第39話 反応

 自分たちの番が終わると、玲人はすぐに視線をパソコンの画面に移し、今の出演の反応を確認した。


 数分経つと、ちゃんとした感想文が投稿され始める。事前に、普段配信で使うタグに今回の感想を投稿してほしいと伝えていたため、視聴者の反応は大体そのタグで見ることができる。


 オタクならではの推しフィルターがかかっていたり、ガチ恋こじらせている投稿もあって、解読に時間がかかるものもあるが、普段から見てくれている視聴者たちからはものすごく好評だった。


 詳しく言うと、まず動いているというところから驚かれる。こはくとシキは一度も中の人を出したことがないので、その二人の視聴者はそうなるだろう。


 次にダンスをしているということ。配信で初めてやるだとか言っていたので、これもこはくとシキの視聴者は喜んでいた。


 そして生で歌っていること。それが聞くに堪えないようなものではないこと。しろねことさくらとシキは生のライブや歌枠の配信で歌ったことがあるが、玲人はそもそも歌い手ではないのでほとんど歌ってこなかったし、こはくも歌枠はほぼやっていないだろうし、加工が入った歌い手の歌ってみただけで歌の上手い下手は評価できないので、案外驚く点なのかもしれない。


 さらに衣装。立ち絵通りの衣装だということで、評価は高いらしい。


 一方、視聴者ではない人たちの感想も玲人は見ようとした。


 まずネットに染まっている人たち。多少なりとも、歌い手を知っている人たち。


 調子に乗るな、無名が何言ってんだ、そんな感じのことを色々と言われてきたが、そんな人たちでも驚いて、やるじゃんと言っている投稿もあった。上から目線で何様だよと言いたいところだが、正直何を言っても無駄なのでもう諦めている。


 そしてただの一般人の反応。今のセククロには関係ないが、今後もしもっと大きくなった時の市場となるので一応見ておこうと思った。


 あきらかに一般人っぽいアカウントの投稿では、まず何者かも知らないような人も多かった。一応Snowdropのプロデュースということで名前くらいは知っているというのもあったが、それもほぼ知らないようなものだ。


 そして物好きな人たちがセククロのことを調べて、ただの一般人からここまでになったということで、『へぇ、すごいね』くらいには言ってくれる人が多かった。


 それほど話題にはなっていないが、炎上していないだけマシだ。それで十分。


 ここまでいい意見しか無いように見えるが、実際は粘着してくるアンチも多い。あとは歌い手だとかには全く関係ない、よくわからない人たち。旧時代の常識だとかをぶつけてくる面倒くさいタイプの人たちだ。上から目線で自分の常識が絶対的な社会の基準だとでも思っていそうな過激派もいた。


 正直これは無視でいいだろう。本当ならブロックしたいくらいだが、普段からこういうのは個人の公式アカウントで見ていたので、このアカウントで軽率にブロックするわけにはいかなかった。サブアカウントもしくは裏アカを作ろうかと思ったことはあるが、思っただけで行動には移していない。



 一通り感想を見終わって、思ったより印象が悪くなくてよかったと安心しながら、玲人は眠りについた。



 翌日もいつも通り練習があった。


 玲人が学校が終わって事務所に行くと、たまたま他の四人はまだ来ていなくて、白夜と夕真と三人だけになっていた。


「Ariaは昨日の見た?」

「あ、はい。見ました」

「どうだった? 自分のステージ」

「まあ……今まで以上にはよかったと思います」

「そっか。それならよかった」


 白夜は玲人の反応を見て満足したようだった。


「なんか思うこととかあるの?」

「え?」


 そう聞いてきたのは夕真だった。


「ちょっと、考えたでしょ。何て言おうかって」

「ま、まあ……気になったことがあって」

「何?」

「その……しろねこって何者なのかなって」


 やっぱりしろねこに向けて多少思うことはある。思うことというか、本当にただ気になることだ。今まで会ってきた天才よりも天才なしろねこはどんな人なのか、知るチャンスは今しかないと思った。


「何で気になったの?」

「アンリリの解散ライブの時から思ってたんですけど、しろねこのいるステージは、なんか惹きつけられるっていうか……それはアンリリだからだと思っていたんですけど、セククロでも同じように……しかもカメラを通してでも思うのが、不思議に思って」

「なるほどね」


 夕真は理由に納得したようだった。


「じゃあもう一つ。他にも気になったことはない?」

「他に?」

「うん。何でしろねこのいるステージが違って見えると思う?」

「いや……わからないです」


 わかっていたら聞いていないだろう。


「そっか。じゃあこれだけ言っておく。しろねこはこのために生まれてきた天才……だと僕たちは思っている。何がどう、しろねこをそうしているのかは、Ariaが気付いたらにしよう。勝手に話すのも悪いしね」


 夕真はそう答えた。


 でも本当に聞きたいことはわからなかった。


 まあ、本人がいないところで勝手に話してしまうのもよくないだろう。本来の理由のヒントはどこかにあって気付けるようなものなら、それに気付くまでというのは妥当だろう。



 それにしても、『このために生まれてきた天才』か……


 玲人はそう、何とも言えないほどの劣等感を感じていた。

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高校生配信者たちが、有名アイドルの名を冠したプロダクションにスカウトされて、アイドルをやることになった。 月影澪央 @reo_neko

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