雪の娘と青薔薇の国

黒部頼叶

開幕

昔々、そのまた昔。

世界は生命で満ち満ちていました。


神々によって作りだされた生命は、世界中を包み込み、美しい景色を成していました。

大地は緑に覆われ、その上をはつらつとして駆け回り。

輝ける朝焼けが限りなく照らし、暖かな粉雪がすべてに祝福を与えていました。


しかしある日、一匹のクセノスが提案を呼びかけます。


「神の手を離れ、自分たちによる国を作ろう。」


この一声を皮切りに、平穏はあっという間に崩れ去ってしまいます。


提案に応じる者は日を追うごとに増し、大地は焼き尽くされ、煙が日光を遮るほどに立ち上り、冷たい氷の上に、いくつもの死が降り注ぎます。

混乱の果てには、敵も味方もなくなり、共食いまで起こる始末でした。


世界のほとんどから生命が消えたこの事態に、神々は呆れました。

絶望に暮れ、嘆き、この世界を見捨ててしまいました。

ただ一人を除いて。


どうしようもなくこの世界を愛でていた彼女は、思い切った行動に出ます。

なんと、大地をいくつもの欠片にわかち、奈落にクセノスたちを封じたのでした。


彼女は反動で力尽く前に、一つの生命を産み落としました。

彼女の姿に倣った生命は、「ミメシス」と銘打たれ、特別な力と使命を授かりました。

「叙述」と呼ばれるその力で、クセノスたちを駆逐せよ、と。

彼女は遺言を残し、その遺体は巨大な樹の種となりました。



ミメシスたちは言いつけをしっかり守り、神々が帰ってこれるよう、「叙述」をいかんなく発揮し、クセノス達を追い払い、毎日を、彼女のために割くのでした。

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雪の娘と青薔薇の国 黒部頼叶 @keiryu54

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