終わりの終わり、そしてはじまり
そしてリンネは、アルトの腕の中で静かに息を引き取った。
屋敷のそばに埋葬することにした。彼女の亡骸と、もうひとつ屋敷から見つかった遺体と一緒に。地下から見つかった老女の遺体は、腐敗がだいぶ進んでいた。おそらく彼女が、リンネの言っていたサラなのだろう。運ぶのに躊躇がなかった、とは言わないが、リンネの願いも含めて、無視することはできなかった。
ひとりでふたりぶんの穴を掘る作業は楽ではなく、終わった時には、ひたいから滂沱の汗が流れる。
「もうすこし、俺がはやく来ていれば、何か違ったのかな」
とアルトが『王夢』に聞くと、
「いや、間に合ったんだよ。私たちは。だから絶対にアルト、きみは罪の意識など感じてはいけない。感じるとしたら、それは私だけでいい」
そんなことない、とアルトは『王夢』に伝えようとして、やめる。『王夢』とリンネの関係は、アルトとの関係のそれとはまったく違うものだ。安易な励ましは空々しくなるだけのような気がした。
埋葬を終えると、アルトはひとつ息を吐いた。
「結構、長い旅だったが、これで終わりだな。ありがとう。アルト」
『王夢』が言った。
「そっか、終わりなんだね」
「なんだ、寂しそうだな。私と離れるのが、そんなにも嫌か」
「そんなわ……、あぁいやそうだな。なかなか濃密な時間だったから」
強がってみようかとも思ったが、アルトは素直になることにした。
「なんだ、素直だな」
「『王夢』はこれから、どうするつもり」
「特に何も決めていないが、エピアでのんびり過ごすのも悪くないな、って思っている」
「……もし『王夢』が嫌じゃなかったら、さ。もうすこし一緒に、この世界を歩いて回らないか」
「まぁ、悪くはないな」と『王夢』が笑う。「で、どこへ行く。目的は?」
「目的なんて……、あてのない旅だよ。でも、そうだな。一度、フレンツに行こうか」
「ポルカに会いに?」
「うん。そうだな。旅が終わったら、話を聞きたい、なんて言ってたし。まだ終わってはいないけど、一区切りは付いたから。あと、それもあるけど……」
「んっ?」
「フレンツで見たあの夫婦の絵、もう一度、見たいな、って思って。いまならまったく違う気持ちで見れる気がするから。だって、あれ、『王夢』とラフアさんの絵なんでしょ」
「あぁ、そうだ。ちょっと恥ずかしいが、な。婚約したばかりの頃、ふたりで訪れた時に描いてもらったんだ」
アルトはふたりの過去にもうすこし想いを馳せたい、と思った。語り聞かされたラフアという女性は、夫を殺し、娘をひどく扱った女性だ。でもその一方で、王が誰よりも愛し、娘が多大な共感を抱いたひとでもある。実際に会って知ることはもう叶わないが、記録と記憶は、そこにすこし近付けてくれる。せめてその姿だけでも、改めて目に焼き付けておきたい、と思った。
「幸せだった頃のふたりを見てみたいんだ。もう一度、改めて。あの時は何も知らなかったから」
「物好きだな」
「偶然だったんだろうけど、そういう性格だから、俺は『王夢』に選ばれたんだ、って気がいまはしてる」
「そうかもしれないな」
「……じゃあ、行こうか」
風を受けて、木々が揺らめいている。
新たな旅の一歩を踏み出すアルトたちを、祝福するように。
夢見るリンネを探して サトウ・レン @ryose
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