Ⅳ.魔法少女しかいないこの町で
帰還した頃には、既に日が暮れていた。
(今日は、一番か?)
町から一切の光が消えている。町の住人が出払っている証拠だ。いつもは点々と光が灯っているので、ここまでの暗闇は初めてだった。
腕の中の子猫は、いつの間にかスヤスヤと呑気な寝息を立てていた。
神経までズタズタになっていた足は、何事もなかったかのように元通りになっている。さっきまで震えていたとは、とても思えない。魔法で治したとはいえ、目覚ましい回復力だ。
いくら魔法による治癒でも、耐性がつくと効き辛くなる。薬と一緒だ。
その点、この猫は運が良かった。下手に他の魔法少女の魔法に慣れていたら、ここまでの効果は得られなかっただろう。
「…………」
静かだ。子猫の寝息と、私の呼吸の音しかしない。
見上げると、空も真っ黒だった。いつもならキラキラと星が瞬いているのに。
(そうか。空を担当している人も出払っているから)
この町は、何もかもが魔法で作られている。空も、星も、ビルも、家も。
だから、魔法少女が出払っている間、この町は息をしていない。植物人間となんら変わらないのだ。
(…………夜だ)
光のない、真っ暗闇。
これが本当の夜なのだと、その瞬間、私は確信した。死地と化した元の世界と、一体何が違うというのか。
魔法少女が死に絶えたその時、この町は本当の夜を迎える。永遠に。
(あぁ……なんだ)
この町は、昼と夜の狭間で、必死に息をしようと喘いでいる。
同じだ。昼と夜の狭間で戦う、私たち魔法少女と。
「結局、戦うしかないってわけか」
失う痛みに、いつか独りになる恐怖に怯えながらも、戦い続けるしかない。
戦い続けて、この町を外の魔物たちから守り続けるしかない。この星に取り残された魔法少女たちには、もはやそれしか道が残されていないのだ。
だけど、悪いことばかりじゃない。今の私なら分かる。戦い続けたからこそ、この小さな命に出会えたのだから。
だったらこれからも戦い続けよう。
本当の夜を迎えるその瞬間まで、生き続けよう。
魔法少女しかいないこの町で。
魔法少女しかいないこの町で 片隅シズカ @katasumi-novel
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