男の子がトリック・オア・トリートしに行ったら本物のオバケ出てきたよって話
遥風はじめ
トリック・オア・フレンド🎃
ある年のハロウィン。とある街。
子どもたちはみんな、夕ごはんを食べ終わってから、仮装をしてお菓子をもらいに出掛けていきました。
ところが、一人の男の子が出遅れてしまいました。
男の子はお母さんの仕事の手伝いをすべて終わらせてからお菓子をもらいに行こうと思っていたので、まだ家に残って手伝いをしていました。
男の子は、食器洗いの手伝いの途中、食器を落として割ってしまいます。
そしてその拍子に指を少し切ってしまいました。
でも、お母さんが絆創膏を指に巻いてくれました。
「トウヤ、ありがと。今夜はハロウィンでしょ。もう行っておいで」
お母さんに言われ、トウヤは仮装をして出掛けていきました。
辺りはもうすっかり夜も更けてきていました。
どの家も「来ればお菓子をあげますよ」という目印の、ジャック・オー・ランタンが片付けられしまっていて、家の灯りも消えていました。
トウヤはジャック・オー・ランタンの掲げられている家を当てもなく探し回り、とうとう街のはずれのほうまで来てしまいました。
こんなところまで来てもお菓子をくれそうな家がないなら、もうハロウィンは諦めて帰ろうとトウヤは思いました。
しかし帰ろうと思った矢先、ふと見ると街のはずれに、ポツンと古びた一軒家があり、その家の玄関には、ジャック・オー・ランタンがまだ掲げられているのが見えました。
それはとてもとてもたくさんの小さなジャック・オー・ランタンでした。
木に吊るされているのか、ぼうっとしたオレンジ色の光を灯しながら、小さなたくさんのジャック・オー・ランタンはゆらゆらと揺れていました。
トウヤは、ここならお菓子をもらえると思い、大喜びでその家に近づき、雑草が膝まで生い茂っている庭を気にもせず、ガサガサと歩きながら近寄ってみました。
ところが近くで見てみると、小さなジャックオー・ランタンは吊るされているのではなくてふわふわと浮いており、みんなでこっちを睨み付けています。
そして口々に小さな声で
「…シテヤル…ナ…シテヤル…」
と、トウヤの指を見つめて呟いていました。そしてちょうど家の前に来た時、夜の冷たい風がごうっと唸りを上げて庭の雑草をガサガサ鳴らし、トウヤの仮装を吹きさらしました。
トウヤは途端に不気味に思えて怖くなり、我に返って、なぜこんなところに来てしまったんだろうと思い、帰ろうとしました。
すると、中に気配がして、「ダレだ?」と声がして扉がギギギギギと、少しずつ開いていきます。
トウヤは怖くて、動くことができませんでした。
中から現れたのは大きなカボチャを頭からかぶった仮装した人でした。
トウヤは、なぜこの人は仮装をしているんだろ?お菓子をあげる側なのに?と不思議に思います。
しかも、その人はカボチャをかぶっているため、中の顔はよく見えなかったのです。
ぼうっとしたオレンジ色の光を中から放っていたため、なおさら不気味でした。
その大きなカボチャの人は、ゆっくりと
「とりっくおあとりーとを、シにキタな?」
としゃべり、口の端を歪めてにやっと笑いました。
トウヤはカボチャの口が動いたので、背筋がぞくっとして、この人が人間じゃないかもしれないと思いました。
そう言えばしゃべり方もどことなくイントネーションが変なのです。
カボチャは、懐に手を入れてゴソゴソと探っています。トウヤは大きな武器でも出してくるのかと想像して怖くなり、後ずさりました。
ところがカボチャが出したのは、きらきらと光る鉱石、見たこともないような模様が彫り込まれているコイン、金属で出来た小さな人形などで、「いたずらされるとコマるからな」と言いながら、トウヤにそれを渡しました。
トウヤはもっと怖いものが出てくると思っていたので、ほっと安心しました。
でも安心すると不思議なもので、
「お菓子じゃないんだ?」
と、思わず口に出してしまうのでした。
カボチャはそれを聞き、
「ゴメン」
と言いましたが、トウヤはその魅力的な小物を見ているうちに、これもすごくいいなと思い始めて、いいよ、ありがとうと言い、それを受け取りました。
トウヤはこのカボチャが、もしかしたら怖くないのかもと思い、しばらく見つめていましたが、カボチャは突然、
「ソト連れてって」
と、妙なことを言い出しました。
「きょうマッテいたけどダレもこなかった。トモダチ欲しい」
トウヤはびっくりしつつも、明日じゃだめ?もう一回来るからと言いましたが、カボチャは
「コンヤ、はろうぃんのツキのヨルのうちじゃないとだめ。アスになるとデれなくなる」
「3つともくりあしないとだめ」
とあまりに強く変に言い張るので、しょうがないな、まだ起きている友達もいると思うから、一緒に連れてってあげると言って、カボチャを連れて友達の家に連れて行くことにしました。
ところが不思議なことに、カボチャの頭の周りには、黒いモヤが3つありました。
トウヤは不思議だなと思いましたが、モヤは手を伸ばしてもゆらゆらとしていて手で掴めませんでした。
でも、そのモヤは、とても嫌な感じがしました。
「アリガト。ヨロシク」
カボチャはそう言ってウインクをしようとしました。
ところがうまくウインクが出来ず、両目をつぶってウインクしてしまうのでした。
古びた家を出た途端、カボチャの周りの黒いモヤが1つ消えました。
嫌な感じは少しだけなくなりました。
友達の家に着くと、トウヤは小さな小石を二階の窓に投げました。
コツンと音がしてしばらくしてから、窓の中から友達が顔をのぞかせました。
友達はトウヤの横のカボチャのオバケにびっくりしますが、すぐに窓から離れ、興味津々で玄関からそっと出てきます。
「何やってんのトウヤ?こいつ誰?」
トウヤも良くわかっていませんでしたが、なんとか説明をしようとします。
「リク、急にごめん。とりあえずこいつはオバケで、友達が欲しいらしくて…」
トウヤがリクに説明をしていると、カボチャは例の小さな宝物を出し、言います。
「とりっく・おあ・とりーと…」
カボチャはそう言ってウインクをしようとしました。ところがまたウインクが出来ず、両目をつぶってウインクしてしまうのでした。
リクは絶妙な表情をして、
「いや、俺大人じゃねーし、菓子も持ってねーし、そもそもお前があげる側じゃねーしw」
そこまで言ってから、リクはカボチャの持っているものをのぞきこんで、目を輝かせます。
「なにこれ…。すげーな。よし、交換しようぜ。菓子持ってくるわ!」
リクはまた部屋に戻り、さっき集めたお菓子を持ってきて、ほら、とカボチャに渡します。
「トモダチなれる?」
カボチャが聞くと、リクは答えました。
「うん。交換したからな。いいよ」
カボチャはふわふわと嬉しそうに浮いていました。
その次の友達も、その次の友達も、カツヤもユウキもマリも、みんなカボチャにも小さな宝物にも興味津々で、宝物とお菓子を交換しました。
カボチャが、とりっくおあとりーとと言って両目のウインクをする度に、友達はみんなおもしろがっているようでした。
トウヤはいつのまにか、カボチャの周りの黒いモヤがまた1つ消えていることに気づきました。
嫌な感じは、また少しだけなくなりました。
時間も経ち、月がだいぶ移動していました。帰らないといけないと思ったトウヤは、そろそろ帰るよとカボチャに言いました。
ところがカボチャは、とある豪華な家の二階のオレンジ色の光を見つめていました。
「おれんじのヒカリ…ナカマ…?」
カボチャはそう言うと、その家のほうにふわふわと向かっていきました。
「あ!ちょっと!その家の子は…誰だったっけ、えーと…あ、待って!」
カボチャは先に窓の下まで来ると、地面の小石を窓に投げつけます。小石はゴツンと窓に当たりました。
追いついてきたトウヤが息を切らせながら言いました。
「思い出した…この家の子は降りてこられないんだよ。だから、無理なんだ。トリックオアトリートしに、出かけてもいないはず…」
カボチャは不思議そうにトウヤを見ながら石を投げようとします。
「ちょっと!石が大きすぎるよ!」
カボチャは構わず投げてしまいました。
ゴツン。
「だめだよ!…あのね…」
トウヤはカボチャの3個目の石を投げようとしていた腕を掴んで止めました。
「ここの家の子は…足が悪くて…寝たきりなんだ」
その時、窓のところに女の子が顔をのぞかせました。
「やっべ…」
トウヤは窓辺のベッドから身を起こしてこちらを見下ろしている女の子を見て、どうしたらいいんだろうと思いました。これではただのイタズラになってしまいます。
女の子はオレンジ色の読書灯に照らされた本を手に持ち、カボチャのオバケとトウヤを見て、信じられないという表情をしていました。
「とりっくおあとりーと…」
その時カボチャは信じられないことに、自分の腕に掴まっているトウヤの腕をぶら下げたまま、ふわりふわりと地面から浮き上がっていき、そのままふわふわと上昇を始めました。トウヤの足が地面から浮きそうになります。
「ええええ!?マジで!!?」
気づいたときには既に2メートルくらい浮いていたトウヤは、掴んでいた手をすぐにしがみつく体勢に変えました。
それでもカボチャは空中でも安定した姿勢のまま二階の方へふわーっと上がっていきました。
トウヤは自分でも不思議なくらいワクワクしてしまいました。
だんだん楽しくなって来て、カボチャに文句を言いました。
「こういうのできるなら早く言ってよw」
そうすればみんなわざわざ降りてこなくて済んだし、みんなをびっくりさせられるじゃん、トウヤはそう思いました。
トウヤをぶら下げたカボチャは2階の窓までたどり着きました。
すると女の子は、カラカラと窓を開け、言いました。
「こんばんは…」
カボチャは懐から宝物を取り出し、
「コンバン…とりっくおあとりーと…」
と言って、女の子の目の前に差し出しました。
女の子は、カボチャがお菓子をねだるはずのトリックオアトリートのセリフを言いながら物を差し出すカボチャのことを、ふふと笑って見ていましたが、宝物を見て嬉しそうに受け取り、窓辺に並べていきました。
「ありがとう」
そしてカボチャと女の子はいつまでも見つめ合っていました。
「あの…」
トウヤが割って入りました。それもそのはずです。
「いい雰囲気のところ申し訳ないんだけど、この体勢がちょっとつらいんだよね…w」
トウヤは落ちないように、カボチャの腕に必死につかまっていたのです。
とても危ないです。
女の子はまた、ふふと笑って、窓をさらに大きく開け、2人を中に招き入れました。
3人は座り込んで、小声で少しお喋りをしました。トウヤはカボチャに彼女の足のことを説明しました。
カボチャは彼女の足を黙って見つめながら、トウヤの話を聞いていましたが、突然両手を大きく広げて
「ミンナ、オイデ…」
と言いました。
すると、あの家の玄関のところにいた小さな小さなジャック・オー・ランタンが、たくさん窓から入ってきて、女の子の足元に集まりました。
トウヤはびっくりして、止めに入ろうとしましたが女の子がそれを制しました。
「大丈夫…なんだか温かいの」
小さな小さなジャック・オー・ランタンたちは
「ナオシテヤル…ナオシテヤル…」
と呟きながら、オレンジ色の光を目から出し、女の子の足に当てていきました。
女の子が心地よさそうにしていると、しばらくして、小さなジャック・オー・ランタンは、すっと足から離れ、窓の外にふわふわと出ていきました。
カボチャは、一言だけ言いました。
「ナオッタ」
その一言は、二人の耳にもハッキリと聞こえたので、女の子とトウヤは目を見合わせました。
女の子がベッドから出ようとしているのを見て、トウヤは半信半疑だったので、
「危ないよ…」
と言いましたが、
「大丈夫。私、結構チャレンジするタイプだから」
と、彼女が言ったので、トウヤは手を貸してあげることにしました。
彼女は、トウヤの手に掴まり、ふらつきながらもベッドから立ち上がることができました。
その瞬間、彼女は今までの人生を思い出し、そしてこれからの人生を思い描き、涙をぽろぽろと流しました。
それから、彼女はカボチャに飛びつき、「カボチャさん、ありがとう…」と何度も繰り返しながら、ずっと泣いていました。
その時に最後の黒いモヤが、部屋の窓から夜空に吸い込まれて消えていきました。
嫌な感じは、もうまったく、なくなりました。
しばらくしてカボチャが言いました。
「ツカレた」
「チカラ、ツカいすぎ」
カボチャが力を使い果たしたんだとわかったトウヤは、彼女に別れを告げ、カボチャを古びた家まで送り、また明日来るよと言い、自分もお菓子と宝物をたくさん持って家に帰り、その日はぐっすり休みました。
翌日、トウヤはすぐに目が覚め、みんなに連絡をして、朝早く例の古びた家に行きました。カボチャはすでにクラスメイトの中で噂になっており、見たいと言い出す他の子たちもいたのです。
ところが着いた家はボロボロで、そもそも人が住んでいる気配もなく、朽ちた空き家になっていました。
みんなは残念がったり、カボチャの存在を知らない子は、「ほんとにいたの?カボチャ」と存在を疑ったりしながら、学校に行きました。
すると、先生が朝の会でみんなに言いました。
「今日からアヤノさんが歩いて学校に来れるようになりました」
教室はざわつきますが、トウヤだけはその理由がわかっていました。
カボチャが治してくれたからね。トウヤはそう思って、昨日のアヤノの涙を思い出しました。
おわり?
いいえ、違います。
先生の言ったことは、それだけではありませんでした。
「今日から転校生が来ます。みんな仲良くするように」
ふわふわとした足取りで教室に入ってきた転校生は、変わったイントネーションで挨拶をしました。
「ヨロシクオネガいしまス」
転校生は両目をつぶるウインクをしました。みんなは目を見開き、顔を見合わせ、長らく、ざわざわ、ざわざわ、としていました。
おわり
男の子がトリック・オア・トリートしに行ったら本物のオバケ出てきたよって話 遥風はじめ @hajimeck
★で称える
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