第38話 初のテレビ出演
そして放送当日になった。
どんなものになっているのか楽しみにしている一方、色んな人たちからの反応も気になって仕方なかった。それはむしろ怖いと思う方だ。
放送時間になると、玲人は自分の部屋にあるテレビをつけた。リビングにもテレビはあるが、さすがに家族の前で見るのは気が引ける。特にダンスに関して色々あったわけだし、ちょっと気まずい。
自分の部屋にテレビがあってよかったと初めて思った。
夜のゴールデンタイム。いつも通りにその番組は始まった。やはりそのほとんどは生放送での生出演。事前収録なのは玲人たちのsexted clock、音倉椋介がいるvivid gem、あとはさくらとぶつかった人がいるグループだ。
まあ、さすがにこの時間に生放送に出るというのは平日なのもあって学生にはキツすぎる。夜はちゃんと寝たいけど、授業の出席に融通が利くわけでもない。
加えて夜がテレビのゴールデンタイムであるのならば、配信者たちのゴールデンタイムも同時刻ではある。
そしていきなり生放送なのも緊張してしまってどうしようもないので、これでよかったと玲人は思っている。
出演者は名だたるアーティストたちばかり。おそらくセククロは『誰?』と思われているだろう。こういう番組にはそういう枠も必要だ。
そんなことを思いながら番組を見ていると、意外とすぐにセククロの番が来た。
正直、よくあるピントが合っていなくてぼやけているように見えるあの画面で何が見えるのかと思ってしまうが、確か絶妙に顔が映らない画角での鮮明な映像もあった気もするので、それも入るのならば多少はマシかもしれない。
『では続いては、sextet clock!』
CMが終わり、アナウンサーがそう言ったのがテレビから聞こえてきて、玲人はドキッとした。
画面には大きくセククロのメインビジュアルのイラストが映し出されている。
『昨年八月にアイドル引退を宣言したsnowdropがプロデュースする、2.5次元アイドル! 発表されるや否や、SNSのトレンドを埋め尽くす注目具合! 加えてメンバー・グループのSNS総フォロワー数約250万人の、今大注目のグループ!』
言われてそんなにフォロワーがいたのかと思うが、ほとんどが重複なので実際の数はもっと少ないだろう。平均しても、しろねこが外れ値すぎてまともな数にはならないだろう。
ただこういうのはよりすごく見せようとして、大体そんなことは気にせずに全てを足すことがよくある。前に歌い手発グループがテレビに出た時も、何百万人だとか言われていた。
『メンバーは顔出しをしておらず、素顔は不明。分かるのはイラストのみ。そんなところに惹かれるファンも多い、そんなグループのテレビ初出演・初歌唱を、特別演出でお届けします!』
それでは、sextet clockです! とアナウンサーが言い、画面が切り替わった。
映ったのは見覚えのあるスタジオで、聞き覚えのある曲が流れてくる。
まず背後からの鮮明な映像の後、正面からに切り替わり、ぼやけている画面に変わる。でも案外顔のパーツの形なんかも認識できて、知り合いだからか顔が浮かび上がってくるくらいには意外とちゃんと見えた。
加えて衣装がメンバーカラーになっているので、少しでも知っている人なら誰が誰だかもわかる。わからなくても、何色の人という認識くらいはされるだろう。
パフォーマンスについては、ちゃんと揃っていることはわかるし、連携も綺麗にいっている。今までで一番上手くいった回なのではないかと玲人は思った。
そしてそんな絶妙に見えない画面でも、なぜかしろねこには惹きつけられる。惹きつけられるのはしろねこだけではないが、しろねこだけ圧倒的なオーラを感じる。
「なんだこいつ……」
このしろねこって奴は、一体何者なんだ。
「……天才かよ」
ここまでくると、そう思わされてしまう。
Unlimited Lyric の解散ライブの時も思ったが、妙にしろねこには観客を惹きつける何かがある。パフォーマンスは完璧だが、それだけではない。
なんだろう。
気持ちか?
いやそんな単純なものではないだろう。
きっと誰が考えてもわからないほどのものだ。
でもわかったのは、あの時のスタッフや音倉椋介の反応は、全てしろねこのおかげだということだ。
音倉はあの時惹きつけられたと言っていた。それは玲人も体感したものだし、テレビ越しで鮮明でない映像からでも感じる何かは、それくらいの影響は及ぼしているだろう。
全部しろねこのおかげだが、それを悔しく思ったりはしない。今更すぎる。
セククロの視聴者の最低でも半分くらいは元々しろねこの視聴者だった人たちで、個人の視聴者が増えたのもしろねこから流れてきたから。そうでなくても、界隈では有名人のしろねこがいるグループなんて一度は見てみようかと思う人がいるはずだ。
発表時のトレンド入りも、SNS総フォロワー数も、しろねこのおかげという部分ばかりだ。
そのおかげでこういう経験ができているとも言えるので、むしろ感謝しかない。
そんなことを考えている間に、初のテレビ出演が終わった。テレビ用の短いバージョンだったので、ほんとうにあっという間だった。
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