などの間を褐色や緑色など色とりどりの液体や固体の入ったビーカーが所狭しとばかり並んでいて、その一角に、深々としたソファーが設えてありました。

アドバイザーは一見、重役風の上品な金縁眼鏡をしていて、工場に行けば、入り口にいる守衛はすぐに出てきて最敬礼しそうな背広を着ています。たぶん、接待飲食店ではモテモテでしょう。

「下の製造場所では、どなたが製造しているのですか?」と聞くと、

自分でやっているとのことです。

排水や廃棄物を集めて、安楽椅子に腰かけながら、何を造ると売れるか考えることが楽しみだそうです。

この鉄筋の建物を建てるのに、建築士、電気工事士、有機溶剤作業主任者、塗装技能士の資格を取って、自分で仕事をしながら立てたそうです。今流の「セルフビルド」です。

経理も「人に任せることが嫌い」で、自分でやっていて、「簿記3級」を持っているとのことです。個人事業をやるなら、その程度はやれないといけないと言って、簿記入門の本を3,4冊紹介してくれました。

1冊だけだと抜けているところがあるから、3冊くらい読むと補えるのだそうです。今は、インターネットでWeb検索すればほとんど問題なく回答が得られるようですが、当時は本が頼りでした。

「今回のトラブル原因はいつ、わかったのですか?」と聞いてみました。

「工場に入ったときの品物の置き方、職人の動きで分かった。」と飲み屋の女将が入ってきた人の懐具合を察知するようなことを言います。

「最初からですか?」と驚いていると、

「人の通りにくい位置に品物が置いてある。職人の手の動きが、無駄な動きをしている。設備・装置の配置が悪いために起こっている。」のだそうです。

自分の研究室は雑然と置いているのに、他人のことは隅々まで見えるのか?

不思議なことをいうのでキョトンとしていると、

「思考方法」なのだそうです。奥が深そうです。

「“見えるもの”と“気付くもの”とは違っている。」と言うのです。

「“見えるもの”は、“気付く”のではないですか?」と聞き返すと、

「眼に“見えて”いて“気付くもの”もがあれば、“見えている”のに“気付かないもの”もある」とのことです。

「治具に引掛けている人を見ていても、積んであるところから、引掛けるまで運ぶ動作を見ていたか?」逆に聞かれ、

「そこまで、見ていませんでした。」と応えると

「それが、見ていても“気づかなかった”ことになる」ということでした。

そういえば、以前、ISOの監査員が、作業で使った“ぼろきれ”が所定の場所に置いてないことを指摘していったことがあり、品質管理で“たまたま起こすトラブル”の発生のしやすさに繋がると指摘していたことを思い出し、工場の体質は共通していることに気付きました。

「眼には、“見えるもの”と“見えないもの”とあり、その中間に“見えにくいもの”がある。」

「例えば、ワイパーアームは“見える”が、結露の酸素は“見えない”。今回の腐食はルーペがないと見えないため、“見えにくい”。」

「“気付くもの”と“気付かないもの”とがあり、その中間に“気付きにくいもの”がある。」

「治具掛け前のワイパーアームは“気付く”、作業者は、たまたま放置したワイパーアームが不良原因になるかどうか“気付かない”。目に見える腐食があってもU字に曲がったワイパーアームの内側は“気づきにくい”。」

「トラブル解析でAI(人工知能)を扱うには、赤ん坊と同じで一つずつ教え込まなければならない。教え込む言葉は“見えるもの”と“気付くもの”に分けて教える必要がある」とのことです。

いよいよ高度な知能を造る話になりそうです。

「“見えるもの”の反対には“見えないもの”があり、それらを含む“軸”と“気付くもの”の反対には“気づかないもの”があり、それらを含む“軸”とは、互いに交わらない“異次元の要素”で成り立っている。」と仮定するのだそうです。異次元って、異世界みたいなものではなく、どうやら、二次元で生きているアリの世界のようです。

変色・腐食事例解析ではもう少し科学と技術とを絞り込んで、

「気付くものには、“プロセス管理基準”、“腐食のマクロの視点で周辺拡散”、“ミクロの視点で積層された発生する位置”の3つに分ける。

気付きにくいものには、“統計的の発生率”、“計測料金の発生”の2つに分ける。

気付くことが難しいものには、“均一・孔食・すき間腐食”といった分類、“気体・液体といった物質・環境”分類、“運動量、熱、物質、電荷など移動現象の要因”での分類の3つに分ける。」

これら分類された8つの要素が決まると「AIがトラブル解析できる」のだそうです。

「難しい言葉が飛び出てきましたが、ことによると、AI教育は異世界より簡単な二次元の世界で、取り組みやすそう。」

と感心しながら聞き入っていました。

これによれば、今回のワイパーアームの膨れ不良は、

「品質管理のプロセス基準が“1.あいまいな管理で製品や部品を放置”することがある。

マクロの視点で眺めると、その広がり方は“2.単一部品・局部的”でほかに起こっていない。

顕微鏡下でミクロの視点で眺めると、“3めっき・塗装された層の下に問題あり”。

“4.発生率3%未満で他に類似のものなし”。

計測レベルには、“5.料金が発生する分析・試験の要求がなし”。

“6.極微小な腐食”といった分類。

物質・環境分類は、“7.液体・結露”が影響。

反応は“8温度・湿度が影響し、酸素濃度・酸化”による。」

これらの8項目を選ぶことでAIは、

「この工場では、加工製造、材料管理ミスがあり、品質管理が硬直化しているのでリラックスが必要」

と応えるとのことです。アドバイザーは、なんとExcelを使って試してくれました。

AIがこれらのキーワードから推理し、管理ミスや組織の管理体制まで識別できるとは驚きました。分析機関がこれを使えば、困っている人に役立つ解明ができそうです。もし、推理小説でこれを応用すると、探偵より先に謎解きできる方法が見つかりそうです。

ところで、将棋の藤井聡太八冠はAIより判断が早いと言われています。

どうやら、技術アドバイザーは、作業者の動きを工場に入ったときに見出していて、言葉で表現するAIより判断が早いので名人級の使い手のようです。 以上

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アドバイザーの多次元解説 榊 薫 @kawagutiMTT

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