Ⅱ.扉の先
踏み入れた先にあったのは、雲だった。
(なんでこんなところに繋がるかね……)
毎回、扉を開くまで状況が分からないので油断ならないが、それすらも慣れた。
空中で体制を整え、下へ向けて弓を引く。こんなことができるのは、見習いの頃に受けた厳しい訓練の賜物だ。
矢に乗せて魔法を放つ。
女児向けのアニメに出てくるようなクリーム色の雲が出てきて、私の体を難なく受け止めた。心の清らかな者しか乗せて当たらない雲だったら、間違いなくそのまますり抜けただろう。
クリーム色の雲に揺られながら、地上へと下りていく。だんだんと、建物らしき影が近づいてきた。
(あの辺りか)
魔物の気配を感じ取り、下り立つ場所に目星をつける。魔法少女にしか感じ取れない、魔物独特の気配だ。ゴミ屋敷を前にしたような不快な感覚だが、私たちにしかできないというのだから仕方ない。
クリーム色の雲から身を乗り出し、その辺のビルの屋上に着地する。雲は、私がもう不要だと断じた瞬間に姿を消した。
早速、ビルの下を確認する。
「――――」
言葉を失うとは、このことだろうか。いや、喋ってないけど。
ビルの下に広がる繁華街は、この世の醜悪を凝縮したような化け物で埋め尽くされている。でも、そんなことはどうでもいい。いつものことだ。
私が驚いたのは、『この町』が知っている場所だったことだ。
(分かっては、いたんだけどな……)
驚くような話ではない。扉の向こうは、どこに繋がるか分からないのだ。
だから、この町に行き着いたって、不思議でもなんでもない。
(……今は、魔物を倒すことが先決だ)
私は、ビルの下に向けて弓を引いた。
***
気が付けば、はぁはぁと息を荒げていた。
周囲には、魔物の死体が散乱している。煌めく青いドレスは、魔法による清浄機能がなければ、今頃見る影もないくらいに汚れ切っていたことだろう。
「今日……多すぎでしょ……」
思わず呟いていた。最近、どうも独り言が多くなったような気がする。
(まぁ、ずっと一人なんだから無理もないか)
最初から一人だったわけではない。この生活を始めた頃には、同じ魔法少女の仲間が何人かいた。
だけど、魔法少女だからといって無敵ではない。血は流すし、涙も命も落とす。所詮、魔法が使えるだけのちっぽけな少女に過ぎないのだ。
「……一人か」
魔法少女じゃなかったら、今頃一人じゃなかったのかな。家族と一緒にいられたのかな。仲間を失う痛みも、知らずに済んだのかな。
いつまで、一人で戦っていればいいのかな。
魔物の嫌な気配が過り、ハッとする。戒めを込めて、唇を噛みしめた。
(戦い続けるって、決めたんだ)
私が死んだら、あいつらが命を賭した意味が無くなってしまう。
感傷的になっている場合じゃない。気配が消えない内に、私は走り出した。
「…………」
気配を追って、魔物を片っ端から倒していく内に、見つけた。
見つけてしまった自分を、呪った。
(なんで、今、ここで……)
目の前にあるのは、巨大な隕石の下敷きになった私の家だった。
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