第244話 従兄

「物語の様に攻めてきたりはしませんよ。ただ、魔族領の方から知能を持たない魔物は流れてきていますけどね。でも大した事ではありません。辺境伯領の皆さんはお強いですから」


 ニコッっとクリスティー先生が笑った。て、事は脳筋の父も知っていたのか?


「代々の辺境伯だけが知っていた秘密なのだッ!」


 じゃあ、ユリシスじーちゃんも知っていたんだ。うちの領って本当に要じゃん。


「ですので、フィルくんが辺境伯に滞在する事にも異存はないでしょう。王家の者も一緒に守るという大義になりますからね」


 ああ、もう満腹だ。豆大福で満腹なんじゃないぞ。

 そういえば、第3王子の姿がないな。


「今日から城に移られるんだ」

「今頃は、兄弟3人で話されているだろう」


 兄弟の仲がいいのは良い事だ。本当なら城にいるのが当たり前の人なんだ。

 姉が少し、つまらなそうな顔をしていた。その姉とアンジェリカ嬢も、学園の寮に戻らなければならない。

 姉達は着替えをする為に別室へと行った。そして、お疲れ様でしたと皆が解散し、俺も部屋に戻ってさっさと着替えた。

 そこに、従兄の2人がやってきた。


「ココ、いやヤマト。久しぶりだな」

「まさか令嬢になってるなんてな」

「いや、それは姉貴達もだよ。男じゃん」

「おう」

「いいのかよ。違和感はねーのかよ」

「アッサリと馴染んだな」

「婚約者もいるしな」


 そうだった。2人とも婚約者がいるんだ。それってどうよ?


「ラブラブだ」

「おう、可愛いくてな」

「えぇーッ!」


 本当にラブラブらしい。今回の件が無ければ、ルティオはさっさと婚姻していたと言う。

 女だった記憶があるのに。この適応能力は、一体どこからきているんだ? 元々男っぽいところはあったけども。


「ココも分かるさ」

「だな」

「いや、あの日姉貴達も襲撃を受けたのか?」


 そこが知りたかったんだ。

 俺達は、新作の絵本の出版記念パーティーに出た帰りを狙われた。同時に姉貴達もそうなんじゃないのか?


「あの日は、俺達も出かけていたんだ」

「そうそう」


 俺達が襲撃を受けたあの日、偶々姉貴達も打ち合わせや何やらで出かけていて、外で食事をして帰る途中だった。

 同じ様に、車で突っ込んで来られたそうだ。

 姉貴達は徒歩だ。逃げて躱して、それでも躱しきれずに、轢かれてしまったそうだ。前世の記憶はそこまでらしい。

 姉貴達も、咲と同じ8歳の鑑定式の時に前世を思い出したんだそうなんだ。


「だからヤマトが、襲撃をうけた事も知らなかった」

「でも、前世を思い出してから、色々気付く事があったんだ」

「若は自由だったッスから」

「はいぃ」

「あの文字の一覧表のイラストだよ。これはマジでヤマトだって確信を持った」

「絵本と同じイラストだったからな」


 俺の絵本は、ストーリーからイラストまで全部自分で考えて描いていたんだ。転生しても、俺が描くイラストは同じだったらしい。

 しかし、それなら組のみんなは? 親父と母さんはどうなんだ?


「それも分からない」

「家に着く前に襲われたからな」

「そっか」

「ヤマト、考えても仕方ないんだ。俺達だって前世を思い出してから色々考えたさ。俺達が一緒に転生してんのなら可能性はあるだろうってな」

「実際に探してもみたんだ。自分達の両親も疑った。でも、見つからなかった」

「そうなのか?」

「ああ。だから、親父達は無事だったと思う事にしたんだ」

「必ず転生するものじゃないだろうし、せめてそう思いたかったんだ。ヤマト、お前の事もだ」


 そうか。探したんだ。俺はそれさえもできていなかった。


「しかし、まさかサキとリュウも一緒だったなんてな」

「本当だ、それは驚いた」

「私達姉弟がお仕えするのは、若だけですからぁ」

「そうッス」


 本当にこの姉弟は、嬉しい事を言ってくれる。


「でも、嬉しいよ。こんな形だけど姉貴達に会えてさ」

「おう、ヤマトも元気そうで良かった」

「本当だ。可愛いご令嬢じゃないか」

「やめろよ」

「まさかこんな関係だとはな」

「計ったみたいじゃないか」


 本当だ。まさか従兄だとはな。神の差配か?

 それを言うなら咲と隆はもっと奇跡だ。転生しても俺に付いてくれているんだ。


「姉貴、お互い今世は長生きしような」

「アハハハ、本当だな」


 姉貴達が部屋に戻ってから、霧島がしんみりと言った。


「こんな事もあるんだな」

「姉貴達の事か?」

「おうよ。転生者ってのもココが初めてだったけどな、まさかサキやリュウだけでなくねーちゃん達もだろう。まだまだ俺の知らない事があるんだな」

「そりゃそうだろう」

「けど、良かったな」

「ああ」


 気になっていた事が1つ明らかになった。それに、姉貴達が言うように両親の事もそう考えることにしよう。この世界にいるとは限らない。まだあの世界で生きているかも知れない。

 考えても仕方ないのだろう。まだ、割り切るには時間が掛かるかも知れないけど。


「てか、キリシマ。なんで俺の部屋にいるんだよ」

「お? だって王子がいねーしな」

「そっか」

「おう」


 ま、いいか。霧島もよく守ってくれたよ。


「俺は頼りになるドラゴンだからな」

「それよりノワは?」

「ねーちゃん達に連れて行かれたぞ」


 ああ、それは仕方ない。なんせ下の姉貴は、ドッグトレーナーだったからな。


「犬じゃねーっての」

「アハハハ、そうだった」


 咲と隆は、姉貴達と一緒に部屋を出て行った。きっと4人で呑むんだろう。再会を祝して、とかさ。




 ◇◇◇


お読みいただき有難うございます!

今日は遅くなってしまいました。申し訳ありません!

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