今を生きる僕と未来を生きる君

@saw_ku

僕と君の恋物語

 今は午後5時

 僕は窓の外を見ていた

 雨がザァーザァーと降っていて、雷がゴロゴロとなっていた


「あーこんな時に買いだめしてないなんて、」


 僕の名前は東雲晴瑠。

 絶賛一人暮らし中の高校二年生だ

 学校は夏休み中で家にいるわけだが台風が来ていて出ようにも出る気が起きない

 しかし買いに行かなくては夜ご飯がない

 僕は傘と財布だけ持って家を出た


 近くのコンビニに行く途中には小さな公園がある

 普段は幼稚園から小学生の子供たちが遊んでいるのだがこんな台風が来ているときに遊んでいるわけもなく、通り過ぎようとしていたらブランコの音が聞こえた

 雨の音にかき消されていたが確かに聞こえた

 キコキコとなっている音が


「え、」


 そこでブランコを漕いでいたのは僕の幼馴染である夜桜琉梛だった


「あっ」


 琉梛もこっちに気がついた


「ねえ晴瑠でしょ?」


「そういう君は琉梛?」


「そうそう夜桜琉梛だよ、覚えてる?」


 忘れるわけがない

 なんてったって僕の初恋の人である

 そして、7年前に急にいなくなった幼馴染だ


「覚えてるよそりゃ」


「まっ幼馴染を忘れるわけもないか」


「そうなんだけど、なんでブランコ漕いでたの?」


 僕は一番気になっていたことを聞いた

 その場は静寂に包まれた


「あ、ごめん。とりあえず僕の家に来なよ。ぬれてるままだと風邪引いちゃうよ」


「う、うん」


 あきらかにさっきとは違うテンションで返してきた

 僕も黙り、琉梛の手を取って歩き出した


「おじゃまします」


「ちょっと汚いかもだけど許して」


「ありがと」


「お風呂場はそこの扉ね。タオルは適当に使ってくれていいよ。着替えはーこれ来て」


 僕はとりあえず琉梛を風呂に入らせるための支度をした

 琉梛はさっきからずっと暗い表情をしている

 よっぽど嫌なことでもあったのだろうか


「僕夜ご飯まだ食べてないんだけど琉梛は食べた?」


「ううん。まだ」


「じゃあコンビニで買ってくるけど何がいい?」


「チャーハン」


「了解。出てきたら好きなことして待ってて」


 琉梛はずっと表情を変えず、僕が何かを言っても一言二言でしか返してこなかった

 琉梛にとってそれほどのことがあったのだろう

 僕はとりあえず琉梛が元気になるまではそばにいてあげたいと思った


 速攻でコンビニまで夜ご飯を買いに行き、なるべく早く家に帰ってきた

 琉梛は風呂からは出ていたがドライヤーがまだのようだった


「ん、ドライヤーはここな」


 僕は手を洗うついでに琉梛にそう声をかけた

 返事は返ってこない

 琉梛はとても深刻そうな顔をしていた


「「いただきます」」


 夜ご飯を食べるときも琉梛はずっと黙っていた

 ご飯を食べ終わって二人ともゆっくりしたときに琉梛は話し始めた


「今日ね家を飛び出してきたの」


「、、、どうして?」


「あのね、私が中学一年生の時にお父さんが他界しちゃったんだけど、そこからお母さんは人が変わったようにお酒を飲み始めて、暴力や暴言を言うようになったの。それで今日、聞いちゃったの。お母さんが電話で誰かに『琉梛なんて生まれてこなければ』っていうのをね」


「、、、」


「それで私、ちょっとおかしくなっちゃったんだよね。台風が来ている中、ブランコを漕ぐぐらいには」


 僕は琉梛の言っていることにすごく共感できた

 僕も前に同じようなことを言われたことがある

 とても仲の良い友人だと思っていた人に『お前なんていなければ』と言われたことがある

 唯一の友人だったその人に言われてその夜は一睡もできず、ずっと泣いていた

 それが実の母親から言われたとなるともっとだろう


「そっか、そんなことがあったんだね」


「うん、」


 僕が経験したときには誰もいなかった

 けど琉梛には僕がいる

 僕が琉梛にしてあげられることは寄り添ってあげることだと思った


「はい!」


 僕はそういって両手を広げた

 そうすると琉梛は飛び込んできて泣いた

 僕の服が涙でぬれるくらい泣いた

 琉梛につられて僕も泣いた


 琉梛にとって今日以上につらい日はもう来ないだろう


「ん、ありがと晴瑠。気持ちが少し楽になったよ」


「どういたしまして。困ったときはお互い様でしょ」


 僕と琉梛はその日、同じベッドで寝た



 僕が起きた時には琉梛の姿は家のどこにもなかった

 ただ、机の上に置手紙があった


『昨日はありがとう

 あ母さんと話しあって一人暮らしできるように交渉してみるよ

 多分学校同じになると思うからよろしくね』


 僕はこの置手紙をみて少しホッとした

 どうやら琉梛は心の整理がついたようだった

(にしても琉梛、めっちゃ可愛くなってたな)

 僕は小さい頃の琉梛と比べてそう思った



 長い長い夏休みが明け、手紙にも書いてあった通り僕が通っている高校に琉梛が転校生としてやってきた


 琉梛がすっかりクラスに馴染んだ頃、学校では文化祭の準備が始まろうとしていた

 うちのクラスでは定番のお化け屋敷をやることになった


「なあ、晴瑠は何の係するん?」


 そうやって話しかけてきたのはクラスでいつも行動をともにする仲である志野原陵だった

 こいつはバカイケメンなのに僕みたいなやつと一緒にいてくれるいいやつだ


「んーとね、僕は特に何もできないから飾り付けかな」


「ほんなら俺も飾り付け係やったるわ」


 こうやって僕に合わせてくれるとこも優しいなって思う

 僕が女子だったら間違いなく惚れていただろう


「それとさ、フォークダンス誰と出んの?」


「え?フォークダンス、なにそれ」


「お前知らないのか?男女が一緒に踊るやつだよ。文化祭の最後にあるだろ?」


 僕はすっかり忘れていた

 今回からフォークダンスが最後に追加されたことを

 昨年度がなかったから今年もないものだと思っていた


「ちょっと待って、それって強制参加?」


「基本みんな参加だな」


「うわー僕と出てくれる人いないよー」


「ねえだったら私と踊ろうよ」


 そう僕にいってくれた天使は琉梛だった

 僕にとって数少ない女子の友達だ

 そして僕が思いを寄せている人だった


「え!?一緒に踊ってくれるの?」


「んーとね私もペアの人がいないんだよね」


 僕はこれをきいて嘘だと思った

 なぜなら、琉梛はとても可愛くモテているからだ

 そんな琉梛が誘われていないわけない


「だったら一緒に踊ってください」


「いいよーてか私から頼んでるんだけどね(笑)」


(琉梛のほうから誘われるということはワンチャンがあるのでは?)

 僕はちょっと期待した


 本番当日、いろんな人たちが来ている中でもフォークダンスが始まった

 もちろんこの日のために僕と琉梛で練習はしてきた


 しかし、僕は緊張に弱く本番でミスしてしまった

 そこを琉梛はうまくフォローしてくれた

(こんなことされたら誰だって惚れるでしょ)

 緊張と琉梛への思いであんまり踊れなかったと思う


 ちなみに陵は彼女持ちなのでもちろん彼女と踊っていた

(くっそーうらやましい)


 フォークダンスが終わると文化祭が終わる

 うちらのクラスはそのまま打ち上げに焼き肉を食べにいった


「今日の文化祭、お疲れさまでしたーかんぱーい!」


 こうして僕たちの文化祭は幕を閉じた



 同じ年のクリスマスイブ


 僕はクリスマスツリーの前に立っていた

 僕と琉梛は文化祭のあともどんどん仲を深めていった

 今日は琉梛の誕生日である

 そして僕は今日、告白すると決めていたのだ


「おまたせー」


 琉梛はそういって雪が降るなか、現れた


「今日はなにするの?」


「とりあえずおなかすかない?レストラン予約してるんだけど」


 僕はこの日のために少しずつ貯金して少し高めのレストランを予約しておいた

 すべては告白するために


「わーここからの景色すごー」


「ほんとだね。ねーもうご飯きたよ」


「わーほんとだ。おいしそ~」


「「いただきます」」


 ここはいわゆる高級料理店なのでちゃんとしたマナーで食べることを心掛けた

 ついでに好きな人の前で醜態をさらすわけにはいかないからな

 二人とも食べ終わり、一服したとき


「ねー琉梛」


「ん?どうしたの?」


「僕さ、小さい頃から琉梛が好きだった、途中いなくなったときはもう会えないんじゃないかって思った。だけどまた会えて、やっぱり好きだって思えた。だから僕と付き合ってください」


 僕はその言葉と同時に誕生日プレゼントとして用意していたものも渡した


「え、うそ」


 琉梛はそういって泣き崩れた

 僕はお店の迷惑になると思い、お会計して琉梛を連れて店を後にした


「ごめんね、ちょっと嬉しすぎて」


「そっか。じゃあ改めて言うね、僕と付き合ってください」


「うん、もちろんオーケーだよ」


 琉梛は半分笑いながら、半分泣きながら僕にそういって抱きついてきた

 僕も琉梛のことを強く抱きしめる

 まるで僕らをお祝いするようにライトアップが始まって、クリスマスツリーが点灯した

 僕は琉梛のことを一生をかけて幸せにすると心に誓った


 そのあとは一緒にイルミネーションを見てから家まで送り届けた

 もちろん手を繋ぎながら歩いた



 クリスマスイブが終わり、クリスマス本番の日は冬休み初日だった

 そして今日も琉梛と会う約束をしているのだが今日は琉梛だけじゃなく、僕の数少ない友人も一緒に誘って僕の家でクリスマスパーティーをする予定だ

 その時に付き合ったことも言う予定だ


「お邪魔しまーす」


 一番乗りできたのは琉梛だった

 僕と琉梛で家の飾り付けをして、ほかの人で買い出しをやってもらうことになっていた


「ん、いらっしゃい。じゃあ早速始めよっか」


「りょーかい!」


 僕たちの飾り付けがちょうど終わったころ、家のチャイムが鳴った


「おーす、おじゃましまーす」


「おじゃまします」


 それは志野原亮とその彼女である小早川雫だった


「うっわ、すごい量買ってきたね。こんなに食べきれないよ」


 陵と雫が買ってきた食材やらなんやらは4袋にパンパンに詰められていた

 二人はきょとんという顔をしている


「そ、そんなに多かったか?まーいいや余ったらここの家に置いていくからよろしく!どうせ冷蔵庫中すっからかんだろ?」


「そーだけどさ」


 ちょうど夜ご飯の時間なのでまずは夜ご飯の準備をしようということになった

 料理担当は琉梛と雫にやってもらって僕と陵でお皿や箸などの準備をしていた

 琉梛の料理は知らないが雫はちゃんと作ればおいしい

 しかし毎回なんらかのアレンジがあるせいでからかったり、すっぱかったり、にがかったり、前に作ってもらったときなんかはオムライスの中にレモンを入れて、上からデスソースをかけたものだった


「雫ー今回は”普通”のやつを頼んだよ。琉梛もちゃんと見張っといてね」


「もー信用ないなー」


「私もちゃんと見守っとくよ」


「おっけーサンキュ」


 机の上の料理を見て見栄えはとてもよかった

 一瞬、高級料理店に出てきそうな料理と見間違えるくらいにおいしそうに見えた


「んっこれめっちゃうまいじゃん!」


「ほんとだ。やっぱちゃんと作るとうまいのにねー」


 4人で食べる夜ご飯はいつもとは違かった

 いつもより騒がしかったし、にぎやかだった

 それに今は好きな人と一緒に食べれることが幸せだった


「えーと今日二人に話したいことあるんだけどいい?」


「ん?どーした?急にまじめじゃねーか」


「えーと僕と琉梛が昨日から付き合いました。そのご報告です」


「まじかよ。ついにお前も彼女持ちかー」


「お前たちには言っとこうと思ってね」


 今後も陵と雫とは関わるだろう

 そんなときまで隠す必要はないと僕らは考えた


「にしてもあの晴瑠に彼女かーなんか想像できないなー」


「そうなの?元カノの何人かはいそうだけど」


「そーだよ。中学の頃から知ってるけど晴瑠に彼女がいたーなんて聞いたことないもん」


「実際いなかったんだよ。あ、でもネットで一人いたね。陵には話したことあったっけ?」


「いんや、しらねー」



 僕には中学2年の後期から3年の前期くらいにかけてネットのなかで付き合っていた人がいた

 話題になっていたチャットアプリを僕も入れてみて、やってみたのが始まりだった


{こんにちは、よかったら話しませんか?}


 その人から最初にきたメッセージはこれだった

 基本僕からは声をかけない

 けどその人は僕にずっと話かけてくれた

 しだいに僕も打ち解けていき、心を開くようになった


{あなたのことが好きです。私と付き合ってください}


 僕らが出会ってからちょうど1か月のときに僕は告白された

 正直いって僕は不安だった

 人生初彼女がネットでいいのかという不安と僕も好きだという好意が入り混じっていた

 その結果


{ちょっとその返事は保留でいいかな?明日までには絶対返事するから}


 今の僕にできる一番いい考えだと僕は思った

 その日はめちゃくちゃ悩んだ

 それでも最終的に好きだということになり、付き合った


 僕とその人は毎日のように連絡を取り合った

 今日学校でどんな出来事があったのか、これから何があるのか

 ときに笑い、ときに泣き、ときに一緒に悩んだ

 たくさん電話もしたし、寝落ちだってした


{ね、僕ら別れよう}


 そう切り出したのは僕だった

 彼女のことが嫌いになったわけではない

 好きじゃなくなったわけでもない

 親に言われた


『チャットアプリで親以外の人を全員消しなさい』


 理由は勉強を頑張ってほしいからだという

 僕は精一杯の抵抗した

 けど、だめだった

 せめて最後に一言、言いたかった


{僕は莉乃のことが大好きです。この10か月間は本当に楽しかった。一緒にくだらない話で笑ってる時も、喧嘩して仲直りした時も、寝落ち通話した時だってこの10か月は莉乃との思い出しかありません。僕は一生覚えてるから莉乃も僕を忘れないで。いままでありがとう}


 僕は今思ったことを正直に全部書いた

 理由はちょっと長くなるからというのと、親が見てる前だとできなかった

 莉乃のことは一生忘れないと思う


 運命の人は二人いるといわれてるけどその一人目が莉乃だったんだと思う



 僕はネットの中で出会った元カノについて三人に話した

 正直言ってクリスマスにするような話ではなかった気がする


「へーお前にそんなことがあったのか。知らなかったな」


「そりゃあね。誰にも言ってないし漏れることもないしね」


 僕たちはこの話の続きとしてそれぞれどんな元カノ、元カレがいたのかを話あっていった

 琉梛が話始めるころには10時になっていた


「どうしよっか。もう10時だね」


「えー最後に琉梛ちゃんの話だけ聞きたーい」


「だーめ、もう帰る時間だろ」


「え、私付き合ったことないよ?」


 その琉梛の一言にみんな驚いた

 なんてったって琉梛はモテる

 小学生の時には学年の男子の半分以上から告白されていた

 それでも付き合ったことはないというのだから驚きだ


(なんで誰とも付き合わなかったんだろう)


 僕は一つの疑問が浮かんだ


 とりあえず陵と雫は家に帰らした


「ねえ、なんでいままで誰とも付き合わなかったの?琉梛めっちゃモテるでしょ?」


「んーとね私にはずっと好きな人がいたの。小学校の頃からかな、気づいたころには好きだった。私がどれだけアピールしても気づかないようなやつだったよ」


「えー琉梛に惚れられといて気づかないとかどんなやつだよ」


 僕がそういうと琉梛は頬を膨らせた


「そういうところだよ?」


「ん?僕?」


「ほら、気づいてないじゃん。もっとアタックしなきゃだったのか」


「あ、そういうこと?なんだ、小学生のころから両想いだったのかよ」


「え、うそ。小学生のころから私のことが好きだったの?!」


「ん、そーだよ」


 気づいたら僕らは二人して赤面していた


「と、とりあえずソファーに座ろっか」


「う、うんそーだね」


 一つの部屋に僕と琉梛の二人きり

 そして、時刻は夜の10時30分

 静かな時間が一刻と過ぎていく


「ねえ私、もうそろそろ帰るよ」


「あ、そっか琉梛も帰らないとだよね。ごめんごめん」


「うんさすがに11時過ぎると親がうるさそうだから」


「そーだね。じゃあ送るよ」


 僕と琉梛は夜道をとくにしゃべらずに歩いていた

 僕としては手を繋ぎながら歩きたかった


「ん!つなご!」


 僕はそういって手を琉梛の前に出した

 琉梛も本当は繋ぎたかったらしく手を繋いだあとはルンルンだった

 めちゃくちゃわかりやすい人だ


「結局僕まだ琉梛ん家知らないんだけど、どこなの?」


「んーもうちょっとだよ」


 やっぱりなんだか琉梛も楽しそうだ


「ここかー結構近いな」


「そうだよ毎日行ってあげようか?」


「ぜひそうしてください」



 僕と琉梛の関係はそんな感じで続いていった



 気づけば高校三年生になってそして夏休みにはいっていた


 琉梛と過ごす日々はとても楽しかった

 明日には一緒に花火大会に行く予定だ


{じゃあ明日は4時に公園集合で遅れたらおいてくからなー}


{おっけーそっちこそ遅れないでね}


 僕らは基本チャットは必要事項のみだ

 たまに雑談することもあるけど一日の半分以上は一緒にいるからチャットする必要性はなかった



 花火大会当日



 僕は予定時刻の5分前に公園についた

 すでにそこには琉梛の姿があった

 花柄の浴衣を着て、スマホを触っていた


「はやいなー」


「ん、ちょっと準備に時間かけようと思ってたら意外と早く終わっちゃって」


「それじゃあ行きますか」


 花火大会の会場にはたくさんの屋台が並んでいた

 僕らは花火大会まで時間があったのでとりあえずなんか食べようということになって焼きそばの行列に並んでいた


 ふと振り返ると少しオレンジみがかった空を覆いつくすように、巨大な花火は炸裂した


 ドーン


 手を伸ばせば届きそうなほどの近さだった

 花火は一滴一滴が息を呑むほど煌めいて大輪の雫はたちまち消えてしまった


「うわーすっごい」


 となりにいた琉梛もその一回の花火に魅了されていた

 おそらくそこにいた誰もが同じことを思っただろう


「いらっしゃいませー何個ですか?」


 花火に見とれているとやっと順番が回ってきた

 僕らは二発目が発射されないように急いで買って花火を見るのにいい場所を確保した


 夜空に花火が咲く。花火は好きだ。色とりどりの光を空にぶちまけて咲く、その一瞬がいい

 つぎつぎと絶えることなく、花火があがる

 その光景はまるで暗い夜空に明かりを灯すようにきれいだった


 となりを見ると僕の大好きな人が隣にいて、目を輝かせながら花火を見ていた

 琉梛は僕の手をそっと握った


「また来年もここに来ようね」


「、、、うん、そうだね」



 僕らの夏はそうして幕を閉じた



{急なんだけどさ僕たち別れよう}


 そうメッセージを送ったのはもう少しで付き合って一年になるというときだった


{え、なんで、どーして?}


{本当にごめん}


{なんで?せめて理由だけでも聞かせてほしい}


{ごめん、言えない}


{そ、そっか。わかったよ}


{うん、今までありがとう}


 ぼくはそうメッセージを送り、スマホを閉じた


 僕は心臓血管病という心臓の病気にかかっていた

 病院に行った時にはかなり進行していて、心臓移植をしなくては助からないと先生は言った

 先生がいうには12月の後半まで生きていられればいいほうらしい



 今日は12月23日


 今日から入院しなくてはいけないらしいので僕は人生で唯一親友と呼べる人に会いに行った


「おっす」


「お、晴瑠か」


「ちょっと公園まで散歩しにいかない?」


「いいけどどーしたんだよ。めずらしいじゃん」


「単なる気分転換だよ」


 僕らは少し溶けて水っぽくなった雪を歩いて公園へ向かった

 翌日がクリスマスイブということもあり、どこも忙しくしていた


「あのさ、琉梛と別れた」


「え?」


 公園に入り、ブランコに座ったところで僕は話した


「お前には言っておこうかなって思って」


「そ、そっか。なにがあったんだ?あんなに仲よかったのに」


「僕さ、心臓血管病っていう病気にかかっちゃったらしくて、それで明日から入院しなきゃいけなくて」


「、、、」


 その場はすごく凍り付いたような空気になった


「今日はそれだけ伝えに来たんだ」


「それでお前は助かるのかよ」


「わかんない。心臓移植が必要って言われたけど、なかなか合う人がいなくて。そりゃあそうだよね、みんなそれぞれの人生があるんだもん」


 陵の頬には涙があった


「僕は陵に会えて本当にうれしいよ。中学生のころにさ、僕はクラスの中で一人ぼっちだった。そんなときに話かけてくれたのが陵だったよね。最初はさ好感度稼ぎのために僕に話しかけてきたのかななんて思ったけどさ、一緒に過ごしてく中で僕は陵からたくさんのものをもらったよ。人前で話すのが苦手だった僕のいつもとなりにいてくれた。僕がなんか言われたときは言い返してくれた。陵は僕の人生で一番の親友だよ。僕の人生を明るくしてくれてありがとう」


「晴瑠、、、、それをいうなら俺もだよ」


「ありがと。それとさ、1つお願いがあるんだけどいい?」


「なんでも言ってくれ」


「琉梛にこのことを話さないでほしい」


 それは僕の心からの願いだった

 琉梛は今年、難関大学を受験するつもりだ

 僕のことで彼女の夢の邪魔をするわけにはいかなかった


「わかった」


「うん、ありがとう。それじゃあまた今度ね」


 僕は今出せる精一杯の笑顔を見せて、その場をあとにした


 それが晴瑠の最後の笑顔だった

 翌日の朝方、東雲晴瑠は帰らぬ人となった





 パタン

 私は自分の書いた小説を一から読み直していた

 これは私が高校生のときの恋人だった人を主人公とした話だ


 そのとき、彼のなくなったすぐそばに私あての手紙があったことを思い出した

 あのときは読みたくなくて机の奥底にしまっておいたのだ


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 夜桜琉梛へ


 台風がきてるなか、ブランコを漕いでいる琉梛を見つけたときは驚いたよ

 あれからずいぶん時がたちました

 まさか琉梛と付き合えるなんて思ってもいなかったよ。うれしくてびっくりだね

 僕は今、死ぬまでにやりたいことを考えています

 そうしたら真っ先に思いついたのが手紙でした

 僕の思いのほんの少しだけどここに書いていこうかなと思います


 小さい頃から僕は琉梛のことが好きでした

 小学4年生のときに琉梛が引っ越ししちゃって、なんで自分の思いを伝えなかったんだろうってずっと後悔してました

 でもだからこそ公園であったときは、今度こそちゃんと思いを伝えようって思ってました

 12月24日という日が琉梛にとって最高の日であればいいなって思ってます


 僕は今、とても怖いです。いつこの世界から去ってもおかしくない状況が、この世界から去る日が近づくのが、明日が

 クリスマスが終わるころには僕はいません。泣いても笑ってもクリスマスは越えられない

 それでも僕は生きている限りずっと笑っていたいと思います。琉梛と過ごしたこれまでの日々を思い返しながら。琉梛の明日がもっと良い日なるように祈りながら


 琉梛がいてくれたから、僕はずっと幸せでした

 僕の人生を色鮮やかにしてくれてありがとう

 琉梛、あいしてるよ


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 当時のことを再び思い返しながら読んでいると、涙腺が刺激されて瞳を奥が痛んだ

 どうにかして涙をやり過ごし、心の中で生き続ける晴瑠にそっと語りかける


「私も晴瑠がいてくれたから、幸せだったよ」


 手紙から顔を上げたときにちょうど私の小説の紹介がされているところだった

 それと同時に同じような作品を書いている人たちも紹介されていた

 そこで紹介されていたのは陵と雫だった

 私と同じ内容の小説を違う視点から書いていた

 そして、彼らは晴瑠についてこういっていた


「彼ほど人のことを思い、思いやりを持って接する人は出会ったことがない。彼は最後に僕の人生を明るくしてくれてありがとうって言った。こちらこそ、こんな俺の人生を明るくしてくれてありがとう」


 陵は泣き崩れた

 一緒にいた雫や、テレビで見てた私、その番組の人たちもみんな涙ぐんでいた


 彼は周りにいる人を幸せにしてくれる

 陵も、雫も、私もみんな晴瑠のおかげで今がある

 彼はこれからも私たちの中に、そして私たちの小説に残り続けるでしょう


「過去を生きる君と今を生きる私」  作者 夜桜 琉梛


「過去を生きる君を一生忘れない」  作者 志野原 陵・雫

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