第248話 帰ってきたぞ

「ココちゃん!」


 領地の屋敷に着いたら母が前庭にまで出てきていた。馬車から降りた俺をしっかり抱きしめてきたんだ。

 温かくて良い匂いのする母だ。


「母さま、心配かけました。ごめんなさい」

「心配するのは親の仕事ですもの。そんな事はいいのよ。でもこんな無茶はもうしないでね」

「はい、母さま」

「ココは強かったぞぉッ!」

「あの魔法はとんでもなかったなッ!」


 父とユリシスじーちゃんだ。やめてくれ。自慢気に言わないでくれよ。もうそっとしておいてくれ。


「あなた、ココちゃんが倒れたのですよ! 強かったなんて言ってる場合じゃないわ!」

「お、おう。すまん」


 ハハハ、脳筋の父も母には弱いらしい。


「お嬢ッ! よく無事で!」


 シゲ爺だ。相変わらず使わない杖を持っている。


「心配したぞぉ!」


 おいおい、爺さんに泣きつかれてもなぁ。皺のある顔をより皺くちゃにして泣いている。心配かけたな。


「シゲ爺、母さまを守ってくれてありがとう」

「何言ってんだ! 当たり前だ!」

「ココ様」

「クリスティー先生、ありがとうございました」

「よく頑張りましたねッ」

「はい」

「でも魔力の枯渇はいただけませんねッ。またお勉強しましょう」

「はいッ」


 クリスティー先生が、作ってくれた魔法陣はそのまま使う事になったんだ。

 大聖堂のものも、城に設置したものもだ。城の魔法陣には毎日大聖堂の人が魔力を流して維持する事になった。

 もう2度と、こんな事にならない様にと第1王子が決められた。

 王と王妃は俺達が王都を出る迄には意識が戻った。だが、かなり衰弱していたらしく、まだ療養中だそうだ。

 それからうちはちょっと大変だった。何しろ第3王子とエリアリア姉が婚約だ。しかも、王子はうちに婿養子にきてくれるらしい。

 晩餐会で、うちにくると言っていたのは、こういう意味だったのかよ。

 姉の事がなくても、王子はうちに来るつもりだったらしい。

 だが今迄幽閉されていたから、王子としての教育も始まるそうだ。それに姉が通っている学園にも通う事が決まった。

 王子は時間を掛けて、姉を口説き落とすつもりだったそうだ。でも、その必要もなくなった。

 姉も満更でもなかったんだな。早々に姉との婚約が決まった。

 それを公表しお披露目しなければならない。その準備で大忙しだ。

 ミリーさん達がまた張り切っている。


「殿下とお嬢様の衣装を作れるなんて!」


 と、感激していた。作ると言っても生地までなんだけどさ。それでも張り切って、俺には何か分からないけど模様が浮き出る生地を織っている。

 そのそばで、俺と咲と隆は姉のドレスに使うレースを編んでいる。母の注文が凝っていて3人で毎日せっせとレース編みだ。


「なあ、ココ。オヤツはまだか?」

「アウアウ」


 と、マイペースなのは霧島とノワだ。今回、霧島が1番の活躍だった。さすがドラゴンだ。

 霧島がいなかったら、あの魔族も倒せていたか分からない。


「だから俺は最強だって言ってんだろ?」


 はいはい。確かに最強だよ。俺があれだけ魔力を練らなくても、きっと霧島なら倒せただろうな。


「まあな。けど、あれはココの気持ちだろう? 俺には止められなかったよ」


 なんて、人っぽい事を言うドラゴンだ。


「アウゥ……」

「ノワだって大活躍だったわ」 

「アン!」


 もうノワはいつも通り小さくて可愛いノワに戻って、フリフリと尻尾を振っている。あの大きさになるのは、まだ時間が限られるらしい。ノワはまだ子供なんだ。


「甘いもの食べたいわね」

「オヤツもらってきますぅ」


 咲がピューッと走って行った。相変わらず速いな。


「お嬢、こんな感じでどうッスか?」


 隆が編んだレースを見せる。花の模様を編み込んだレースだ。


「うん、綺麗だわ。いい感じ」 


 俺が倒れた時、咲と隆はそばを離れなかったそうだ。咲がずっと泣いていた事は腫れた瞼で分かった。

 この2人は前世からの縁だ。前世、俺と一緒にいなかったらもっと長生きできたかも知れないのに。


「お嬢、離れるなんて考えられないッス」


 嬉しい事を言ってくれる。だから、今世は皆で一緒に歳をとるんだ。天寿を全うするんだ。

 咲や隆の子供と一緒に遊ぶんだ。


「お嬢もッスよ」

「そうね」


 姉貴達にも会えた。立派な侯爵家のご子息だったのは想定外だったけど。だって男なんだもんな。

 上の姉貴が婚姻する時には呼んでくれるらしい。

 もう子供を作る気満々だそうだ。


「子供は多い方がいい」


 なんて言って張り切っている。前世は女だったのに、よくあれだけ吹っ切れたものだよ。


「お嬢さまぁ、今日のオヤツはチーズケーキですぅ。レーズン入りですよぅ」

「美味しそう! みんなも休憩しましょう!」

「焼き立てですよぅ」


 平和で長閑な日常に戻った。俺達は焼き立てのチーズケーキを頬張る。フワフワで中がしっとりとしていて優しい甘さだ。底に入っているレーズンが美味い。

 皆、幸せそうな笑顔だ。

 今世は、誰にも何も奪われたくない。そんな気持ちになった騒動だった。


「ココ、うめーな!」

「アン!」


 アハハハ、霧島もノワも口の周りについてるぞ。

 この世界に転生して8歳で記憶が戻った。女児だった事には驚いたけど、取り敢えずそれにも慣れた。

 この先も今迄と同じ様に、みんなで領地を守っていく。今世こそは、みんなで天寿を全うするんだ。




 ◇◇◇


最後までお読みいただき有難うございます!

昨日、あと2話とお伝えしたのですが、1話だけでした。申し訳ありません!

次に何を投稿するのか…まだ、決めかねています。少しお待ち頂ければと思います。

ココちゃんを可愛がって頂き有難うございました!

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おてんば末っ子令嬢、実は前世若頭だった!? 〜皆で領地を守ります!〜 撫羽 @mocochan03

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