第37話 過去(成田玲人)
それから駅まで何事もなく行き、そこでそれぞれの路線に別れた。
一人だけ路線の違う玲人は、窓の外を眺めながら、今日のことを振り返っていた。
今日は確かに上手くできた。白夜たちにもそう言われたし、スタッフの反応も良かった。何より、今実力派と呼ばれるグループのリーダーからもそう言われた。
でも個人的には、vivid gemのパフォーマンスには及ばない。当然だ。初心者と経験者じゃ違いすぎる。まだまだ遠い。
でも、それぞれかなり頑張ってここまでやった。それでもまだ全然手が届くような気もせず、全く及ばないなんて、考えたくもなかった。
どんな世界にも、上には上がいる。玲人はそう思い知らされた。
――あの時と同じ。俺は全然変わってない。
玲人は同時に、過去にあったことを思い出した。
◇ ◇ ◇
まだ玲人が小学生の頃のこと。
玲人は小学校入学より前、いわゆる幼稚園生の年代からダンスを習っていた。
習い始めたきっかけは、たまたま家から近くにスクールがあって、他の習い事が近くに無かったからだ。
そんな幼い頃からやっていれば、小学生頃には相当上手くなっていた。
スクールはいつの間にかレベルが高いスクールと言われるようになっていて、多くの大会で多くの賞を取るスクールになっていた。
玲人も例外ではなく、グループでも個人でも大会に出ては優勝するような、優秀な成績を収めていた。
練習はキツかったけど、その分得られる成功体験が大きかったので続けられていた。
両親も応援してくれていたし、何よりスクールにお金を出してくれていると理解してしまったので、たとえ辞めたいと思っていても、辞めるにも辞められなかった。
そんな感じで、小学六年生までやってきていた。
小学六年生の全国大会、ちょうどこの大会から積極的に広報がされたりが理由だとは思うが、大会が多くの人に知られたことにより、参加者が格段に増え、今まで全国大会に出ていた人たちが出られないといった状況が起きるくらい、レベルが高くなっていた。
なので玲人は今まで見たことがないような人たちも何人も見た。
ここに至るまで、玲人は全国大会でもそれなりにやれていたと思う。さすがに全国だとそれほど上位に入ったことはないが、自分では負けていないという謎の自信があった。逆を言えば、それほど差を感じたことはなかった。
だが、この大会だけは違った。
絶対にこれには勝てないと思わせる天才がいた。しかも一人じゃない。
自分は才能があって、常に上の方にいると思っていた。だからこそ、自分の才能も努力も全て否定されたような気がした。
こいつがいる限り、自分は認めてもらえない。玲人はそう感じた。
原因は両親にあったかもしれない、と高校生になった今だからこそ思う。
幼いころ、始めたばかりのころの両親は、玲人がスクールのグループに入れてもらえるようになっただけでも喜んでくれた。次は初めての発表会に出た時。大会に出た時。センターに選ばれた時。個人でも大会に出ることになった時。段々とそれが当たり前になって、今度は成績が評価の対象になった。
前より成績がよかった。評価コメントがよかった。会場の盛り上がりがよかった。最初はそんなものだったけど、一度優秀な成績をおさめてからは話が変わってきた。少しでも下がれば努力が足りないと言われ、ずっとそれに従ってきた。
そしてその結果がしっかりついてきたのがいけなかった。その時はいいことだったけど、振り返ってみれば結果なんてついてこなければよかったのに、と思う。
結局それで褒められるし、友達もできた。今の玲人はそうやってできた。
でも、それがあったから、絶対的で謎の変な自信がついてしまって、本物にあっさりと折られてしまった。
それからというもの、玲人はダンスを楽しいと思えなくなった。
みるみる調子が悪くなり、そのたびに更なる努力を強いられ、最終的には怪我をして、玲人は完全に習い事としてのダンスをやめた。
怪我は酷いものじゃなかった。でも両親は自分たちのせいだと責め、玲人は余計に申し訳ない気持ちになった。そして気を改めたのか、もう何も言って来なくなった。
それで、純粋に楽しめなくなっていたダンスを楽しく続けたいと思い、こうして踊り手Ariaとして活動を始めた。
順調に視聴者が増え、力試しにオーディションに参加したりもした。評価はそれなりにされた。でもやはり根底にあるのはあの天才たちだ。自分はあれには敵わない。頂点に立とうなんて思っているだけ無駄だ。そんな意識。
そして、その意識を忘れて、本当に純粋にダンスを楽しんだ時、踊り手Ariaは完成する。玲人はそう気づいた。その状態なら、あの天才たちにも負けない何かがあると、信じていた。
でもそれは今日打ち砕かれた。
何をやっても、本気でやってこなかった玲人が本気でやってきた人たちに勝てるはずもない。敵うはずがなかった。
久しぶりにそう感じて、玲人は昔のことを思い出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます