ほぅ〜。読後そんな声が漏れてしまう。
なんとも大人の風情漂う趣のある短編です。
色街の片隅が舞台であり、15歳の頃からの顔馴染みでありますが、男女の関係にあらず。
そして10年経った今、男が女にとある話を持ちかける……。
作者さまのお書きになっている、キャッチコピー、あらすじにまさに凝縮された、秘めた胸の内。
それはまさに、爪の中に残りそして染まると落ちない、栗の渋皮の色を思い起こさせます。
そして実際に作中、焼栗を2人で食べるのですが……
女、ヤトがラストに手を握り締める描写に、これがまた胸が締め付けられて。そして、最初に渡した栗が熱かったのも、私には意味があるように思えたのです。
とある企画の1行を使うという、お題に則したこのお作品。その1行の使い方が凄いのなんの!
この小説の世界に馴染ませる、を通り越して、まるであつらえたかのように、あまりに生き生きと使われていてその巧みさに驚かされました。
焼き栗の如く、口に入れた瞬間に甘いわけもなく……噛み締めると滋味深く、湧き起こるその甘味に、もっともっとと思わず手を伸ばしてしまう、そんな味わい深い作品でございます。皆さんもご堪能あれ。
ここは色街───ドゥール=ベルテシア。
一室で、二十五歳の娼妓と、同じく、二十五歳の男が対峙している。
(あ、大丈夫。服は着てるよ!)
男の名前はキリエ。
娼妓張りに美しい顔立ち。
得体の知れない闇を感じさせる黒の瞳。
ふんとニヒルに笑う男。
彼は、娼妓をスカウトする「札引き」に齢15という異例の若さでなった。
めきめきと頭角を現し、「ドゥール=ベルテシアにその人有り」と言われるまでに登り詰めた名札引きである。
一方、女の名前はヤト。
彼女は、十年前にキリエから言われた、ある一言が、ずっと胸にひっかかっていた……。
色街の一室で、娼妓と、娼妓のスカウトが交わす言葉。
大人っぽく、あだっぽく。
ラストも、「なるほど」と思わせる……。
あ、これ、蜂蜜ひみつ様の「てんとれ祭」に参加作品でして、「てんとれないうらない」の詩を使用して、物語を綴るというもの。
それも、と〜っても効果的に使われています。
う〜ん、すごいなあ。
「フォーン帝国列世記」のスピンオフですが、未読の読者さまでも、すっと読めますよ。
おすすめですよ!
ぜひ、ご一読を!