第245話 城が

 珍しく穏やかな夜だった。

 やっと落ち着いたんだ。

 第3王子の解毒から始まって、第1王子と第2王子の解呪、大聖堂の解呪、最後は王と王妃だ。

 まさか魔族が出てくるとは思わなかった。だって、魔族なんて存在自体を知らなかったんだ。

 ああ、よく生きていたよ俺。

 疲れたな。今日はもう眠ろう。


「ココ、寝たのか?」

「……」

「よく頑張ったよ。お疲れだったな」

「……」


 霧島が何か言ってた。でも俺は、直ぐに夢の中へと誘われたんだ。

 その夜、久しぶりにまた夢を見た。例のあの夢だ。


「何を言っている!?」

「辺境伯の尽力で解呪できたのだぞ!」

「辺境伯に救われたんだ!」


 なんだ? これは王子3人か? 何に向かって言っているんだ?

 王子達の前には宰相を中心に名立たる貴族達が並んでいた。


「お嬢さまぁ、お嬢さまぁ」

「……ん、サキ」

「朝ですよぅ」

「ん、起きる」

「はいぃ」


 また夢を見ていたよな。王と王妃を解呪して終わりなんじゃないのか?

 どうして、まだ俺達は糾弾されているんだ?


「お嬢さまぁ?」

「サキ、また夢を見たんだ」

「あの夢ですかぁ?」

「そう」

「解呪したのに、もう終わったんじゃないんですかぁ?」

「そうだよな。俺もそう思うんだけど」


 なんだろう? 夢見が悪いぞ。なんかモヤモヤするぞ。

 何か、見落としている事があるのか?


「ココ、クリスティー先生に聞いてみるか?」

「キリシマ、そう思う?」

「ああ。念のためだ」

「そうね」


 まあ、とにかく朝食だ。


「おう。腹減ったぞ」


 現金な奴だよ。


「ココ、おはよう」

「おはよう」

「おはようございます」


 朝食の時に俺は夢の話をした。今朝は従兄達もいる。のんびりとした朝だ。


「また夢か?」

「はい、ディオシスお祖父さま」

「夢とは何です?」


 従兄が聞いて来た。そうか、従兄達は知らなかったか。


「ココが変な夢を見るんだ。クリスティー先生が言うには、先読みの一種かも知れないらしい」

「先読みですか」

「もう全て解呪した筈だな」

「お祖父さま、そうなんですよ」


 そうなんだよ、だから余計に気持ち悪いんだ。


「ココ、クリスティー先生に相談してみるか?」

「それしかないですよね」


 じーちゃんもそう思うよな。俺もクリスティー先生しか思い浮かばなかった。

 朝食の後、俺は念話でクリスティー先生に声を掛けた。


『クリスティー先生』

『おや、はいはい。ココ様ですね。おはようございまっす。昨日はお疲れ様でした』


 相変わらず、飄々としたクリスティー先生だ。昨日報告した時にはクリスティー先生から『魔王』というとんでもワードが飛び出した。


『どうかされましたか?』

『クリスティー先生、実は……』


 俺は夢の話をした。もう全て終わったと、思っているんだけど違うのだろうか?

 まさかここにきて、またあの夢を見るなんてさ。何か見落としているのだろうか?


『あまり気にしない事でっす。確実にその夢で見た未来が来るとは、決まっていないのですから』

『でも、クリスティー先生。今まで変化してきた内容ですから』

『そうですね。そこは気になりますね』


 俺がクリスティー先生に相談していた頃、誰も気付かないところでまだ燻っていたんだ。そして力を取り戻そうとしていた。

 クリスティー先生が『また調べておきまっす』と言う事だったので、俺は自分の部屋で咲とドレスを仕舞ったりしていたんだ。

 その時、ズシンッと内臓に響く様な揺れを感じた。その後直ぐに何かが崩れる様な大きな音が響いたんだ。

 俺は咄嗟にテーブルにしがみついた。


「え? 地震?」

「お嬢、そのままッス」


 隆がじーちゃん達の元へ確認に走る。


「なんか変だな」

「キリシマ、何が?」

「ココ、お前感じねーか?」

「だから何をよ?」


 幸い揺れは、一瞬だったから屋敷の中は何かが壊れた訳でもなく皆無事だった。


「お嬢! 城っス」


 城? 城がどうしたっていうんだ?


「城が半分崩れてるッス!」

「なんだって!?」


 俺は慌てて屋敷の外に出た。城のある方角を見る。ここから全部が見える訳じゃない。高い城壁があるから、見えるのは城の屋根位だ。

 だが、それでも異変が分かる。土煙がたっている。確かに城が崩れているのだろうが、俺が気付いたのはそこではなかった。


「キリシマ、これって」

「おう、まだ死んでなかったんだな」

「お嬢?」

「リュウ、サキ、城に行くぞ!」

「お嬢!」

「はいぃ!」


 隆が言うには半分崩れているという。俺の目線の高さだとそれも確認する事はできない。

 だが、そんな事じゃないんだ。城から立ち上がる、背筋が凍る様な妖気とでも言うのだろうか。

 鑑定眼で見ると、黒いモヤモヤが城半分を覆っていたんだ。

 昨日、確かに倒したはずだった。

 ノワと霧島の攻撃で、体は真っ二つに切断され塵の様に消えていった。それをこの目で見たんだ。

 なのに、どうしてだ? どうしてまた、あの魔族の気配がするんだ?


「倒れてなかったんだ。消える振りをして逃げたんだ」

「だって真っ二つになったじゃない」

「ああ、そうなんだが。もしかして、物理だと仕留められないのかもしれないぞ」

「何? じゃあ魔法でってこと?」

「ああ」

「ココ!」

「アンアン!」


 従兄2人とノワが後を追って来た。その後ろには父やじーちゃん達もいる。


「姉貴! 昨日の魔族だ!」

「なんだと!?」


 俺達は城へと走る。ノワが俺に並走している。霧島はもう周りを気にせず普通に飛んでいる。

 やばい。この気配はやばいぞ。

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