第247話 心配かけた

 夢を見たんだ。

 領地の屋敷で皆が笑顔だった。エリアリア姉もいた。じーちゃん達もいた。バルト兄の婚約者もいた。

 ただそれだけなんだけど、何故か幸せな気持ちになった。

 例の変な夢とは違う。心が温かくなる夢だった。

  

「……か! 若!」

「若さまぁ!」


 おいおい、若って呼んだらダメじゃないか。今はお嬢だよ。


「ヤマト」

「ヤマト!」


 ほら、姉貴達まで前世の名前を呼んでいる。

 俺はゆっくりと、重い瞼を持ち上げた。身体が動かない。辛うじて首を動かして声のする方を見る。


「気がついたか?」

「若」

「若さまぁぁ」


 咲と隆、従兄がいた。咲はずっと泣いていたのか目が腫れている。今もスモーキークォーツの瞳から、溢れ出た涙が頬を濡らしていく。


「ココ、無茶すんなって言っただろう」


 ああ、キリシマだ。助かったよ、ありがとう。


「ばか、何言ってんだ」

「アン」


 ああ、ノワだ。心配してんのか? ノワもよくやってくれたよ。


「アンアン」


 大丈夫だよ。心配すんな。

 従兄が顔に掛かった髪を撫で上げてくれる。優しい手だ。温かい。


「ヤマト、よくやった」

「ああ、よくやったよ」


 アハハハ、そうか? ありがとう。姉貴達に褒めらるなんて珍しい事だ。


「若……」

「若さまぁ……うえぇ~ん」


 咲、その態とらしい泣き方はやめろ。

 従兄の話によると、俺は丸1日意識が無かったらしい。

 あの場で魔族は倒したものの、俺も倒れてしまった。隆が俺をお姫様抱っこをして連れ帰ってくれたそうだ。

 父やユリシスじーちゃんが大騒ぎだったらしい。

 霧島が魔力の枯渇だから、寝たら大丈夫だと言ってくれたらしいけど、心配かけてしまった。

 まあ、霧島の魔力も貰ってあれだけの魔力を練ったんだ。そうなるよな。

 城はどうなったのかというと、半壊だ。あの魔族が現れた場所近くには勿論人もいた。

 だが、前日に解呪していた王と王妃は部屋を移されていたので無事だった。

 怪我人は多数出た。だが、死者はいなかった。それだけでも良かった。

 怪我なら魔法で治す事ができる。

 父やじーちゃん達も、吹き飛ばされた所為で怪我をしていた。

 だが、翌日もいつも通り鍛練をしていたらしい。怪我をした時位、休めばいいのに。

 それだけ元気なら大丈夫だろう。俺が元気になったら、念のため回復魔法を掛けておこう。


「ココ、お前が守ったんだ」


 霧島もだよ。あの時、霧島が魔力を分けてくれなかったら、こうはいかなかった。倒せたかどうかも分からない。


「何言ってんだ。俺は頼りになるドラゴンだって言っただろうよ」


 ああ、本当に頼りになるよ。


「クリスティー先生も心配していたぞ」


 ちょっと叱られるかもな。


「それはココのかーちゃんだ」


 ああ、母には叱られるだろうな。


「みんな心配してんだ」


 うん、分かってる。

 でも、今世は誰にも何も奪われたくなかったんだ。俺自身もだ。


「おう、全部守ったんだ」


 良かった。ホッとした安心感で自然に微笑みが出た。

 翌日、やっとベッドの上で起きられる様になった俺は、クリスティー先生に念話で話しかけた。


『クリスティー先生』

『ココ様! 無茶をして!』

『すみません。もう大丈夫です』

『心配しましたよ。勿論奥様もでっす』

『はい』

『魔王には、しっかり苦情を言っておきましたからね。城の再建費用を出してもらいまっす』

『あの魔族は何だったのですか?』

『魔族領を抜け出したお尋ね者でっす』

『ああ……』

『ココ様、よく頑張りましたね』

『クリスティー先生』

『はい、上出来でっす』

『アハハハ、ありがとうございます』

『お帰りをお待ちしてまっす。元気なお顔を見せて下さい』

『はいッ』


 こうして一連の精神干渉騒動は終わった。

 

「ココちゃん!」


 ああ、忘れてた。エリアリア姉だ。やって来るなり抱きつかれてしまった。


「なんて無茶をするのッ!」

「姉さま、もう大丈夫です」

「倒れたって聞いたわ」

「魔力を使い過ぎただけですよ」

「だけですじゃないわ! その場にあたしもいたら、そんな事はさせなかったわ!」

「姉さま、ありがとうございます」


 姉に抱き締められた。俺を抱き締めながら姉は小刻みに震えていた。ああ、こんなに心配してくれていたんだ。


「姉さま、ごめんなさい」

「もう、2度とこんな事をしたら駄目よ」

「はい」


 沢山の人に心配を掛けてしまった。沢山の人に心を掛けてもらっていたんだ。有難い。

 そうして城の再建工事も始まり、俺が普通に動ける様になった頃。


「さあ、帰るぞぉッ!」

「領地へ向けて出発だぁッ!」


 父とユリシスじーちゃんだ。張り切っている。いつも通りだ。

 俺達は馬車に揺られている。


「あれ? そう言えば殿下はどうなったんですか? うちの領地に来るとか言ってなかったっけ?」

「ああ、ココは知らなかったか。学園に通われることになったんだ。長期休暇には、エリアリアと一緒に領地へ来られるよ」

「え? 姉さまと?」

「ああ。エリアリアと」


 何だ? 含んだ言い方だな。ディオシスじーちゃんがそう言った。


「ココ、お前は気付いてなかったのかい?」

「ロディ兄さま、何をですか?」

「殿下とエリアリアだよ」

「えッ!?」

「お嬢はまだお子ちゃまッスから」

「はいぃ」

「え? どういう事?」

「だぁかぁらぁ、殿下とエリアリア様が婚約なさるんですぅ」

「えぇッ!? いつの間にぃ!?」


 マジだ。俺はびっくりした。本当、いつの間にそういう事になったんだ?

 王都に向かう時、俺達は襲撃された。その時に、エリアリア姉が王子を助けたんだ。

 その姉の勇ましい姿に、王子が一目惚れしたらしい。それってどうなんだ? 勇ましい姿にって、令嬢に使う言葉じゃないぞ。


「だって、見ていたら分かりますよぅ」


 マジかよ!? マジで、全然分からなかったぞ!




 ◇◇◇


お読みいただき有難うございます!

とうとう、明日2話投稿でラストになります。早かったですね〜。

実はこちらには、新作をと考えていたのですが、力及ばず。^^;

中途半端になるのも嫌なので、今あるお話を投稿していきます。

最新作のロロにするか、処女作にするか、まだ考え中です。もし、ご希望があれば教えて頂けると助かります!

ココちゃんは明日でラストです。最後まで読んで頂けると嬉しいです。

宜しくお願いします!

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