Ⅲ.見つけたもの

 最初は、それが自分の家だなんて分からなかった。瓦礫の下から、幼い妹の手がはみ出していたから、確信しただけだ。


 小さな手の傍には、不細工なテディベアが転がっている。妹の誕生日プレゼントにと、不器用な私が手作りした失敗作だった。


 それでも妹がかわいいと言って、ずっと持っていてくれた思い出の……



「…………嘘だ」



 隕石で潰された家や人なんて、もう見飽きたと思っていた。そんなものは、死地に赴けば腐るほど目にするから。


 それなのに、気が付けば目から雫が落ちていた。止まらない。溢れ出てくる。


 大粒の涙に引きずられるように、体から力が抜けて、その場にへたり込んでしまった。いつの間にか、叫び声を上げていた。



 見たくなかった。知りたくなかった。こんな現実。



 家族はとっくに、別の星に移り住んでると思っていた。生きていれば、いつか会えると思っていた。だから、魔法少女ということで救助を後回しにされても、信じて待ち続けてきたのに。


 ずっと、言われるがまま戦い続けてきたのに。



 …………

 ………………

 ……………………



「…………疲れた」


 魔法少女なのに守れなかった。仲間どころか、自分の家族さえも。


 何一つ守れなかったその手に、矢を呼び出す。


 矢は一本だと折れると言うが、これは魔物をいともたやすく撃ち抜く魔法の矢だ。そう簡単に折れたりしないだろう。


 魔法の矢を両手で握りしめ、喉元にあてがう。


 今までずっと頑張ってきたんだから、もういいでしょ。

 もう、楽になっても――――




 にゃーと、間抜けな声が耳に入った。




 思わず、力を込めようとした手を止めた。

 この期に及んで幻聴かと自分自身に呆れたが、間抜けな声はまた聞こえてきた。


「…………っ!」


 気が付けば、私は立ち上がっていた。声のする方に駆け寄っていた。考えるよりも先に、体が動いていた。


「……あ」



 瓦礫の下で、小さな猫がうずくまっていた。


 生まれて日が浅いのか、それとも飢えのせいなのか、驚くほど小さくて、細い。



「――――っ!」


 瓦礫を退かして、思わず息を呑んだ。

 足が完全に潰れている。酷い有様だ。間抜けな声だと思ったが、当の猫にとっては悲痛の叫び声だったのかもしれない。


「……助けてってか」


 笑い声が、口から零れた。ほんのちょっと前まで死のうとしていたくせに、目の前の現実が、今はこんなにも嬉しい。



 うずくまる子猫に、そっと手を伸ばした。



 私を味方だと思っているのか、警戒する素振りも見せない。

 いや、もしかしたら、そんな気力もないのかもしれない。ただただ、近くの命に、すがりたかったのかもしれない。


「私もだよ」


 危なかった。あとちょっと遅かったら、この子を助けることができなかった。矢を突き立てる前に声を聞けて、本当によかった。


 身勝手に死んで、独りぼっちにせずに済んだ。

 この子が、必死に呼んでくれたから。


 月並みな言い方だけど、小さな命は、泣きたくなるほど温かかった。

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