第246話 開放した

 何も知らない王都の住民達は大騒ぎだ。城を見ようと外に出てきている。

 そんな王都民達を、危険だからと衛兵達が駆け回っている。

 それを横目に見ながら俺達は走る。 

 城に到着して、俺達は目の前の光景に唖然とした。目を疑った。

 どうしてだ!? 確かに昨日倒した筈だった、あの魔族がそこにいたんだ。

 既に騎士団に取り囲まれていて、大きな体の尻尾を城の壊れた部分に乗せている。あの尻尾で壊したのだろう。

 そして、昨日は腰の部分にあった獣の様な骸骨が今日は3つに増えていた。口から霧の様な異様な何かを吐き出している。


「な、なんなんだぁッ!?」

「化け物ではないかぁッ!?」


 一緒に走ってきた、父とユリシスじーちゃんだ。


「ココ、これが昨日倒した筈の魔族か?」

「そうです」


 こんな時でもディオシスじーちゃんは冷静だ。だが、剣を握る手が白くなっている。それだけ力が入っているのだろう。緊張しているんだ。


「こんなのがいたのか!?」

「兄上、とんでもないですね」


 バルト兄と、これまた冷静なロディ兄だ。2人共、手にしっかりと剣を握りしめている。


「ココ、昨日よりデカイぞ」

「どうなってんだ!?」


 従兄2人も驚いている。従兄が言った様に昨日よりも比べ物にならない位に大きかった。高さは城の2階部分を優に超えている。

 こんな化け物に尻尾を叩きつけられたら、城が半壊するのも当然だろう。


「これが奴の本当の大きさなんだろう」

「キリシマ」

「しくったな。昨日楽に倒せた筈だ」

「楽じゃなかったわよ。必死だったわよ」

「それでもだ。クリスティー先生が、奴に心当たりがあると言っていただろう。そんだけの魔族なんだ」

「マジかよ……」


 その魔族の、本体の首がグリンと此方を向いた。


『昨日は少しチクッとしたぞ。今日は本気でやろうじゃないか』


 クソ、『少しチクッとした』だと!? あれだけ攻撃したのに少しなのかよ!


「いくぞぉーッ!」

「首を狙えぇッ!」

「アンアン!」


 父とユリシスじーちゃんが剣を振り上げながら走る。ノワが一緒に走って行く。


「父さま! お祖父さま! ノワ!」


 父達目掛けて尻尾が鞭の様に叩きつけられる。それを躱しながら父とじーちゃんは走る。その後に続くバルト兄。ノワがまた大きくなり尻尾に噛みついて押さえ込む。その尻尾を咲と隆が土属性魔法で押さえつける。


「アイスランス!」


 ロディ兄が大きな氷の槍を空中に幾つも出し、魔族目掛けて放った。

 だが腰に付いている骸骨が、口から何かを吐き出し叩き落とした。


「何あれ!?」

「俺が拘束するからその間に攻撃すんだ!」


 霧島がそう言うと、両手を魔族に向けた。すると、白い縄が現れ魔族の体を何重にも締め付ける。


「兄さま! 今です!」

「おう! アイスランス!」

「ホーリーアロー!」

「ウインドアロー」


 ロディ兄の氷の槍と、俺の光の矢、咲と隆の風の矢が魔族に向かって飛ぶ。


『アハハハ! 効かーん!』


 そう言うと魔族は霧島が拘束していた縄を、フンッと力を入れ弾き飛ばした。

 その勢いで、ロディ兄と俺の魔法も飛ばされてしまう。


「キャン!」

「ノワ!」


 尻尾に噛みついていたノワまで一緒に飛ばされてしまった。


「グルルルル!」


 それでもノワはまだやる気だ。父は大剣を、ユリシスじーちゃんは大薙刀を振りかぶる。そのままブンッと大きく振り風の刃を飛ばした。

 空気を震わせながら大きな刃が幾つも魔族に襲い掛かる。

 父とユリシスじーちゃんが、腰についている骸骨を狙って飛ばしたんだ。刃は骸骨を粉々に粉砕していく。

 今度はディオシスじーちゃんとバルト兄が、その根本目掛けて風の槍を飛ばす。


『グオォォ!』


 地の底から聞こえた様な呻き声を魔族があげた。怯んだところをノワが尻尾に噛みつき押さえ込む。


「ノワ! そのままだ!」

「アースバインド!」


 咲と隆も土の縄を出し拘束する。

 従兄2人が尻尾の根本から斬り落とした。


『グワァァァ!』


 呻き声をあげる魔族。なのに、直ぐに尻尾が再生している。


『効かんと言っておるだろう!』

「こいつ再生能力を持ってんのか!?」


 そのまま尻尾を振り回し、父達を噴き飛ばしてしまう。


「父さま! お祖父さま! ノワ!」

「ココォ! 構わず攻撃しろォー!!」

「ロディ! ココ! 首元を狙えッ!」


 バルト兄の指示が飛ぶ。ロディ兄と俺は氷の槍を飛ばしまくる。

 従兄2人もそれに加わる。やはり物理攻撃はあまり効きそうにない。このままだとジリ貧だ。

 俺は魔力を練り上げ始める。身体の中の魔力を集め、凝縮していく。


「ココ! 無茶すんな!」


 その魔力の大きさに霧島が声をあげる。

 どんどん魔力を集め、凝縮し練り上げていく。俺の周りに、地面から吹き上げる様に風が起こり俺の身体に纏っていく。

 服が靡き、髪が舞い上がる。それでも俺は魔力を練り続ける。


「ココ!」

「キリシマ、大丈夫よ。終わらせるわ」


 今までとは桁違いの魔力を練りあげる。

 少し離れたところにいる父達にも気配が分かる位に、周囲の空気がチリチリと肌を刺すように張り詰めていく。


「ココォッ!」


 ああ、父が叫んでいる。大丈夫だ。俺はこんなの許せないんだ。

 誰も失いたくないんだ。

 今世は何も理不尽に奪われたくないんだ!


「ココ! 俺の魔力も使え!」


 霧島が俺に触れる。すると、霧島の魔力が流れ込んでくる。

 魔族も本能で、とんでもないぞと勘付いたらしい。


『何をするつもりだ!?』


 何をするつもりだって? お前を消すに決まっているだろう!

 俺に手を伸ばそうとしてくるが、ロディ兄とディオシスじーちゃんが魔法でそれを阻止する。咲と隆がバインドで拘束する。

 俺と霧島の周りが、異様な光に包まれていく。そのまま俺は、上空に向かって両手を翳す。


「ココ!」

「おう! いっけーッ!!」


 俺の有りったけと、霧島の魔力を凝縮し練り上げた俺はそれを一気に放出した。その光は一瞬にして目を焼く様な輝きで一直線に上空に飛ぶ。

 俺の魔力に反応するかの様に雲がそこだけ丸く散っていく。そして次の瞬間、魔族目掛けて真っ白な閃光が一斉に天より降りしきり直撃した。

 轟音が鳴り響き、余りの光に視界が奪われる。無数の閃光に体を貫かれ焼き尽くされていく魔族。焦げた匂いが立ち込め、地面までも抉っていく。


『な、な、なんだ……それは……!』


 魔族が何かを言っている様な気がしたが、そのままドゴーンと地響きがして魔族が倒れた。体が消し炭になっていく。

 魔族が消し炭になるのを見届けて、俺は小さく息を吐き膝から崩れ落ちた。


「ココ!」

「キリシマ、ありがと」

「よくやった!」


 アハハハ、やっと温存していた力で役に立てたよ。

 父や兄、祖父、従兄達が皆悲壮な顔をして集まってくるのが見えた。


「若ッ!」

「若さまぁッ!」


 隆が俺を支えてくれたのが分かった。咲も近くにいる。安心だ。視界が揺れ、そのまま俺は意識を失ったんだ。


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