30話「七色に輝く剣」
歓声が沸き上がるこのイニグランベ国の闘技場の中、ボロボロな黒色のシャツが一際目立つ服装をした少年輪道新太が片膝を地面に着けて中央に座っていた。
そんな新太に相対しているのは欧米人のような雰囲気があり、グレー色がかったハイライトカラーでショートヘアの大人びたケイシーという女性で、羽の飾りが付いたハット方の帽子に黄色の貴族の様な衣装を身に纏っており、両手には2刀の剣を携えている
(さーてといきなり攻撃を喰らっちまった訳だが…まだ9回分だけ残っている。それまでにこいつを倒す!)
新太の言っている『残り9回』というのは、カランという新太の仲間との間に交わした約束で、相手からの攻撃を10回以内で倒せば課題クリアとなる。
新太が達成できれば、カランに何でも一つ言う事を聞かせられる。達成できなければ新太は今後カランの言っている戦い方に矯正されてしまう。
(魔法とか戦闘面とかでアイツ(カラン)に負けていてもいい。でも意地だけは負けたくない…)
そして新太はゆっくりとケイシーに向かって歩き出す。ここで自分はちゃんと強くなっていると、心配なんかすんな。とこの戦いで正銘してみせる。
意気込む新太は風の魔力で大きく飛び上がり、右拳に魔力を込めてケイシーに向かって振り下ろす。しかし拳の先にはケイシーは居なかった。
(また消えた!?どっから――。)
ケイシーはいつの間にか新太の背後に回っており、かかと落としを新太目掛け放たれる。直ぐに振り返り両腕を交差して受け止める。
(重くは、ない!こいつの気を付ける点は剣を利用した攻撃!)
ケイシーは回転しながら斬りかかってきたため、両手から風を噴射して距離を離す。だが油断はしてはならない。ケイシーはどこからともなく襲い掛かってくる相手だということを忘れず警戒を怠らないように心がける。
「こない、か…」
(多分奴の魔法ではなく、持っている武器の魔道具で瞬間移動が出来ていると視ていいかもな。奴も俺と同じ召喚された人だから、余程才能に恵まれていなければ強力な魔法を扱うことは無いはず)
剣を上に投げてはキャッチしての繰り返しをして新太の様子を伺っていた。余程余裕なのか表情は柔らかく笑みを見せている。
「アイツ~笑ってやがる!」
しかし攻めようとしても逆に返り討ちに遭う可能性が高い。時間は掛かってしまうがこちらからは隙を伺うスタイルで戦うで行こうと決意を固める。
「君が攻めてこないなら、こっちが動くしかないじゃない?」
2刀の剣を前に突き出すと赤く発光し始めると、剣の周りから炎が出現する。
『フレイム・ダンサー!!』
「なあ!?」
7つの炎が地面の上を跳ねながら新太に迫っていく。動かないままではマズイと思った新太は交差してくる炎の上を風の魔力で勢いよく飛び超える。
そしてこのまま一気に距離を詰めつつ周囲に気を配りながらケイシーに向かっていく。だが新太の背後から熱を感じ始め、視線を後ろに向けると先程飛び越えて避けた炎が追尾してきていたのだ。
「着いてくるのかコレ!」
両手を下に向けて風を噴射して背後から迫る炎を飛んで避けるのだが、ケイシーとの間に距離が生まれてしまう。
(ん?アイツが居ない!どこ行った――)
ドガッッ!!と新太の左頬に蹴りが入り、倒れこんでしまう。それで終われば良かったのだが、炎の追手は終わらない。
「くっそおおおおおおっっ!!」
急いで飛び起きると、闘技場の床に敷かれている石板を魔力と力を精一杯ひっくり返して炎達を圧し潰すと、石板はガラス片みたく粉々になる。
「はあ…はあ。残り8回か」
「ん?何のカウント?」
「気にしないでいいさ。アンタを倒すことに関しては関係ないから」
「言うねえ!」
(アイツ、意外にも魔法を…多分アレも魔道具によって引き出される魔法か。炎以外にも別の属性があるかもしれないし、属性の方に意識が行けば瞬間移動で殺られる)
遠距離戦も近距離戦もこなせる相手ともなるとやはり相性が悪い。さあどうしたものか…と悩んでいるとまたしてもケイシーが動きを見せる。
今度は2刀の剣が青色に発光し始めると刀身に水が纏わり付き始め、その2刀の剣を地面に勢いよく突き刺す。
『アクア・タワー!!』
ケイシーが技名を叫ぶと新太の立っている足元が揺れ始める。「何かが来る!」と感じ取り風を噴射しその場から離れると、下から勢いよく水が湧き出る。
石板が水の勢いで吹っ飛ばされるのと同時に粉々に壊されるの見て、打ち上げられてしまえばどこかの身体の部位は危険な状態になってしまうだろう。
そして次々と足元からケイシーの『アクア・タワー』が湧き始めようとしている。新太はその場に居続けない且つケイシーの瞬間移動を警戒しながら避ける。
(来るなら来い!アンタならこの好機を逃さないだろ!)
どのタイミングで来てもいいように、右拳に魔力を込めてカウンターの体勢に入れるように立ち回る。
だがケイシーは技を放った場所から動くことなくその場に座っている。闘技場の床が水浸しになった途端、橙色に発光した2刀の剣を前に交差して構えるとケイシーの足元から橙色の大岩が出現し、空中に浮かび上がっていく。
(う、浮いてる!?一体何を…)
目を細めて光る剣先を注視する。今度の色は黄色に発光して刀身にはビリビリと雷が発生していた。
(雷…!まさか…)
水浸しになった闘技場に、上空に逃げた相手。そして手に持っているのは雷を発生させている剣。考えられる答えはもう出ていた。
「うおらぁ!!」
直ぐに右拳で地面を殴ると新太の周辺の床は凹んだ穴となり、新太周辺の水浸しになった床は無くなった。
「おおおおぉぉらああああっ!!」
新太はその後に破壊した自分と同じ大きさの瓦礫となった石板を持って、身体全身に魔力を纏って手に持った石板をケイシーに向かって投げつける。
「はあ!?」
ケイシーを乗せていた橙色の岩が石板とぶつかり合い、両方は破壊される。しかし上に乗っていたケイシーの姿は見えず、どこかに消えていた。
(危なかった…あの子どんな怪力してるのよ!?)
ケイシーは先程から見せていた瞬間移動で下に移動していた。不発に終わってしまった雷は静かに消えて剣を構えなおすが、新太の姿が見えなくなっていた。
「どこに――」
視線を動かすと視界の端から迫ってくる影を捉えた。向き直して迎撃しようとしたが、新太の足が目の前にありケイシーは新太の飛び蹴りを喰らってしまう。
「はあ…はあ…やっと一発当てれた」
しなやかな動きでケイシーは立ち上がるのを見た新太は、左手を後ろに右手を前に出して構える。
(相手の動きを見てからじゃあ駄目だ。剣が光ってからこっちが行動しても不利になる!)
しかし自分には何かがあるでもない。出来ることがあるのならば体を動かして相手に近づいて攻撃するしかない。
それでも今この状況で何かが変えられるのなら、この世界に来て身に付けた力でこの現状を変えるしかない。
(いまならカランが避けることを徹底して戦えと言っていた意味が分かった気がする…相手の動きを常に先読みし続ける力を鍛えたかったんだ)
「力が凄くても、触れたらダメージがある物ならどうなのかしらっ!」
次に剣が光った色は青色でケイシーの真上に2つの水の球体が出現し、その水の球体が回転し始める。
そこにケイシーの剣が今度は緑色に光ると風が巻き起こっていく。そして風が水の球体を包み込んでしまうと形が変形し、水が丸ノコギリの様な形になり「キィーーーン!!」と高い音を発して物凄い速さで回転している。
その大きさはおおよそ2m程の円形の水の丸ノコ。
「2つの属性を合わせることも出来んのかよ…!」
「さあ、即興で創った技だから威力はどれくらいっかな!」
勢いを増しながら水の丸ノコは新太に斬りかかってくる。もう一度石板をひっくり返そうとしたが威力を考慮しても負けるのはこちらの防御手段だ。
転がって一つの水は避けれたが、2つ目はもう目の前に来ている。全力の防御魔力で受け止めようとするが、冷静に物事を判断した新太は片手を下に向けて風を出して飛んで上空に退避する。
飛んだ状態で体勢を整えて、足が地面が着地すると凹んだ床に気を付けながらケイシーに向かって走り出す。そして躱した水の丸ノコを見ると大きく円を描きながら左右から迫って来ていた。
(剣は緑色に光っている…あの瞬間移動は無い筈だ)
ケイシーに近づく前に水が左右からほぼ同時に迫って来ていた。一つは下半身を狙ってもう一つは上半身を狙って近づいて来ている。恐らく飛んで回避をさせない様に仕掛けてきたのだろう。
(それなら一気に前に詰めて…ん?)
前方に剣を構えているケイシーの剣を見てみると先程まで緑色に光っていた剣が色を失くし、黄色に光ろうとしていた。
新太はそれを見た瞬間斜め下に向けて風を噴射してバック宙みたいに後ろに飛んで避ける。攻撃してきた水は地面を削りながら闘技場の外に落ちるが、直ぐに回転数が上がっていき新太の元に飛んでくる。
(クソッ。前に突っ込んできたら雷を撃ち込めたのに!)
ケイシーは苛立ちを孕みながら攻撃を続ける。剣先は青色に光り、水が再び動き始めた。今度はほぼ同時ではなく連続で相手を常に動かし続けるように新太に狙いを定める。
(攻撃の攻め方が変わった!?)
水の丸ノコは常に新たに付きまとう様に円を描きながら迫ってくる。その動きは新太をケイシーから離すために攻めている。そして剣が緑色に光り始めると再び「キィーーーン!!」と音を立て始める。
新太を浮かばせては、2つ目の水の丸ノコが新太が地面に着地地点に攻撃を仕掛ける。動きがどんどんと精度が上がっていっているのがヒシヒシと伝わっていくのが分かる。
(先読みをして攻撃をするってやる事は分かってんのに、それが出来ない!)
水の攻撃が新太の頬を掠めるとそれをきっかけに攻撃がより一層激しくなる。それに水の鋭さを増して床を削りながら迫る。
躱しきれない新太は魔力を左拳に纏って受け止めるのだが――。
「ぐああああっっ!!」
耐えきれずに新太の左拳からは血が流れてこのままではマズイと感じた新太は、歯を食いしばりながら受け流して軌道を逸らす。
(ぐ、掠ったやつも含めてあと6回か?なんかどんどん攻撃がより正確になってきている気がする!?)
背後から迫る水の丸ノコが間髪入れずに迫ってくるが、新太は上体を反らして攻撃を躱して直ぐにその場から離れる。しかし近くにケイシーが来ており新太目掛けて蹴りを入れ込むが、その攻撃は右腕で受け止めることは出来たのだが闘技場の外に落ちてしまう。
闘技場の外に落ちてしまったことでカウントが始まる。
(なんでだ?さっきまで大雑把な攻撃だったのに精度がどんどん上がってきている。これも魔道具のおかげ?でもさっき即興で創ったって言ってた…そんなに即席の魔法を操作するのに上手く行く事なのか?)
相手も自分と同じこの世界に呼ばれた召喚者。それが出来れば才能と呼ばれるものなのだろう。
(待てよ?あの魔法は自分の意思で動かしてるよな…あの人が乗せてくれた魔法でも自分で動かしていた…)
「7…8…」
カウントが進んでいる中静かに闘技場内に戻る新太。その際に戻ってくる時の新太の表情は決意に満ち溢れていた。
「魔法を動かす時にも魔力が要る。それを感じ取れることが出来たら…」
だが新太に魔力を感じ取る修行では上手くいかなかった。それは単純に苦手だったのだ。新太はどうにも魔力面に関することは他の人よりも成長が遅い。
感じ取れるためにはどうするのか。未熟な新太が取った行動は――。
体の外に魔力を放出し続ける。という自殺行為に等しい行動だった。
そんな新太の取った行動を見ているケイシーはしっかりと理解していた。身を護るために必要な防御魔力を完全に捨てている。そして攻撃魔力を纏っている範囲が必要以上に広い。
(私にでも分かる…完全に防御を捨てている!いくら自分の体の頑丈さに自身があっても致命傷なのは確実な筈!?何を…する気…?)
ケイシーは警戒しながら水の丸ノコを左右に一つずつ向かわせる。
(この選択が吉と出るか凶と出るか!)
新太はその場で2つの水を掻い潜り始める。ギリギリの間合いで回避しているつもりでも、常に魔力を外に出し続けているため体が斬られている感覚に陥る。
それと同時にやってくるのが――。
「ハァ…ア゛ァ!」
疲労感が襲ってくる。様々な戦いで襲ってくる疲労感にはある程度耐性はあると思っていたが、やはりそんなことはなかった。
(感じ取れ!速く!相手の魔法ではなく、魔力を!)
気が遠くなりそうな意識を必死に引き戻し、より自身の魔力を出す範囲を広げる。
一つ水の丸ノコを飛び越えて避けた時、新太が出す魔力で少し何かを感じ取った。だが正確に言えば何かが身体に引っかかった様な感覚だった。
(そういう…ことか。コイツの魔力の流れ!)
肌で感じ取った相手の魔力は、ヨーヨーの様に細長い糸と水の丸ノコが繋がっていた。この細長い管が魔力の供給源の役割を担っていたのだ。
(こんな形で魔力が流れているのか…)
しかし安心するのはまだ早い。あとはこの魔力の流れをどうやって感じ取るのかが重要だ。気合いを入れて足を踏み込もうとした瞬間、ガクンと態勢が崩れ落ちる。
(やっ…ば…!)
短い間だったが魔力を外に放出し続けていたため、身体が疲労感に耐えきれなくなったのだと新太は瞬間で理解した。
(躓いた?けどこれはチャンス…確実に!)
ケイシーの持つ剣が青色に光ると、先程まで2つだった水の丸ノコが4つに増える。しかしその大きさは半分程の大きさになる。
「おお、おおおおおっ!!」
声を出して手に風の魔力を集めようとした。その瞬間だった。
背中や両腕が斬られる様な感触が襲ってくる。しかし自身の体には傷は入っていない。この現象は一度経験している新太の脳内は直ぐに体を動かしていた。
「ギイィィィィン!!」「ズガアァァァァン!!」と斬り壊す音を立てながら4つの水の丸ノコはしゃがみ込んでいる新太に襲い掛かる。
破壊された箇所から煙が舞い上がり新太の姿は完全に見えなくなる。
(当たった?でも最後に見えた、あの避けようとした動き…)
考えたくはないが消えない不安感が残り続ける。ダメ押しにもう一撃剣から雷を出現させようと動きを見せた瞬間、煙の中から瓦礫がケイシーに向かって迫ってくる。
「なっ!?」
近づいてくる瓦礫を雷で撃ち落とすと、投げつけられてきた煙の方に視線を向ける。煙が晴れて次第に姿が現されそうになるのだが――。
その中に新太の姿はいなかった。
(何処に――。)
姿を見えた瞬間、敵意を剥き出しにした新太がもう真横に立って拳を前に突き出そうとしている。
その新太の右拳がケイシーに迫ってくる短い中、左腕に防御魔力込めていた。そして新太の拳が届いた瞬間、ケイシーの左腕からは「ミシッ」っと嫌な音が脳内に響く。
ズザザッ!と殴られた衝撃で後ろにのけ反るケイシーは体勢を変えて持ち直す。
「っ!?ホントに遠慮せず殴ってくるなんて…常識無さすぎないかし…ら?」
少しでも動揺を誘おうと言葉を並べたが、目の前に立つ新太の様子が明らかにおかしいことに気付く。
「クソ…一回だけ喰らっちまった。残り5回だったか?」
新太の頭部には傷が入っており、そこから血が流れていることに気付いたケイシーは自身の攻撃は当たっていたのだと分かる。だが周囲の確認をする時間なんて無かった筈なのに目立った負傷はあまりないことに不安を感じる。
(さあ。俺はあと何分戦えるかな…)
気怠さが襲い掛かってくる体にムチを入れながら身構える新太は微弱ながらも風の魔力を周囲に出し続ける。
(怖気づくな。もう相手は倒れそうになっている…攻めるなら今でしょ!)
そう意気込むと剣が黒色に発光し始める。新太の視界からケイシーの姿が消えて背後からケイシーのハイキックが迫って来ていた。
やや反応が遅れたが新太は両腕で蹴りを受け止める。続けて飛ばされた方向に追い打ちを仕掛けるケイシーは右手に持っている剣を上から振り下ろす。
その攻撃を新太は左腕で剣が突き刺さらないように相手の手首を狙って受け止める。直ぐに右拳に魔力を込めて攻撃を繰り出すが、ケイシーはその場から離れる。
距離を作られると再び瞬間移動に苦しめられる。それだけ避けなくてはならない。直ぐに追いかけてヒラヒラと揺れている服を掴もうとしたが――。
(ぐっ!?背中に痛みが…)
血気迫る表情のケイシーをしながら2刀の剣が赤く発光し始めている。
『フレイム・スラッシュ!!』
勢いよく上から振り下ろされる炎に包まれる剣が近づいてくる。新太は真横に手を出して風を生み出し噴射して攻撃を避ける。
奇麗な着地はせずに転がりまわる。勢いが落ち着いてくると立ち上がり周囲を警戒する。
「ぁが!?」
新太の右頬に迸る衝撃が脳を揺らす。ケイシーは新太が回避した地点に瞬間移動をし、左拳で新太の顔を殴りつけたのだ。
流石の不意打ちで直ぐに立ち上がれない新太はうつ伏せで倒れていた。
「もう分かるでしょ。私とアンタじゃあ相性が悪い…これ以上戦っても私には勝てないよ」
「……例え相性が悪くても俺はそれをひっくり返さなきゃいけないんだよ…」
口から流れ出る血を拭い再び立ち上がる。
「それにさ俺、こんな所で躓いてたら駄目だからさ…俺は死ぬ気で勝ちに行くよ」
「そう…なら私はアンタを徹底的分からせる!」
剣が赤色に発光し、剣を横振りで薙ぎ払うと7つの炎が地面の上を跳ねながら新太に迫ってくる技『フレイム・ダンサー』が発動する。
(あの時また感じたあの感覚…もし俺が無自覚で造り上げた技であるなら発動条件は何なのだろうか)
新太はこの自身に起こる現象について避けながら思考を巡らせる。喰らってしまったら動けなくなる技に対して発動?それならばこれまでだって危険な技に出会っている。この線は薄いだろう。
特別な相手に対して発動?それも違う。
少し考えの視点を変えよう…自身が追い込まれて発動するというのなら、いつでも発動出来ている。だが発動していないとなると、『自身の身に起こって発動』ではなく、『相手の行動によるもの』で発動するとしたら?
(思い出せ…斬られてないのに斬られた様な感触を味わったあの瞬間を!)
敵として襲ってくる相手の動き。表情。技を。
そしてある一つの推測が脳内で導き出す。
(やるしかねえ…!)
決意を固めた新太は一つ向かって来る炎を最大威力の魔力を込めた右拳で掻き消すと、次々と向かってくる炎を打ち消していく。
(打ち消すか…けど想定内!もう私はアンタの死角に居る!)
ケイシーは新太の動きを見張る様に注意していた。もし炎を消すような行動を取った場合、その行動の途中でタイミングよく傍に移動するのを待っていた。
煙で視界を遮るケイシーの持つ剣は既に黄色に発光して雷を生み出していた。
(背中がら空き!倒せるっ!)
斜め下に2刀の剣を勢いよく振り下ろし、その衝撃により辺り一面には煙が上がって2人が見えなくなる。
(どうなった…の?痛…い?)
ケイシーは頭が何かに打ち付けられたかの様に「キーーン」と耳鳴りが鳴りやまない。ただはっきりと鮮明に分かる事はある。
「わた、し。こうげき…された?」
仰向けで倒れて、視線の先には煙にまみれた輪道新太がこちらを見下ろす様に見ている。
(何が…?私はあの時しっかりタイミングを守って攻撃を仕掛けた…それなのに逆に攻撃をを喰らったのは私!?)
焦りながらあの瞬間、身に起きた出来事を整理しようとするが結局自身がカウンターを浴びせられたしか理解できない。ひとまずカウントを止めるためにフラフラと立ち上がる。
「何が起きたが分からないって顔だな…別に俺は何にもしてねえよ?ただアンタの攻撃を避けて顔に一発打ち込んだだけだよ」
「我ながらタイミングだって守ったのに…じゃあ何?私をあの場所に誘い込んだっていうの?」
「うーん。まあ俺から言える事は一種の『未来予知』って感じかな」
「なっ…」
武器すら持っていない相手から言われた衝撃の言葉。もしかしたらこの世界にはそんな魔法があるのならば、相対している自分に勝ち目はない。と答えが出てきてしまう。
(けどそれは嘘である可能性もあるはず。仮にそうだったとしても付け焼き刃の魔法…慣れる前に倒す!)
(さっきの一撃は相手が油断していたこともあったから上手くいったけど、次はそうじゃない。恐らく遠距離攻撃を多用してくる!)
互いの思考が巡り合っていると、先に動いたのはケイシーだった。一歩後ろに下がった途端に青色に発光した剣を地面に着き刺すと、地面から水勢いよく湧き始める。
(これはさっきの『アクア・タワー』!)
湧きだしてくる水を避けつつ移動を繰り返す新太はジグザグで距離を詰めていく。
(技を散らして当たらないように立ち回っている。ならその進路を防ぐ!)
魔力を振り絞っているケイシーは鼻から血が流れているがそんなことは気にしない。新太の前方に水を出現させる。一瞬足を止めてしまった新太は横に抜けようと左を向いたが、その先から水が湧きだす。
(クソッ!)
すぐさま振り向いてその場から抜け出そうと駆け出したが、その先にも水が出現する。新太の周りにはすでに3方向水に囲まれる。
(奴の狙いは!)
新太は急いでしゃがみ込むと両手から風を生み出して真上に上昇する。そして新太の居た位置からは水が勢いよく湧きだしていた。
「はあっ!!」
空中で姿勢を整える新太は真後ろに手を向けて風を出す。そしてその加速した勢いのまま魔力を纏った足を出してケイシーを攻撃するが、剣が黒く発光してその場からいなくなった。
(違う。今のは感知でも、知らせでもない…ただの攻撃を読んだ行動だ)
風の魔力を纏ったまま地面と勢いよくぶつかった新太の蹴りは石板を破壊する。着地した途端に全身が傷つけられる様な感覚が襲ってくる。
(風の力を使って体を引き裂く!)
剣が緑色に発光させると下から斜め上に向けて剣を斬り上げる。すると風属性で練り上げられた風圧が一直線に新太に襲い掛かってくる。
体を翻して技を避けようと試みたが左脚だけが回避に間に合わず「ザシュ!ザシュ!」と斬り付けられる。
(あ、が!?間に合わなかった…この感覚全然慣れねえし、残り回数は4回か!)
転ばないように体勢を整えると四つん這いの様な姿勢から勢いよくロケットスタートを開始する。
近づいてくる新太に続けて風の刃を差し向けるケイシーは1振り1振りが大振りだったが、リーチ、破壊力は健在だった。
ケイシーの攻撃を見て回避し続ける新太は、どんどんと風船が萎んでいくかの様な感覚を小さく感じ取った。
(なんだろう…今まで大きかった線が小さくなっていっている。さっきまで力強かった勢いすらも無くなっている)
これは感知なのか、知らせなのかは定かではない。だが相手の表情を見て察してしまった。ケイシーの顔は汗や血で崩れてしまいそうになっていたのだ。
そのためかどんどん動きにキレが無くなっていくのが分かる。一振りが遅いので簡単なステップ移動だけで避けられる程だった。
避けたと同時に右からのボディブローを当てるとケイシーは簡単にその場にうずくまる。
(大量の技を広範囲で使ってたんだ。疲労で倒れるのも納得がいく)
「これ以上は危ねえぞ…俺も魔力の使い過ぎで倒れたことは何回もある。アンタの剣には弱点があった…一度属性魔法使ったあと何秒間のインターバルを挟むんだろ?」
ケイシーの持つ魔道具『
例えば火属性の魔法を扱えば、火属性は7秒間は扱えない。剣での直接攻撃は出来なくなるが、別属性の魔法は扱えることは可能である。
(アンタはもう充分戦ったと思うよ…だから)
(言わないで。それ以上の言葉は言わないで…分かってるから。それでも、いいから)
弱った体を起こしたと同時にケイシーは気合いの籠った声を上げる。
「それでも!私は否定したいっ!」
剣が橙色に強く発光すると小さな土が新太に向けられて、不意を突かれた新太は目を瞑ってしまう。直ぐに風の魔力を放出し振り払って土の霧を吹き飛ばす。
(ぐ、ぅ!ヤベ…目が)
目に先ほどの土が入ってしまい、上手く瞼を開くことが出来ないままでいる新太の姿を見ていたケイシーは雷を纏わせた1つの剣を構えていた。
(目が開けていない!今なら入るっ!)
必死の思いで左手に持っている雷を纏わせた光る剣が新太の姿を捉えていた。この一撃は入る!とケイシーはそう思っていた。
そう今までだったらの話だったのであれば――。
左から斜め下に振り下ろされる一太刀の一撃は新太には当たることは無かった。
体を反らして雷を纏った剣を避けた新太の目元には涙が溜まっており、目が少し赤く染まっていた。
事実新太の視界はしっかりと潰されていた。ケイシーが何処から来るのかさえも分かっていなかった。だが戦闘中、真っ暗な世界の中小さな線が一気に大きな線に変化するのを感じ取った。
避ける事に成功した新太が何故この動きが出来たのには少し理由がある。先程の新太は攻撃を喰らっていないのに攻撃を喰らった感覚に陥る瞬間が多々あった。それと相まって魔力の感知に感じ取った線の大きさ。
その悪癖と呼べる出来事と、自らで引き起こした出来事がこの勝負の行方を決した。
ズガアァァン!!雷の剣が地面に激突させたケイシーは避けられたことに対して驚きはしなかった。不思議と頭の中は冷静ですぐさま次の行動に移そうともう片方に持っていた剣を黒く光らせる。
「な、あ!?」
まだ目の前に居る女性は勝負を諦めていないと悟った新太はある変化に気付いた。今まで2刀の剣が同じ色に光っていたのに今は違う。一つは黄色にもう一つ黒く発光し始めている。
(不味い!コイツが2刀それぞれ別の属性を扱えるように成長したら、本当に勝ち目が無くなる!)
姿勢を整えて新太は痛みに耐えながら左手を伸ばす。消えかかっていた線がまた大きくなろうとしているのが肌でビリビリと感じ始める。
(届け…届けえ…!)
必死に手を伸ばしている時、ふと風の魔力を漏らす様に出してしまっていた。幸か不幸かケイシーのボロボロになった衣服がヒラヒラと新太に引き寄せられてくる。
目を見開いたまま伸ばしていた左手で引き寄せられてくる衣服を掴むと、消えかかっている体が実体となってその場に留まる。
「うおおおおおおおっっ!!」
左手で力一杯自身の方に引き寄せるとケイシーの顔が迫ってくる。
そしてその顔に一撃。右拳を叩きこむとケイシーはゆっくりと倒れこんでいく。
「はあ…はあ…めっちゃ厄介だったよ。ケイシーさん」
倒れてしまったケイシーは立ち上がることはなく、そのまま10カウントまで進んだことによりこの勝負は新太の勝利で幕を閉じた――。
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