31話「冷たい関係」
「いや~勝てた勝てた!おまけに新必殺技のイメージも掴めたし、これで賞金ゲットは確定だ!」
それはもう服とは呼べない程の布面積となったボロボロな黒色のシャツを着ている少年髪色が茶色寄りで短く少しツンツンして逆立っている髪型をしている輪道新太が通路を歩いていた。
新太はイニグランベ国が開催した大会に参加して、この先の旅費を稼ぐために入賞を目指して戦っていた。
しかし先程のケイシーはとの戦いに勝利したことで一先ず目標は達成することは出来た。これにより2位は確定している。
「あーあ。もう服が服とは呼べない何かになったよ。おまけに中に巻いてた包帯もボロボロだ」
流石にこの後の戦いを上裸で臨むのは流石に気が引ける。「うーん」と唸っていると先から自身を呼びかけてくる声に気付く。
「おーい!アラター!」
元気な声で向こうから近づいてくるのは短いデニムパンツを身につけ、紺色の上着を羽織って黄色のカチューシャを身に付けた藍色髪をしたリオという少女だった。
そのまま勢いよく走ってくるリオに合わせて、新太は両手を上げてリオとハイタッチを「イエーイ!」と明るく交わす。そして新太はリオからの脳天チョップを喰らわされる。
「あ痛ってえっ!?何でぇ!」
「何で、じゃない!いくら大会での戦闘であってもあの戦い方してたら命が危ないでしょ!」
「いや~アレは相手の魔力を感知するために取った行動なので…決して危ない行動という訳では」
「意味があったとしても命に関わるのなら、友達として注意するのは当然でしょ」
正論を言われてしまっては何も言い返せない新太は静かに正座の形から、深々と頭を下げて土下座をする。
「お疲れ様。アラタ」
リオとは別の声が通路に響き渡る。フードを深く被り顔が見えづらいが、可愛らしい容姿をしていて首までかかったピンク色の髪、そして頭部から獣耳が生えた中性的なカランという人物。
「フッフッフッ。どうだカランお前が出した条件をクリア出来たぞ!」
新太とカランの間には交わされた約束があった。それは相手からの攻撃を10回以内で倒すという条件があった。
新太が達成できればカランに何でも一つ言う事を聞かせられる。達成出来なければ、今後カランの言う通りの戦い方をしなければならない。という物だった。
「さあ!約束は守ってもらうぞぉ。カラ~ン君」
くねくねと気持ち悪い動きを見せながらカランに指をさしている新太を見ているカランはムスっとした表情で睨みつける。
「それで?君は僕に何を命令させる気なんだ?」
「ん~そうだなあ…じゃあさカラン。飯と服買ってくれない?」
「……え。それだけ?」
辱められる様な命令が来るのかと心を構えていたのだが、拍子抜けした命令だったために一瞬反応が遅れた。
「俺さ。動きすぎてもう腹減っちゃっててさ~そろそろ何か食いたいんだよ。あと着てる服が服とは呼べない何かになっちゃってるし…だから買ってくんね?」
「…ホントにそれでいいんだね?」
「どうしたのアラタ?疲れすぎて頭おかしくなったの?」
「どういう意味だコラァ?」
「僕はそれでいいけどさ。君はもっと欲張った方が良いよ」
「あ~まあ。だってさ…カランは今後のことを見越してあんな約束を持ち掛けたんだろ?俺がこの先潰されない様に、相手の魔力を感知させるという方法を身に着けさせる為にさ」
「とりあえずその点に気付くことが出来たんだね。でもアラタの感知の仕方は何か違った…アレは何?」
「……その話は飯を食いながら話す!とりあえず飯と服お願いしまーす!」
ぴゅーん!と新太は逃げる様に走り去って行く。リオが手を伸ばして捕まえようとしたがギリギリの距離で逃げられてしまう。
「ちょっ!待ちなさいよっー!」
「多分アレ自分でもよく分かってない状態だろうね」
「別の世界から来た人ってあんな感じなのかしら?それにしてもカラン。アンタは何であの条件を出したのか教えて欲しいんだけど」
「まあ、昔。馬鹿(アラタ)と似たような人を知っているんだよ。僕はその人がこの先どうなったのかを知っている…だからアイツにこの約束を取り付けた。ただそれだけの事だよ」
「ねえ…その人は――。」
スッとカランは手をリオに差し出す。するとその手の中には硬貨が握りしめられていた。
「とりあえずこれでアラタの服を買ってきて。僕はアイツのご飯を買ってくるから」
「はいはい。分かりましたよ。でも嫌そうな表情でお金を渡すのを辞めて?」
「だって…これ以上使いたくないんだよ…」
目元を手で覆い隠すカランを見たリオはこれ以上何も言えなかった――。
「さーてと。とりあえず観客席に行って…あ。そのあとアイツらどう合流しようか考えてなかった…急いで戻るか」
踵を返して速足で今来た通路に向かう矢先に曲がり角から人の体が見え始めていた。慌てて新太は脚を止めて急ブレーキを掛けるが勢いに負けて前のめりに倒れ込む。
「ぎゃん!?」
「…なんだ。新太か」
その声を聞いた途端。心臓が一瞬跳ね上がる様な感覚を味わった。下に向けていた顔を上げていくと、見知った姿が視界に入り込む。
短めの黒髪ツーブロック寄りの髪型。白色を基調をした身動きが取りやすそうな武装に背中には赤色のマントを取り付けて腰元には細くて長い青白く光る剣を携えた少年。転堂裕樹が新太を見下ろしていた。
しかし裕樹は新太と会話をすることなく通り過ぎようと歩き出す。
「待てよ!裕樹…俺はここまで来たぞ」
「そうだね。だけどまだ約束は果せていない。次僕が勝てば戦うことになる…それに君の戦い方は本当に酷いね」
「あぁ?」
「武器が扱えないからって暴力染みた戦いで相手を倒す。そんな君に着いていく仲間可哀そうだと思うよ」
「やけに沢山見てくれてるな。特等席で応援でもしてくれたのかよ?」
「ここまで勝ち進めた人達に用意されている部屋で見てたよ。今から新太もこのあとの試合を見るんだろう?」
勝ち進めた人?用意された部屋?そんなことを何も聞かされていない新太は別の冷や汗が出てくるが、この神妙な空気を崩すのは負けてしまう気がしてならない。
冷静に事を対処しこの場を乗り切るという作戦に切り替える新太の脳内は1秒にも満たなかった。
「ああ。お前が俺の戦いにどうこう言うのなら見せてくれよ。それに言っておいてやるよ。この戦い方になったのは友達が一緒に考えてくれた結果だ。俺が今後ともこの戦法は辞める気はない」
「そうか。じゃあ僕が次勝ったら、どっちが強いか白黒はっきり付けようか」
「俺はどっちでもいいさ。ただお前の次の相手は強い人だった…多分気を抜いたら俺もお前も負ける相手だと思うぞ」
その言葉を最後にこれ以上新太と裕樹が会話をすることなく、一体どこで道を踏み間違えたのか分からないまま別れていく。
裕樹が言っていた用意された部屋という場所を探しに向かう。もしかするとこちらからアナウンスすれば集合地点になるかもしれないし、選手の立場からなら部屋に入れても問題はないはずだ。
それなら急いで階段を上って観客席に近いフロアに移動する。
(騎士の人…騎士の人は?とにかく位が高そうな人は…)
キョロキョロと辺りを見渡していると、馬を模した兜を装備した兵士が嫌でも目に入った。明らかに装備が他とは違うのと胸元には王国のエンブレムがしっかり着いていた。
「すんませーん。まだ勝ち進めている人に専用の部屋があるって聞いたんですけど」
「貴様は確か、リンドウ・アラタ選手か。簡潔に言おう…私が何故そのことについて言わねばならんのだ?」
(えー!別に良いだろ…教えてくれるぐらい)
「……これは申し訳ない。貴方様程のお強い人に聞けば、この私奴の些細な願い事を叶えてくれるとお思いでした」
片膝を地面に着けて馬を模した兜を装備した兵士に頭を下げる。その姿を見ている兵士は小さく「ほぅ」と感心していた。
「ですが!私には過ぎた行動でした。ぇーと…これ以上優美な貴方様のお時間を頂くのは申し訳ない…私はこれにて!」
頭に浮かんだ敬語や尊敬語などを並べて面倒くさい相手を掻い潜ろうとしたのだが――。
「貴公。中々分かっているではないか。この私を『優美』という言葉で表すのは間違えてはいない」
(あ、なんか変なスイッチ入ったな。これはチャンスなのでは?)
「ええ。貴方の隠し切れないこの雰囲気。見てわかるのではなく、空気で分かります。そんな騎士様に聞けば人々を導き続ければ、その優美さを国王も理解していただけるかと」
「なるほど。貴公の言葉には説得力があるな…」
(いやそんなものはねえ)
「特別に教えてやろう。この大会に勝ち残った4人はそれぞれ北、南、東、西に専用の部屋が用意されている。確かアラタ?だったかな?君は西にその部屋がある」
「西側にあんのか…それと騎士様っ!もう一つだけお願いを聞いてはいただけませんか?」
「む?なんだ?」
「アナウンスで呼んで欲しい人がいるんです」
悪びれる様子すらもなく図々しく願いを騎士に伝える――。
「それでアナウンスで呼んでもらったのは助かったけどさ…君は何をしてるの?」
西の特等席に呼ばれたカランは高級そうなバスローブを着て、片手に水が入ったワイングラスを持って格好つけている新太が椅子に座っていた。
「え?いや何か置いてあったし…体汚れてたし…ちょっとセレブな気分を味わいたくて」
「そうか。その気分は二度と味わえることは無いだろうから、しっかり味わっておくといいよ」
「おい勝手に諦めさせんなよ。諦めたらそこで試合終了だっておじさんから教わっただろ」
「聞いたこともないし、知らないなあそんなおじさんは!」
そう言って何かが入った袋を投げつけられた新太は落とさないようにしっかりキャッチする。その中身は干し肉が串に刺された食べ物が10本程入っていた。
「おお!サンキューなカラン。うん…ふぇきだでから美味えな」
「それでケイシーと戦っていた時に見せたアレはなんだったんだい?」
「…やっぱ気になりますぅ?」
「それは、まあね」
「んー断言して言えるわけじゃないけど。俺が危険に晒されると発動する技とかかなって思ってた。でも逆だった」
「逆?」
「発動条件を満たすためには相手が俺に攻撃的な感情?意思とかかな?向けられてくる『何か』が未来予知を起こすんだと思うんだけど…まあボチボチ調べていくしかないか~」
「……」
「まあその分デメリットとして、相手からの攻撃はちゃんと痛みとして俺の体に通ることだから、ハイリスクハイリターンな技だな」
(それだけなんだろうか?疑似的な未来予知を起こすなんて今のアラタには無理だ。今までの戦いと見ていた立場からしても不可解な点が多すぎる)
「んぉ?ふぉろふぉろ始まるみたいだぞ」
食べながら大きな窓から闘技場を観戦し始める。その内両者が闘技場に入場し始める。短めの黒髪ツーブロック寄りの髪型の少年転堂裕樹ともう一人は大きな体格にゴツゴツとした鎧を着ており、金色の長い髪が風で靡かれ、青い透き通る瞳が開かれる。ドリオンという美青年な男。
その準決勝2人が今並び始める。
「あ、そういえば俺。他の人が戦っているのを見るのは初めてかも」
「それならしっかり見ることだね。同格の相手の動きと技術は盗んだって罰は当たらない」
どちらが勝っても最悪な勝負になるのは明白。ならば今のうちに付け入る隙とどんな戦法を使ってくるのかも見なければならない。
(意識せずに観てたら駄目だ…しっかり見届けるんだ!)
「まあ予想はしていたが、君とは戦うことになると思っていた。だがそれと同時に戦うのは今ではないとも思っている」
「そうですか。勝者になり続ければ戦うことになるには必然でしょう」
腰元に携えている細くて長い青白く光る剣に手を添えながら睨みつける裕樹。しかしその視線に臆することなく堂々と立つドリオン。
(…しかしこの少年はどこか焦っているようにも見える)
ドリオンは目の前に立つ相手の目を視つつ体の重心を落として構える。闘技場に立つ両者を確認し、立ち上がった国王の指先からは金色に光る魔力が出現し、その光球が空に向かって放たれる。
「ハアッ!!」
剣を引き抜いた裕樹は剣から魔力を放出し、その斬撃がドリオンに向かって襲い掛かる。ドリオンはその攻撃を回避したが、放たれたあとの光景を目の当たりにすると焦りを見せる。
飛ばされた斬撃の跡は裕樹が立っていた位置から闘技場が跡形もなく破壊され、半分程の面積が破壊された。
(何という破壊力…!神代器か?)
「今までの試合でその破壊力を見せたのは初めてだな。手を抜いて戦っていたのかな?」
「そうじゃないですよ。ただここまで勝ち上がってきた人に対して警戒する。この後の試合のために勝たなくてはいけないこと。その為に僕は一撃で終わらせるつもりで放ちました」
「そうか。なら私もこの後の試合の為に全力で戦おう」
そう言ってドリオンは身に付けている上半身の鎧を外し、黒のインナーシャツ姿になる。
「光よ命令する。我に在りし力を使い、この身に立ち向かう力を授けよ」
『
その技は以前助けられたことがあることがある。新太は勝手に思い込んでいた…あの人が使う技はどれもこれも特別な物だと思っていた。
でもそれは違っていた。どんな人であっても強くあろうとする者は苦手な物でも取り組んだ上で今の自分があるのだと思い知らせる。
(あの技の効果は一度体験した俺も知っている!その効果は――。)
裕樹が瞬きをして目が開かれるとドリオンの姿は、自身の真横に位置取っていた。その後反応することが出来ず、顔に一撃を打ち込まれる。
(身体能力の向上…速さと威力は俺以上だ!)
闘技場が半壊しているのもあって、吹き飛ばされた裕樹は外に落ちてしまう。視界が揺れ、頭を必死に抑える。
「…くっ!」
カウントが進む前に闘技場内に戻り、ドリオンを睨みつける。互いに戦う姿勢を取ると再び戦いは始まりだす。
ドリオンは裕樹の前に一瞬で近づき、左拳で正拳突きを放つ。しかし裕樹は寸前で回避が間に合うと、剣に魔力を込めて斜め下から上に斬り上げる。
攻撃のタイミングを合わせ上体を反らして躱したドリオンは裕樹に向かって足払い攻撃を喰らわせ宙に浮かせたタイミングで裕樹の腹部に蹴りを入れ込む。
「光よ命令する。我に在りし力を使い、光を集約させ目の前の敵に輝きという名の罰を!」
『
ドリオンが吹き飛ばされた裕樹に向かって詠唱をし始める。魔力が天に向かって消えると光の柱が一瞬裕樹に命中すると「ズドオォォォッ!!」と衝撃が響き渡る。
だが。キンッ――!と甲高い音が一瞬鳴り響くと光の柱は破壊され、その中に居た裕樹は立っていた。
(ダメージ無し…?無効化の能力。しかし答えを出すのは早計だな)
顔色一つ変えずドリオンは次の一手を繰り出そうとする。
臆することなく裕樹に接近し連続でパンチを放つ。裕樹は片腕に魔力を集めて防御するが全てを防げる訳ではなく数発は攻撃を喰らってしまう。
攻め続けられるとマズイと思った裕樹は剣に魔力を込め始めるが、それを読んでいたのかドリオンは剣を持っていた左腕に掌底を当てると軌道を逸らせ斬撃を外させる。
(あの人…戦いに手練れているな。ヒロキの魔力にしっかりと感知していた。もしドリオンが勝ったらアラタとの戦いの相性は最悪になるね――。ん?)
観察していたカランは再び闘技場に視線を向き直すと、ドリオンが片膝を着いていた。
「なあカラン!ドリオンは何かされたか?」
カランは沈黙を続ける。これは決して無視をしている訳ではない…彼自身も何が起こったのか分からないため黙っているのだ。
そして受けた当の本人も焦りと事態の究明を急ごうと奮起していた。
(彼は…一体何を!?む――。)
特に目立った外傷は見当たらないが、体に異変を感じ取ったドリオンは両腕に視線を落とす。すると自身に身に纏っていた魔力が無くなっていたのだ。
(魔法が消されている――!そして体の内側から何かが破壊されていく感覚は!)
消された魔法に原因不明のダメージ。
ドリオンに不吉な影が迫りくる――。
ソヴァール・ハンド 〜装備が出来ない俺の異世界生活がハードモードな件〜 オオモリユウスケ @oomoriyusuke
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