『感電ガール』に俺の平和が脅かされている 〜学校一の美少女が夜に怪人(自称ヒーロー)をやっていることを俺だけが知っている〜
エリザベス
第1話 彼女の名は『感電ガール』
「
「はい、先生。
「さすがは羽衣石さん」
「いいえ、それほどでも」
謙遜な態度を取り、
その動作は流れるように自然で、弾けるように美しい。
こと彼女に関しては、それはごく当たり前のこと。
なぜなら、羽衣石八尋という女の子は我が校においてアイドルであり、一番の美少女でもある。その上、品行方正、容姿端麗、おまけに文武両道ときた。
つぶらな瞳はまるで琥珀のような輝きを放ち、長い黒髪は天女のそれを彷彿とさせる。
彼女の謙遜はあくまで謙遜であり、そこに皮肉を見つける方が難しい。
だから、俺は昨夜見たことは夢なのだと自分に言い聞かせた。
◇
「
コンビニでアイスとジュースを買って家に帰る途中、俺は一人の美少女に呼び止められた。
疎らな街灯に照らされた彼女の顔は新雪のように白く、長い黒髪は風に靡いていた。
ただ、彼女は夜でもそれがはっきりと視認できるような、ビリリと青い火花を散らしているスタンガンを手に持っている。
「奇遇だね、羽衣石さん」
クラスメイトなので、軽く挨拶してみる。
できれば、会話はこれで終わって欲しい。
「昨夜のこと……」
なのに、彼女は俺のお願いを無視して呟くように言葉を続ける。
項垂れている彼女から表情は読み取れないが、体は僅かに震えていた。
「……見た?」
「なにかあったかな?」
「とぼけないでっ!」
俺が質問すると、羽衣石さんは急に素っ頓狂な声を発した。
「見たでしょう?」
「なにを?」
「これ!」
羽衣石さんは返事する代わりに、まるで靴箱に入っていたラブレターのようにスタンガンを掲げてみせた。
「あれって夢じゃなかったのか……」
「やはり見たのね……」
できれば夢であって欲しかった……。
でも本人が言ってきたのだから、仕方ない。
間違いのないように詳細まで丁寧に確認しよう。
「見たって、羽衣石さんが昨夜スタンガンを振り回して、『私の名前は感電少女ぉ! 英語で言うと、感電ガールだぁ! お前ら絶対覚えろよぉっ! 夜だからと言って女の子に変なことしようとしているやつ! 私のレールガンが黙っていないぜ!』と公園で誰もいないところに向けて叫んでいたところをか?」
「うわぁぁぁぁあっ!! やめて!! 真似しないでっ!!」
「英訳はするのに『感電』の部分だけ取り残されてて、スタンガンなのにレールガンと
「いやぁぁぁぁあっ!! お願い!! お願いだからぁ!! もう許してっ!!」
「巷で噂になっている怪人、『感電ガール』は実は羽衣石さんだったというところをか?」
「私はヒーローだっ!」
「痛っ!」
ずっと叫びながら悶えていた羽衣石さんだったが、こと『怪人』の部分に関しては我に返って冷静にツッコミを入れながら手刀で俺の頭を叩いてきた。
「ねぇ……栗之宮くん、誰にも言わないでくれる?」
「言わないって? あの学校一の美少女が夜になるとスタンガン振り回してヒーローごっこをやっていることをか?」
「きゃぁぁぁぁあっ!! 言わないでっ!! そんなふうに私のことを言わないでっ!!」
「あの成績優秀で常に学年トップに君臨している才女の羽衣石さんが顔に手を当てて、『ふふっ、今宵の日本の平和も私のおかげだなぁ!』と高笑いしていたことをか?」
「ひゃぁぁぁぁあっ!! そこも聞いたの!? ねぇ、そこも聞いたのっ!?」
俺の言葉に一々動揺している羽衣石さんを見て思った。
―――やらなければいいのに。
しかも、こっちは夢だと片付けてやろうと思ったのを、自らスタンガンを持って接触してきた。
それは自分が噂の怪人だと自白しているに等しい。
「ねぇ……栗之宮くん」
なんでだろう。
なんでここまで恥ずかしい目に遭ったのに、まだ俺に話しかけるメンタルがあるんだろう。
俺だったら軽く死にたい。
穴があったら、自分から入ってそれから埋めたい。
さすがは完璧超人の羽衣石さん。
メンタルも化け物じみている。
「私ってほら、変装していたじゃん? なんで私だと分かったの……?」
「それは……」
「それは?」
「羽衣石さんのことが好きだったから、
「軽くない!? ねぇ、栗之宮くんの告白ってすごく軽くないっ!?」
手を後ろに伸ばして、ワンちゃんのように叫ぶ羽衣石さん。
これがもし一昨日なら、可愛いなという感情が芽生えただろう。
そもそも、俺は告白しているつもりはない。
なぜなら―――
「それはもう過去形だから」
「えぇ!! 私も栗之宮くんのことが好きなのに!?」
「あっ、どうも」
「ちょっと!? なんで私が振られたみたいになってんの!?」
「みたいじゃない。ちゃんと振った」
「おい!!」
そう、俺は目の前の残念な美少女のことが好き
でも、誰でも自分の好きな人がマスクとサングラスを付けて夏に白いコートを羽織り、ベンチに向かって『私は感電少女ぉ! 英語で言うと感電ガールだぁ!』と叫んでいたところを見れば冷めるだろう。
実際俺の恋は冷めた。
超冷めた。
「……私、決めた」
「なにを?」
「絶対もう一度栗之宮くんを惚れ直させてみせるんだからぁ!」
「やってみろ」
「なんで偉そうなのよぉっ!?」
発狂して乱れた息を整えてから、羽衣石さんは俺の鼻にスタンガンを近づけて宣言する。
それは俺の冷めた気持ちへの挑戦状に思えてならなかった。
「手始めに下の名前で呼んでやるぅ! これでキュンキュンしろぉ! ―――
無理。
絶対無理。
スタンガンがあと1cm近かったら、俺の意識は飛んでいた。
こんなイカれた女の子に惚れ直す?
―――絶対無理だぁっ!!
高一の夏、俺―――栗之宮藤真は、片思いだった人(怪人)に片思いされてしまった。
―――――――――――――――――――――
ビリリと閃いて書きました。
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『感電ガール』に俺の平和が脅かされている 〜学校一の美少女が夜に怪人(自称ヒーロー)をやっていることを俺だけが知っている〜 エリザベス @asiria
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